第10話 七海白兎は部活に行く

琴羽と遊んだ週末が終わり、少しでも学校でも話したりできるかなー、とか思ってたりしてたんだけど……。


はい、何も変わらないまま水曜日になりました。


いや、月曜日の時点でなんとなく察してたよ? でもさ、期待したいじゃん! 何かしらあるかなって!


まぁ、今日はそんなことより大事な用があるんだけどね。


それに関連してるのが、俺が通っている高校の七不思議ならぬ八不思議。誰がやってるか分からない学内人気ランキングだ。食堂メニューからイケメン、美少女ランキングまで、なんでもござれの謎ランキング。


……ここまでくれば何が言いたいかわかった人もいるかもしれない。俺こそ、その謎ランキングを企画している組織に参加している一人なのだ。


部活棟の一番人気のない四階の、さらに一階上がった五階の、階段から一番遠い教室。その教室の床にある隠し階段の先。よくこんな忍者屋敷みたいなもの作ったな、と心から思う場所にあるのが、その組織こと、ランキング部。校長先生が顧問をする、隠された部活動である。


「こんちは〜」


扉を開けると、まるで校長室かのような高級感のある部屋に出迎えられる。


壁には歴代部長の写真が額に入れられて並んでいたり、今までのランキングの記録がされている、無駄に高そうなハードカバーの本がずらりと本棚に並んでいたり。


そのせいで、もう両手で数えられない程はここに来ているはずなのに、いまだにここの雰囲気には慣れない。


そんなランキング部の部室の中央。一際高そうな木製デスクで、ぼんやりと入口と逆を向いて、黄昏ているのが、ランキング部部長、かがり優凪ゆうな先輩。


腰まである緩くウェーブのかかった黒髪と、同じ色に輝く猫目。155ないと言っていた身長にそぐわないたわわに実った二つの果実。そして、妖艶さを引き立たせる少し薄めの黒タイツ。刺さる人にとってはめちゃくちゃに刺さる特化型美少女さんだ。


そんな優凪先輩が、僕が来たことに気づいて、高そうな社長椅子から降りて僕の方に歩いてきて、笑顔で紙パックを差し出す。


「やぁ、待ってたよハクト君。まずは……いちごオレでも飲むかい?」

「優凪先輩の分は……」

「ボクの分かい? もちろんあるとも」


そして、僕の疑問に答えるようにもう一つ紙パックをどこかから取り出す。そっちはもうストローが刺さっていて、言い終わると同時にストローに口をつけて、幸せそうにはにかむ。


「うみゃ〜、やっぱりいちごオレは最高だね! ほら、ハクト君も!」

「あはは……じゃあいただきます。でもお金は後で置いときますね」


幸せそうな優凪先輩を見るのは、こっちも幸せな気持ちになるしいいんだけど、ここに来る度にいちごオレ貰ってて、さすがに申し訳ないんだよね。


「む! 毎回言ってるだろう? お金入らないと。ここに来てくれるだけでボクとしてはとってもありがたいんだからさ」


こんな感じで毎回受け取りを断られちゃうから。優凪先輩の好意を否定するわけじゃ全くないんだけど。やっぱりこう、毎回毎回だとこっちの罪悪感というかが……ね?


「まーたそんな顔して! キミはどれだけ謙虚なんだよ、全く! 日本人らしいというかなんというか本当に……! そこがいいところでもあるけど悪いところでもあるのがなんとも言えなぁい!」


ぬぁー! と頭を抱える優凪先輩を、僕は苦笑いしながら見ることしかできない。


「待ってろハクト君! こうなったら何か代替案を出すべきなんだ!」


こんな熱い優凪先輩初めてだなぁ、とか思いながら、待つこと十数秒、優凪先輩は、ガバッと顔を上げて、僕の手を掴んだ。


「毎週一回でいい! ここに遊びに来てくれ!」

「え」


いや、そんなこと? ていうか毎週来たらいちごオレ貰う数増えない? ……まぁ、優凪先輩がそんなことでいいって言うならそれでもいいんだけど……。


「イヤなら別に断ってくれても構わないよ。でもその場合ハクト君はボクに恩を返すチャンスはなくなるしボクは一生誰もいない部室に一人で学校が閉まる時間までいるとかいう苦痛を味わう羽目になるんだけど?」

「他の部員は?」

「軽い会釈だけしてすぐ出てくよ?」

「えと、じゃあ友人とかは……?」

「いたら毎日こんなとこにいないと思わないかい?」

「すいませんでした」


ほんとに悪気はなかったんです。


「優凪先輩美人だし話しやすいし、友人とかも多いのかと……。あっ」

「それは本当かい?」

「い、いえ──」


ニヤァっと笑う優凪先輩に、違います。なんて事実でもないことを言えるはずもなく、次の言葉が出る前に、優凪先輩にいちごオレで口を塞がれた。


「お世辞として受け取っておくよ。それがハクト君のためでもありそうだし……(そうしとかないとボクの方も整理がつかないし、ね)」

ふぁいはいりょうはいれふ了解です


後半の方は聞き取れなかったが、聞きたくないんだろうし、それは聞かないでおくのが普通かなと思う。


……てか優凪先輩、新しいいちごオレ出してるけどこれって優凪先輩の……?

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