第11話 七海白兎は誘われる

 部活に行ってから二日が経った金曜日。ランキングの集計用紙も準備し終わって、後は家に帰るだけ。この集計用紙を教室の男子の机に忍ばせるときが一番緊張する。バレたら優凪先輩や校長に怒られるからね。絶対失敗できない。


 ちなみに水曜日は、あの後特に何かある訳でもなく、集計用紙のチェックをして帰った。優凪先輩がいつもより喋ってなかったのが気がかりだったけど、部活以外で繋がりがないので真相は闇の中。まぁ大したことではないだろうとは思ってる。


「さて……帰りますか」


 教室を出て、玄関に向かう。


 今日の配信はコラボでランク。久々に身内じゃないコラボだから楽しみだなぁ……。なんて思いながら、玄関を出──


「七海君」

「うぉぉぉぉぉぉ!!??」


 なんで! そんな! 柱の裏なんかで隠れてんの!?


「あっ、ご、ごめんね!? もうちょっと分かりやすいとこにいればよかった……」

「うん、ほんとに」

「うぅ……ほんとにごめんね……」


 結構凹んでるように見えるけど、僕も本気で心臓止まるかと思ったから全くフォローできない。


 完全に意識の外から声掛けられるのやばい。人が死ぬ。


「……でもなんでこんなところに?」


 放課から結構時間も経ってるし、琴羽なんて、陽キャの中でも上の方なんだし、放課後の予定なんてびっしりのはず、なのになんで僕なんかのために待ってたのか全然分からない。


「あ、えと、それは……その……」


 単純な質問のはずだったんだけど、琴羽の顔はみるみるうちに赤くなって、目が泳いでこっちを見れなくなっていく。

 えっ、と……僕なんかやった? そんな琴羽が恥ずかしがるような用事なの?


「い、いい一緒にお買い物とかどうかな、って」

「行く、絶対行く」


 まさかのデート(?)のお誘いだった。


 え? ただ出かけるだけだろって? 男女で出かけたらもうデートでしょそんなの。



 ──────────



 行先を聞いても「内緒♪」って感じで、教えてくれない琴羽が、僕を連れてきたのは、ショッピングモールでもオシャレなカフェとかでもなく、駅前の家電量販店や、その他電気機器関連の店が立ち並ぶエリア。


 正直、琴羽とは無縁……というか、全く似合わない場所なんだけど、なんで……?


「今日は、ハクさんが使ってるパソコンを買おうと思って」


 そう言って、琴羽が立ち止まったのは、割と有名なPCショップの前。


 ……うん、まぁそりゃあそうか。琴羽が好きなのは『七海白兎』じゃなくて『ハク』なんだしね。こんな事で暗くなってはいられないし、別にいいけども。


「そっか、じゃあ一応確認しておくけど、五十万はあるんだよね?」

「へ?」


 僕の言葉に、ポカンとした顔でこちらを見る琴羽。この顔は、二十万とかで買えると思ってたな、こいつ。


「一応、僕だって配信者の端くれだし、そりゃあいいPC使ってるに決まってるでしょうが」


 いや、普通の人だったら二十万ぐらいでいいやつが買えるのか。確かに普通に生活するだけならゲーミングPCとか使わないし見ないし。


 どうしようかなー、と考えていると、琴羽が恐る恐るという感じで聞いてくる。


「え、えっと、確認なんだけど……ハクさんが使ってるPCって三つあるよね」

「あるね」

「それ全部形も違うよね」

「うんまぁ、小さな違いだけども」

「…………あの中で一番高いのが五十万だよね?」

「いや、一番安いのだね」


 琴羽の顔が、青を超えて白くなっていく。そりゃそうなるとは思ってたけど、予想以上……ていうかフラフラしてて危ない!?


「……五十万で一番安い……高校生が……五十万で……」

「あ、あはは……」


 フラフラの琴羽を支えると、そんな呪詛みたいな呟きが聞こえてきて、正直笑うしかできない。まぁ、琴羽の言ってることは至極真っ当で、僕の方がおかしいんだけどね。配信者まじやばい。


「……とりあえず近くのベンチ座ろうか」

「……五十万……」


 ……多分この五十万は肯定の意だね! そう思っておこう!


 幸い駅前ということもありベンチは大量にあって座れたんだけど、琴羽どうしよう。このままだと家に帰るのもままならない気がする。


 ……なにかハクとおそろいになるもの……なるもの……うーむ。


 あるにはあるけど、こんな物で喜ぶかな……?


「ねぇ琴羽」

「……なんですか」


 考えてる内に膝枕させられてるんだけど……まぁいいか、昔も拗ねたりしたらこんな感じだったし。


「僕が前使ってたPCあげるって言ったら、欲しい?」

「欲しい!! いくら!? 百万!? 二百万!? ハクさんの使用済みとか世界で一つのレア物、欲しくないわけない!!」

「そ、そっか……」


 ほんと、ハクはすごいなぁ……一瞬で琴羽立ち直っちゃったんだけど。そうと決まればってもう帰ろうとしてるし。


「白兎ー! ほら早く! 帰ろー!」


 呼び方も昔に戻ってるし……僕としてはこっちの方が嬉しいですけども!


「はいはい、すぐ行くからそんな急かさないで」


 ……全部、『ハク』のおかげだなぁ……なんて思いながら、僕も琴羽の後を追いかける。





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