第9話 七海白兎は負けず嫌い
あ……ありのまま今起こった事を話すよ。
『僕は今、一時間前にPAD(コントローラー)に切り替えたばかりの琴羽に敗北した』
な……何を言っているのかわからないと思うけど、僕も何をされたのかわからなかった。
「ま、マジか……」
「は、ハクさん倒しちゃった……」
どうやら倒した本人も衝撃なようで自分のキャラの前に四つん這いになっている僕のキャラを見たまま固まっている。もちろん僕は手を抜いたつもりはないし、調子が悪い訳でもない。結構な数戦った中の一回でしかないけれど、僕が琴羽に負けたのは事実だ。
でも琴羽の顔はあまり嬉しそうじゃない。あれかな、自分の尊敬してた人があんまり強くなくて幻滅してるとかかな。だとしたらちょっと……いや大分悲しいわ。
なんて考えてる僕も、嬉しいような、悲しいような、なんとも言えない感覚だ。なんて言ったって、琴羽の動きは完全に僕の模倣だから。
さっきまでできなかったことを完全に自分のものにして、僕に勝った。
…………ふぅ、だんだん自分がどんな気持ちなのかわかってきた。これあれだ、一部方面の人から怒られるかもしれないけど、久しぶりで忘れてた。
「んー! 悔しい! もう一回!」
このゲーム、バトルロワイヤルゲームということもあって、漁夫の利で負ける事は多いけど、対面の一対一で負ける事はほとんどなかったので、久々にちゃんと正面から叩き潰されてめちゃくちゃ悔しい。しかも自分の動きを真似ている人にだよ? 言い方悪くすれば、パクりに負けたんだよ?
「ん? どうしたの琴羽、もう一回だよもう一回。てか次から僕が勝つまでやるから」
ぼけーっとこっちを見たままの琴羽にもう一回コントローラーを握らせて画面に向き直る。次はどうしようか、PADにはエイムアシスト(敵を照準に収めやすくするアシスト)もあるしエイムは僕と同等ぐらいって考えて……よし、これでいこう。
「準備できた?」
「は、はい、大丈夫です」
うーん、なんかやる気なさそう。そんなに僕に勝ったのがショックだったのかな? そんなふうに思われるとちょっとなぁ……。
「あのさ、何勘違いしてるのか分からないけど、こんだけやってたったの一回勝っただけでショック受けるの? なんだこんなもんか……ってなるの? じゃあ勝つまでって言ったけど変えるね。ここから五回、僕は一度も琴羽に負けずに一対一を勝ち続けて、二度とそんなにふうに思えないようにしてやる」
僕にだって、プライドはある。その反応だけはいくら琴羽でも許せないな。
「じゃあいくよ」
「は、はい」
さっきとは違って、ちょっと怯えたように声が震えている。ごめんね琴羽。でも、ここだけは譲れない……!
僕の武器はショットガンと一発の威力の高いマグナム。対して琴羽はショットガンとサブマシンガン。いわゆる当たれば強い構成と安定して強い構成の戦いだ。
「絶対勝つ」
スタートの合図と共に僕は一番近くの遮蔽物へ。琴羽はおそらくお互いのスタート位置のちょうど真ん中にある大きめの遮蔽の上だろう。
「だいたいこの辺でしょ?」
予想を立てて一瞬だけ体を出して撃ったマグナムの弾は見事琴羽のキャラの頭に当たって大きくダメージを入れて、足音から琴羽が高所を手放したことを確認してすぐに前へ。そのまま高所からさらに胴体に一発。武器をショットガンに持ち替え、高所から飛び降りながら空中で軌道を曲げて琴羽の弾を避けつつショットガンの弾を顔面にぶち込んでフィニッシュ。
僕のHPはシールドも合わせた225の内75ぐらいしか削れていない。僕の圧倒的な勝利だ。
「あと四回。勝負しよっか、琴羽を失望させないために」
──────────
「ほんとにごめんなさい」
本日二回目の土下座タイム。理由は簡単、あの後ちゃんと琴羽をぼこぼこにした挙句試合に行っても僕が一人で突っ込んで敵を蹂躙して終わるだけのなんの練習にもならない時間を提供したから。
気がついた時にはもう外は真っ暗になっていて、流石に琴羽も二日連続で泊まるわけにはいかないらしく、帰る前にと土下座をしている次第だ。
「あ、あはは……私は気にしてないからいいよ?」
七海くんらしいとこ久々に見れたし、と笑う琴羽。
僕って昔からそんな負けず嫌いだったのかな……昔はもっと大人しくなかった……?
「いや? すっごい負けず嫌いだったよ?」
「……なぜ考えただけで伝わってるんでしょうか」
「思いっきり喋ってたよ」
「うぇぇ!?」
顔を上げると、まるでそれを予想していたかのようにしゃがみこんでいた琴羽と目が合って、反射的に顔を逸らす。
「昔はねー、バドミントンで負けたーって言ってバドミントンのクラブに入って負けた相手倒したり、雪合戦で負けたーって言って要塞築いて戦ったり、なんでも勝つまでやってたよ?」
今もやってること変わらないね、と笑われると、顔が熱くなるのが分かる。
「子供っぽくて悪かったね」
「私は昔と変わってなくて嬉しいよ?」
この反応も変わらなーい、とさらに笑う琴羽。
「そういう琴羽だって──」
「私は変わったよ」
変わらない、という言葉は遮られた。逸らしていた顔を元に戻せば、琴羽の顔には、さっきまでのからかうような笑みは浮かんでいない。
「私は、変わっちゃったよ」
「………………」
否定できない自分が嫌になりそうだ。ここは、否定する場面でしょ? こうやって、昔は手を離してしまったんでしょ?
「ごめん、帰るね」
僕の横を通って、琴羽はドアに手をかける。
「琴羽」
一言でいい。
なんでもいい。
何とかして、このもう一度回ってきているのかもしれない、このチャンスを離さないように。
あの時と同じ間違いを、しないように。
「また、ここに来て、一緒にゲームしようよ。今日は僕がやらかしちゃったからさ、埋め合わせさせてよ」
「……………………」
琴羽は、無言。
でも、そのまま出ていく訳でもない。これは……どうなんだろう……?
そんな僕の想いに気づいてか、琴羽はくるりと回ってこちらを向く。
「うん! 次も楽しみにしてるね!」
そう言って部屋を出ていく琴羽は、それこそ、昔と変わらない笑顔だった。
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作品のフォロー、ハート、お星様。
それとこの作品の略称をください……!
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