友達以上恋人未満


「さっきのは今後なしね」


勘の悪い俺でもわかる。

彼女が言葉を濁す"さっきの"は、帰り際でのキスだ。



平日で人が疎らな大型ショッピングモールで洋服探しや映画鑑賞を堪能した後、車に乗り込んだ時の不意打ちのキス。


彼女が困惑していることが、唇越しで分かった。

何よりも、気持ちが全然伝わってこなかった。


すぐに彼女は顔を逸らすと、


「さ、帰ろ」


と何事もなかったように帰りを促した。


同じ様に、俺も何もしなかったように車のエンジンをかけ、アクセルを踏んで駐車場を後にした。


帰路へ向かう途中、車内は特に気まずい雰囲気ではなかった。

いや、そのような雰囲気にしまいと彼女が無理に楽しく振る舞っていただけかもしれない。


彼女とは大学で出会い、友達以上恋人未満とかいう、片想いの奴にとっては耳にしたくもない残酷な関係が2年間続いていた。


だから今日、その関係を打破しようと試みたが、ダメだった。


「さっきのは今後なしね」


彼女の家に到着し、サイドブレーキを引いた俺にそう告げる。


「君とは友達のままでいたいから、ごめんね。

でもまたどこかお出掛けとかしようね」


彼女からの失恋宣告に、俺は苦笑いか愛想笑いかよくわからない笑顔を作った。

そして、左手の人差し指と親指で輪っかを形成し、その承諾を呑み込んだ。


「またね」


彼女は助手席から降り、俺が車を出すまで手を振って見送ってくれた。


1人車内でぼんやり考える。


"やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい"


今日彼女にキスをしなかったら、大好きな彼女に想いを隠したまま友人関係を続けることができただろうが、俺の気持ちは苦しいままだ。

自分の気持ちに嘘をつき続けるのが、もう限界だった。


これで良かったんだと思う。

後悔はしていない。



『言葉じゃない 僕の確かな ほろ苦いこの想いきっと伝わらない。

君は何も知らぬ顔でまた僕を振り回すのだろう』



カーステレオから流れるこの曲を聴くたびに、もう会うことのない彼女のことを思い出すのだろう。

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