第25話 魔女の亡霊

 日が沈み、就寝時間を過ぎたころ、オービン寮ことオオカミ寮の食堂には、ヴァンに呼び出された寮生たちが集まっていた。

 そこには、ヴァン・トウマ・ライラック・モーガン・リーガ・マックス・ケビン・アルジュ・ノルマ・シン・シンリと私がいた。


 この場にいない他の奴らは、ヴァン自体に事前に招集をかけられても無視した奴らだ。

 じゃぁ何故集まった奴らは、無視しかなったと言うと、依頼書に完全に指名されていたからだ。

 掲示板依頼書には誰に受けて欲しいか指名できるのだが、そこに記載された人物は必ず受けなければいけないのだ。

 だが指名する分、発行時のポイントも多くなり、支払うポイントもあるので、ほとんど指名制の掲示板依頼書はないのだ。


 しかし、今回の掲示板依頼書は、なんとヴァン自らが発行していたのだ。

 更に何故トウマとライラックが、あそこまで乗り気だったかよ言うと、参加すれば少し多めにポイントを渡すと裏取引をしていたためだった。

 そんな事を後々知ったが、既に学院七不思議の調査は開始されており、早速ヴァンを先頭に学院七不思議その1から回る事になった。

 他の皆は全く怖がっていなかったが、私とシンリだけは震えていた。


 同じ人を見つけて、私はシンリと一緒にマックスやノルマの後ろに隠れながら進んだ。

 道ながら、怖がり過ぎだと笑われたがこればかりはどうしようもないので、うっさいと言いながら後ろを歩て行った。

 そして、学院七不思議その1の場所に着くと、いきなり金属を叩く音が響いた。


 突然の事に、皆もビビりだし、まさか本当に起こるとは思わず発案者のヴァンもビビっていた。

 怖くないぞとシンリが突然声を上げると、目の前の扉がいきなり開き、そこからタンクトップ姿のガウェンが現れた。


「何やってんだ、こんな時間に。それも大人数で」

「えっ、ガウェン? 何だ、その部屋?」


 ガウェンが出て来た部屋は、鍛冶屋の様な道具や窯があり、異様に暑かった。


「ここは、昔の先輩が開拓した部屋らしい。第1学年の時に、偶然見つけてな、それ以来誰にも見られない様に魔道具の試作品をここで試したりしてるんだよ」

「じゃ、学院七不思議その1の謎の金属を叩く音っていうのは…」

「七不思議? 何だか分からんが、ここでは金属も叩いたりしてたな。もしかして、うるさかったか?」


 それを聞き、皆の強張った体が緩んだ。

 結局の所、学院七不思議のその1は、ガウェンの魔道具造りが元になっていたものだった。

 その後ガウェンは、また作業に戻って行くが、マックスが見学してもいいかと問いかけ、許しを得たのでその場で離脱してしまった。

 ヴァンもそれを引き留めることはせず、次の七不思議へと向かい始めた。

 私とシンリは、大事な戦力を失ったと叫びながら、次の場所へと連れていかれた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後、学院七不思議のその2から4を確認しに行くと、現象に立ち会えてしまう。

 だが、全てその1の時と同じ様に、その寮特有の練習や慣習の結果だった。

 皆はそれぞれ現象に出くわすと、一旦ビビり私とシンリは声を上げたり震えたりしていたが、最後には同じような結末なので、怖くなくなり始めていた。


 そして今は学院七不思議のその5の確認の為、学院の正門に来ていた。

 ここでは何故か私が、正門の方へと向かわされ、その場で渡された呪文を唱えた。

 既にその時の私は、全く怖くなっていた。何故と言うと、どうせこの学院七不思議も同じような感じだろうと、決めつけていたからだ。

 呪文を唱え終えると、突然両隣の木々が揺れ出し、体がびくっとなった次の瞬間、木々の上から突然丸っこい生物が降って来た。


「なっ、何だ!?」


 私がその方向に、事前に渡された光で照らせる魔道具を向けると、数体の猫が喧嘩していた。


「猫?」


 少し離れた場所にいた皆も、私の方へ近付いて来た。

 その状況を見たアルジュが言うには、正門付近の木々にはよく猫が集まっているらしく、それが誰かが学院七不思議を確認しに来た時に、偶然現れた猫の集団を驚いて、魔獣と言ったんじゃないかと言っていた。

 その見解に皆も確かにあり得ると、頷いていた。


「あ~もう! 次だ! 次に行くぞ、お前たち!」


 ヴァンが声を上げて次の学院七不思議の場所へと向かい始めた。

 私たちは、この後の結果も同じだろうなと思いながら、渋々とその後を付いて行った。

 ちなみに、トウマとライラックは、学院七不思議その4が終わってからは普通に戻り、皆と談笑をしたりしていた。


 そして学院七不思議のその6の場所に着くと、少し飽きて来たのかトウマが挙手して見てくるわと言い出した。

 ヴァンの計画では、ここも私に向かわせる予定だったらしく、まさかのトウマの挙手に焦っていた。

 トウマもここまで来ると、どうせ大したものじゃないから誰がやっても同じだよと言うと、颯爽と一人で廊下を歩いて行ってしまう。

 その後ろ姿を、私たちは見守り、軽く手を振って帰りを待っていた。


 数分後、遠くからトウマの悲鳴が聞こえて、私たちに緊張が走る。

 すると、トウマが歩いて行った方から、足跡が聞こえ徐々に近付いて来る。

 私たちはほぼ同時に、唾を飲み込み、まさか本当に悪魔が出たんじゃないかと思っていると、その悪魔は突然私たちの前に現れた。


「お前ら、こんな時間に何やってんだ」

「ギャー―! 出たーー! 悪魔ーー!」


 真っ先にシンリが声を上げて逃げ出すと、私は目の前に現れたのが悪魔でも、違う悪魔だと知ってしまう。


「えっ、タツミ先生…」

「お~なるほど、悪魔は悪魔でも、医務室の悪魔だったとは。これはこれで、学院七不思議として成立してるな」


 ヴァンが変な所に関心していると、タツミ先生に頭を掴まれる。

 タツミ先生の片手には、気絶したトウマを引きずっていた。

 それを見て、ヴァンを置き去りにして他の皆は逃走した。


「ちょ、ちょっと、お前ら! 逃げるなよ! 助けてくれー!」

「ったく。何してんだよ、お前らは…とりあえず、2人は捕まえたから、お前らからゆっくりと話を聞かせてもらおうか」


 ヴァンの叫びが、逃げている私たちの耳に入ったが振り返らず私たちは、校庭へと逃げ切った。

 その後、ヴァンとトウマは、医務室の悪魔にとてつもない目に遭っているのだろうと考えつつ、尊い犠牲は無駄にしないと私たちは夜空に誓うのだった。

 人数も少なくなり、発案者のヴァンもいない事から、校庭から寮へと戻る事にした私たちの視線の先に、突然青白い炎の柱が一瞬上がる。


「な、何今の…」

「青白かったよな……誰かいるのか?」


 私たちがざわざわしていると、アルジュがボソッと呟いた。


「魔女の亡霊…」

「っ!?」


 それは学院七不思議のその7であったが、さすがにこれも今まで通りくだらない事だろうと笑っていたが、その時再び青白い炎の柱が2本上がる。

 私たちは互いの目を見て、確認してしまおうという事になり皆がその方向へと近付いていく。

 私とシンリは止めて帰ろうと進言するも、どうせ今まで通りくだらない事だから大丈夫と言って、行ってしまう。

 その場に2人で残るのも怖いし、帰るのも怖い為、皆の後ろを付いて行った。

 そして校庭端の茂みへと入って行くと、開けた場所ありそこが微かに明るくなっていた。

 草木に隠れて覗くと、そこにはローブを被った人物が何かを唱えていた。


「(魔女の亡霊!?)」


 その場で覗いた全員が、そう考えているとシンリが突然気を失い倒れてしまう。

 その音によって、私たちの存在に気付かれてしまう。

 私は咄嗟にシンリと同じように、伏せてしまうが、他の皆は魔女の亡霊に近付いて行く。


「いや、申し訳ない。俺たちはその…学院七不思議の調査してて、たまたま青白い炎の柱を見かけて来たんだが、もしかしてあんたは魔女の亡霊か?」


 ノルマが、魔女の亡霊に問いかけるも反応はなかった。

 リーガやケビンは、どうせうちの生徒の誰かではないかと言い出し、ローブを取ってくれないかとお願いすると、魔女の亡霊は一度背を向けた。

 その行動に、皆が首を傾げると次の瞬間、魔女の亡霊が振り返りその場の全員に光を放った。


 光を食らった皆は、その場で力が抜けるように倒れると、眠ってしまう。

 魔女の亡霊は他にまだ誰かいないかと周辺を捜していると、伏せて震えている私を見つけて近づいて来る。

 私にも皆に放ったのと同じ様な光放とうとするが、私の変な独り言を聞いてしまい噴き出した。


「食べないで、食べないで、食べないで、食べないで、食べないで、食べないで、食べないで」

「ぷっ、あはははは、たべ、食べないでなんていう普通? あはははは、ちょっと、待って、面白過ぎよ貴方」

「えっ?」


 私が起き上がると、魔女の亡霊は爆笑していた。

 変な光景に私はどうしていいか分からず、突っ立ていた。

 すると魔女の亡霊の笑いが収まると、ローブを脱ぐとまさかの人物が露わになった。


「急に笑ってしまって、ごめんさいね。私よ、覚えているかしら」

「えっ、え!? 何で、貴方がここにいるんだ、二代目月の魔女!」


 そこにいたのは、二代目月の魔女ことジュリルだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る