牙の4
”当番”に任ぜられるのは、村に住んでいる男性の内、二十歳から五十歳までの中より選ばれるという。
人数は10人から20人程度で、彼らを纏めるリーダー格が”当番頭”と呼ばれ、この人物が、通常の神社などにいる神主の役割をして、”ヤマガミ様”に祈りを捧げるというわけだ。
”山の祭り”、または”御山祭り”は、秘儀だそうで、実際どんなことを行うのかは、今のところ公開されたことはないという。
そりゃそうだろう。
よそ者が入り込んでくりゃ、武器を持って追っ払われるんだからな。
まるでインド洋に浮かぶ北センチネル諸島の如しだ。
峠道を越えて、村に差し掛かった時には、もう陽は完全に暮れており、辺りはほぼ漆黒の闇に包まれていた。
腕時計を見る。
時刻は午後5時30分。
聞こえるのは風の音と、それに触れて鳴る樹々の擦れる音、それだけだ。
俺は足音を忍ばせ、窪地にある
山まで僅か数百メートル。
俺は額の上に持ち上げていたゴーグルを目に降ろす。
こいつはいわゆる”暗視ゴーグル”というやつだ。
夕闇の中に浮かび上がったのは、二人の男。
二人とも上から下まで灰色の着物を着ている。
上着は筒袖。
下には忍者が履くようなたっつけ袴に地下足袋。
額には鉄板のついた鉢巻を巻き、一人は棒の先に鎌が付いたもの。
もう一人は抜身の日本刀。
どこまでも時代に取り残された格好をしている奴らだ。
俺は土手を匍匐前進の要領で、音を出来るだけ立てないように近づく。
手探りで草の中から小石をつまみ上げると、俺がいるのとは真反対に向けて投げた。
石は松の木に当たり、軽い音を立てる。
二人の目がそちらに向いた途端、俺は立ち上がり、素早く近づくと、腰に差していた三段式の警戒棒を抜き、まず長柄の鎌を持った男にとびかかった。
男が構える間もなく、警戒棒の先が鳩尾にめり込む。
前のめりに倒れた男に、日本刀を持ったもう一人が斬りかかって来た。
俺は棒で刀を受ける。
この警戒棒は、なかなかの優れものなんだぜ。
何しろ10トンほどのパワーショベルで踏んづけても曲がらないほどの耐久性があるし、金属バットやサバイバルナイフぐらいは軽く受け止めることが出来る。
夕闇の中で金属と金属がぶつかり、音を立てる。
次の瞬間、俺は奴の右手首に向かって打撃を加えた。
日本刀が手から落ち、地面に突き刺さる。
迷うことなく、俺は奴の脇腹に次の一撃を与えた。
日本刀男はそのまま白目をむいて膝をつき、前のめりに倒れた。
これだけ書くと、随分長い時間がかかったと思われるだろうが、舐めて貰っちゃ困る。
そうだな。五分・・・・いや、三分もかからなかったんじゃないか?
膝をはたいて立ち上がった時、俺の足元には二人が武器を放り出して伸びていた。
念のため、俺は取り出した結束バンドで二人の手と足を縛って転がして置く。
ええ?
”
当り前だろ。
幾ら不信心者の俺だって、神聖な御山に入るってのに、飛び道具なんか持って来るほど”罰当たり”じゃあない。
それに山の中で銃なんか使ったら、当たり一面に音をまき散らすようなもんだろう。
俺はもう一度十分に身支度を確認すると、前方をしっかり見据え、神代山の入口へと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます