第24話 学院七不思議の調査

 ある日の授業終わり、私はいつもの様に大図書館で魔力や学院の歴史に関しての本を読み漁り終え、寮へと戻った。

 寮へと戻ると、食堂の方から騒ぎ声が聞こえたので、気になり覗きに立ち寄ると食堂では、トウマとライラックの声が響き、その周りに何故か皆が集まっていた。

 私は近くにいた、アルジュに話し掛けた。


「なぁ、アルジュ。今日は何の騒ぎだ?」

「おうクリスか。あぁ、あれはとある掲示板依頼書をやるからと突然言われて、集められた奴らだよ。まぁ、僕もその一人なんだけどね」

「掲示板依頼書って、ポイントとか貰えるやつか」


 ついこの間、トウマの金猫探しを手伝ったばかりなので、掲示板依頼書の事は理解していた。

 アルジュにどんな内容かと聞くと、学院七不思議の調査依頼だと答えた。

 私はそれを聞いて、咄嗟にアルジュに、もう大丈夫と言ってその場から立ち去ろうとすると、真後ろからノルマに肩を組まれる。


「おっ、いいとこに来たな、クリス。お前まさか呼ばれた方か?」

「ひぇっ!」

「ひぇ?」


 いきなり真後ろから声を掛けられたので、思いもよらない声が出てしまった。

 すぐさま口元を塞いで、ノルマの方を見ると、きょとんとした顔をしていた。


「び、びっくりさせんなよ! 変な声が出ただろ」

「お、おう…すまん、すまん」


 私はすぐさまその場から立ち去ろうとするが、先程の声に騒いでいた皆が反応し、ステージ上にいた変な仮面をつけている2人組みにこっちに来るように言われる。

 ノルマはひとまず、私をそのまま連れて行った。

 その時、物凄く嫌な予感がしていたので、何とかその場から逃げ出そうと試みたが、仮面をつけた男に掴まり、完全に椅子に座らせられてしまう。

 すると私の顔を変なお面を付けた、トウマらしき人物とライラックらしき人物が覗き込んで来た。


「よお、クリス。いいところに帰って来たな、ちょうど人手が欲しかったんだ」

「そうそう。本当にいいところに来たよ、クリス」


 2人は変なお面を付けたまま、高笑いをし始めた。

 私はリーガに、面倒事は嫌だから逃がしてくれないかと言ったが、リーガはそれは止めた方がいいと言われてしまう。

 理由は、あの2人組みが永遠に追いかけて来るかららしい。

 だが私は諦めず、近くにいたノルマ・マックス・ケビンにも助けを求めるも、何故かそっぽを向かれてしまう。

 皆も同じ体験をしたのだと、悟ってしまった。


 何故!? 何故、今日はそんなにそっけないんだよ、お前ら! いつもなら、突っぱねたりするだろ!

 私が愕然していると、突然トウマとライラックがステージ上で膝を付いた。

 そこに、ヴァンがマントを付けた格好で現れ、その後ろにはモーガンがついて来ていた。


「同志たちよ、今日はよく集まってくれた。遂に、破格の掲示板依頼書が掲示された。この機を逃すわけには行かない! そうだろう、同志たちよ!」

「おぉー!!」

「ぉー」


 ヴァンの言葉に膝を付いていた、トウマとライラックは大声で答えたが、それ以外の皆はやる気なさげに答えた。


「どうしたお前たち! 我らのヴァン様が、士気を上げくださっているのだぞ! お前らも高らかに声を上げないか!」


 何故か物凄い熱量で、トウマが皆に問いかけるが、皆は軽くため息をついていた。


「おい、トウマ。そろそろ、それ止めろよ。何か暑苦しいし、テンションが微妙に上がらない。てか、ヴァン! 何でお前がそんなやる気なんだよ!」


 マックスの問いかけに、私も一部納得して頷いていると、トウマが答える前にそれをヴァンが止め、代わりに答えた。


「この掲示板依頼書の、学院七不思議の調査でお前をここから、追い出せると確信しているからだー!」


 そう言って、突然私に指を突き立てた。


「へ?」

「クリス、僕はお前をまだ認めていない。皆が認めていようが、僕は認めていないんだ! だから、僕はこの学院七不思議の調査にお前を巻き込むことで、怖がって恐れてここに居たくなさせてやるんだ!」

「おいおいヴァン。まだ、そんな事言ってるのかよ。いい加減に、その新参者は認めない癖、直した方がいいぞ」

「君の過去を知ってるから、何でそんな事をするのかは何となく分かるけど、クリスは君にとっても、俺らにとっても大切な仲間だぞ」


 マックスとノルマが、ヴァンを説得する様な事を言うも、ヴァンは全く聞く耳を持たない。


「うるさい! やると言ったら、やるんだ! もう、何を言ってもお前らは既に調査メンバーに入れて、提出して来たら逃げられないからな!」

「なっ!?」

「はははは! クリスの奴を見て見ろ、既に怖すぎて震えているだろ! 今回は僕ながらいい作戦だな」


 ヴァンの言葉に皆が固まり、次に私の方に視線を移した。

 その時私は、貧乏ゆすりが勝手に始まっていた。


「おいクリス、大丈夫か? 何かさっきより、顔色悪くないか?」

「そ、そんな、そんな事ないぞ…」

「ん? お前、まさか怖いのダメなタイプか?」


 マックスの言葉に、私は物凄くゆっくりとマックスの方を向いて答えた。


「ぜん、全然、全然大丈夫だ。コワクナンテ…ナイゾ…」

「おい、こりゃ完全にダメな奴だ」

「まさか、ヴァンの思い付きな計画がうまくいってしまうのか?」


 周囲の皆が私の心配をしていたが、それに答える事が出来ずに、私は完全に固まってしまった。

 そう私は、怖いものやオバケと言った関係の事が、全くダメなのだ。

 今までは誰にもバレない様に隠して来たというより、避けて来たのだ。

 なのに、よりによってヴァンの奴が、私が一番苦手な事に参加させようとしているのが、怖くなってきて思考が停止し始めていたのだ。


 ここまで来ると本当にヴァンは、私の事が嫌いだと改めて実感した。

 何でそこまで、嫌うのかは私にも分からないし、理解しようとは思わない。

 かといって、別に私が嫌がらせをしているわけでもないので、一方的な悪意を向けられているのだ。

 今までは、適当に流せてきたが、今回のは本当にダメだ! 相性も悪し、何より正常に気を保てる気がしないし、下手したら女性の方が大きく出てしまい、正体がバレる可能性がある!


 どうにかして、参加しない様に出来ないかと思ったが、既にヴァンが参加者を提出して逃げる事は出来ないと高らかに宣言していたので、私の口らか魂が出かかっていた。

 笑い終えるとヴァンは、今夜再びここに集合だとだけ言い残し、トウマとライラックとモーガンを引き連れてどこかへ去ってしまった。

 真っ白になりつつある私に、アルジュが声を掛けて来た。


「そんなに顔面蒼白にならなくても、大丈夫だぞクリス。うちの学院七不思議は、全く怖くはないからな」

「えっ! そうなのか!」


 私はアルジュの言葉に、精気を取り戻した様にアルジュに前のめりに食い付いた。

 思ってもいない反応にアルジュも、少し驚いていたが、そうだと答えた。

 そして、その場でアルジュを含めその場にいた皆が、学院七不思議について教えてくれた。

 学院七不思議は、簡単に言えば不思議な現象がいつの間にかに、そう言われる様らしいが、そもそもそんな現象自体を実際に見た、体験した人がいないらしい。


 なんせ噂は少しづつ変わっており、その全てが基本的に過去の先輩からの話を聞いて、受け継がれてきているものだった。

 先輩から後輩へと、年々繰り返す様に受け継がれていて、中には実際に確認した者もいたが、実際には体験出来なかったと聞いていたのだ。

 それで学院七不思議もなくなると思われたが、いつの間にか少し新しくなった、学院七不思議の噂が復活していたらしい。


 そんな事もあるので、本当の所は分からないが、基本的には新入生脅しで、その姿を先輩が楽しむ与太話と言うのが、一般的らしい。

 何故か皆は、少し乗り気に教えて欲しいとは一言も言っていないのに、学院七不思議も教えてくれた。



 その1は、オオカミ寮の一室から夜中になると突然、何か金属を叩く音が響くらしい。噂では、過去にここで亡くなった者が、恨みを誰かに晴らすために刃物を打ち直している音と言われている。


 その2は、ライオン寮の付近で夜中になると、白い衣服を来た集団が現れるらしい。しかも、呪いの呪文を唱えながら、迫って来るのでそれが聞こえたら真っ先に逃げないと、恐ろしい目に遭うらしい。


 その3は、カモメ寮の裏に何かを置いたり、捨てたりと何かしら物を置いておくと、背後から何かに覆われるらしい。カモメ寮の裏地は、過去に色々な物が発掘されたりしているため、そこに住む霊の仕業だとされている。


 その4は、スネーク寮ののぞき穴を覗くと、向こう側からも丸い瞳がこちらを覗くらしい。そして、目玉置いてけと言う声が聞こえて来て、体が動かなくなり気を失ってしまうらしい。


 その5は、夜中に学院の正門向かって、瞳を閉じたまま向かい、あるおまじないを唱えると魔獣が現れるらしい。噂では過去に女子生徒がやった際に、巨大な魔獣が真上から現れたらしい。


 その6は、男子側の校舎の一階廊下にて、一人で歩いていると悪魔にさらわれるらしい。とある生徒が、忘れ物を取りに行った日、悲鳴が響き渡り、次の日になるまで帰って来ず、帰って来たその生徒は完全に精気を失っていたんだと。


 その7は、魔女の亡霊と言われ、真夜中のどこかの校庭にローブを来た魔女が現れるらしい。その魔女を見た者は、今までで一番の恐怖体験をすることになるらしい。



 という7つが、今の学院七不思議らしい。

 アルジュたちは、少し笑いながら話していたが、私は完全に真に受けて震えていた。

 するとアルジュは、とりあえず俺たちもいるし、適当にヴァンに付き合ってやれば気も済むから大丈夫だと、優しい言葉を掛けてくれた。

 皆も全く怖がる雰囲気もなく、大丈夫と言ってくれたので、私は渋々頷いた。


 一応念のため、本当に大丈夫なんだよなと少し強めに確認すると、全くもって問題ないと皆は言い切った。

 その言葉を信じ、私はヴァンが強制的に参加者にさせた、学院七不思議の調査に参加するのだった。

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