第8話 七海白兎は幼馴染みにゲームを教える その一
朝食を食べてすぐ琴羽が洗い物をしている隙を狙って例の漫画を処理してから、二人でだらだらと午前中を過ごし、お昼も食べて午後二時。二人で僕の部屋に戻ってきて、もう既に一時間。
なんで琴羽帰らないの……?
昨日泊まった理由って僕の看病じゃなかったっけ。だとしたらもう帰ってもいいはずなんだけど……。
昼ご飯食べ終わってもう結構経ってるし、ここにいる理由が琴羽にはない。
何回か琴羽の方を見たりもしてるけど、可愛く首を傾げたり、にこっと笑い返してくれるだけ。
全っ然何考えてるかわかんない!
嫌じゃないよ? 全くこれっぽっちも嫌じゃないよ? でもさ、会話がないのは気まずいんだよね!
「あ、あのさ、七海くん」
「な、何かな!?」
実に一時間ぶりに声を出した結果、めちゃくちゃ声が裏返った。琴羽から話しかけてくれたのは嬉しいし助かるけど、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ゲーム、しないの?」
「はっ!?」
「……もしかして忘れてた? あんなに勇気出して頼んだのに?」
「い、いや、覚えてたよ? ちょーっと考え事してただけで……」
「ほんとに?」
「…………ほんとごめんなさい」
弁明の余地もございません。
過去一綺麗に土下座をキメる。よく考えたらそもそも琴羽がここに来た理由がゲームするためだった。さすがにそれを忘れてました、は怒られてもしょうがない。
まぁ、琴羽自身は全然怒ってるつもりなかったみたいでしゃがみこんでわたわたしてるっぽい。
なぜ「ぽい」なのかと言えば、顔をあげることができないから。もっと具体的に言えば、顔をあげたら目の前に琴羽のパンツがあるはずだからだッ!
目ェ瞑ればいいでしょって? それで顔上げた時に琴羽に突っ込んだら悪いじゃん。いや決してあわよくばパンツ見たいとか思ってないから。いやほんとに。……嘘ジャナイデスヨ?
「えと、ほんとに怒ってないから、頭あげて……!」
「あの……ほんとに……」
「ねぇ……頭あげてよぉ……ぐすっ」
「わああああああ!! ごめん、ごめんね!? だから泣かないで!?」
僕の知ってる琴羽の数倍涙脆いんだけどほんとに何があったのこの娘!? 長らく関わりがなかった僕では扱いきれないんだけど!?
ていうか顔上げたはいいけどどうすればいいの!? 頭撫でるとか抱きしめてあげるとか昔はやったけど今は無理だし!! 理由正直に言うのは絶対悪手だし!!
選択肢がひたすら謝るしかない!?
「ごめんなさい顔上げたら琴羽のパンツが見えちゃう位置だったのでなにかの拍子に上手いこと見えないかなとか思ってました」
「えっ」
「あっ」
……僕今なんて言った? 絶対さっき「悪手」って考えてたことやったよね? 理由そのまんま全部喋ったよね今!
本日二回目の青春クラッシュチャンスなんですけど! しかもさっきより絶対状況悪いんですけど!
「「……………………」」
やばい琴羽の返答が怖すぎて顔見れないし冷や汗が止まらない……!
何言われる……? 失望される? それとも蔑まれる? それとも──
「な、七海くんの……えっち……!」
「ゴフッ」
片手でスカート、もう片手で胸を隠す仕草は最高に可愛かったとだけ、言っておこうと思う。
──────────
「……さて、これで準備も終わったし、やりますか」
「はい! ハクさん!」
あの後すぐに、今度は琴羽を困らせない程度に謝り倒して、空気を変えるために『ハク』になって現在に至る。と言っても、『七海白兎』がマスク付けて話してるだけなんだけど。
……でもまぁ実際僕が望んだ通りの効果はあって、琴羽のテンションは爆上がりしている。
なんでも、
「やっぱり配信とリアルじゃ感動が違う!」
なのだそう。まぁ気持ちはわかるけどね。『七海白兎』としてはちょっとショックではある。
「まずは……とりあえず、琴羽ってゲームやった事ある?」
「ないです!」
「まじかよ」
「大マジです! ハクさんのプレイ見てたので上手くやれる自信はあります!」
胸を張ってドヤ顔でこっちを向く琴羽。いやかわいいけど!
でもそれ勘違いってやつだよ、自分より上手い人見て「これぐらいなら自分でもできるでしょ!」って思ってやって失敗するやつ。
……でも、こんな自信満々でいる琴羽に「そんなことない」とか言いづらすぎる……。
うん、まぁ、一回やらせてみようかな、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないし。
「じゃあとりあえず説明するね? 基本操作は──」
──────────
「ううううううううう〜〜〜〜!!」
結論から言えば、琴羽は絶望的にセンスがなかった。僕と同じキーボード・マウスでかれこれ二時間くらい練習したんだけど、やってる事が二時間前と全く変わってない。
琴羽がやろうとしているのはFPSゲーム。つまりは敵に弾を当てなきゃいけない。そこで必要になってくる基本中の基礎がリコイルコントロール。銃の反動制御だ。銃ごとに特徴があって、めちゃくちゃ上に跳ねるもの、左右にブレるもの、そのどちらもそんなにないもの。
初心者どころかゲームすら初体験の琴羽には、もちろんこのゲームで一番リコイルがやりやすい武器で練習してもらっているんだけど……。
「なんでよ……どうして弾が当たらないのぉ……?」
さすがにもう一時間近く半泣きでゲームしてる琴羽を見るのは辛いから止めたい。ていうか何度も止めてるんだけど、モニターの前から離れてくれない。
「ねぇ琴羽? そろそろ諦めて──」
「やだ! まだ諦めない!」
言うと思ってたけど、もうそろそろ僕の方が限界だ。申し訳ないけど、手をマウスとキーボードから離さして貰う。
「あぅっ……」
「……見てるこっちが辛いから、本当にやめて」
「でも……」
「でもも何もない。このゲーム、キーボード・マウスでしかできない訳じゃないんだから、他のも試さない?」
好きな配信者さんとかの真似をしたくなる気持ちは分からなくはないけど、それで楽しくゲームが出来ないのは別問題。
「これでもし、こっちでやってもダメだったら、ゆっくり練習してこ? 別に今日だけしかできない訳じゃないんだから」
空っぽになった琴羽の手にコントローラーを握らせて、優しく頭を撫でる。軽々しく触っていいもんじゃないけど、今は致し方ないと思いたい。
「ん……じゃあこっちでがんばる」
嫌がられたらどうしようとか思ってたけど、とりあえず機嫌が直ってよかった。
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