友達以上恋人未満
「さっきのは今後なしね」
勘の悪い俺でもわかる。
彼女が言葉を濁す"さっきの"は、帰り際でのキスだ。
・
・
・
平日で人が疎らな大型ショッピングモールで洋服探しや映画鑑賞を堪能した後、車に乗り込んだ時の不意打ちのキス。
彼女が困惑していることが、唇越しで分かった。
何よりも、気持ちが全然伝わってこなかった。
すぐに彼女は顔を逸らすと、
「さ、帰ろ」
と何事もなかったように帰りを促した。
同じ様に、俺も何もしなかったように車のエンジンをかけ、アクセルを踏んで駐車場を後にした。
帰路へ向かう途中、車内は特に気まずい雰囲気ではなかった。
いや、そのような雰囲気にしまいと彼女が無理に楽しく振る舞っていただけかもしれない。
彼女とは大学で出会い、友達以上恋人未満とかいう、片想いの奴にとっては耳にしたくもない残酷な関係が2年間続いていた。
だから今日、その関係を打破しようと試みたが、ダメだった。
「さっきのは今後なしね」
彼女の家に到着し、サイドブレーキを引いた俺にそう告げる。
「君とは友達のままでいたいから、ごめんね。
でもまたどこかお出掛けとかしようね」
彼女からの失恋宣告に、俺は苦笑いか愛想笑いかよくわからない笑顔を作った。
そして、左手の人差し指と親指で輪っかを形成し、その承諾を呑み込んだ。
「またね」
彼女は助手席から降り、俺が車を出すまで手を振って見送ってくれた。
1人車内でぼんやり考える。
"やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい"
今日彼女にキスをしなかったら、大好きな彼女に想いを隠したまま友人関係を続けることができただろうが、俺の気持ちは苦しいままだ。
自分の気持ちに嘘をつき続けるのが、もう限界だった。
これで良かったんだと思う。
後悔はしていない。
『言葉じゃない 僕の確かな ほろ苦いこの想いきっと伝わらない。
君は何も知らぬ顔でまた僕を振り回すのだろう』
カーステレオから流れるこの曲を聴くたびに、もう会うことのない彼女のことを思い出すのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます