牙の3
・二ホンオオカミ。和名:日本狼。
英名:Japanese Wolf。
学名:canis lupus hodophilax
タイリクオオカミの亜種とも言われ、江戸時代までは九州から東北地方一帯の山岳地帯を中心に広範囲に生息していたが、江戸末期頃までには個体数が減少し、明治に入ると、よりその傾向に拍車がかかった。
1905年(明治三十八年)、英国から来日した調査隊に従った猟師の手によって、一月十五日、奈良県の
俺はネグラの書棚にあった古い本をひっくり返して、ニホンオオカミに関する記録を調べた。
なお、絶滅の主原因は、森林の伐採、農地の開拓、家畜を襲うために農民から害獣と見做されて駆逐されたとか、或いは狂犬病、ジステンパー、フィラリアなどの病気の蔓延など、色々な理由が考えられるが、正確なところは今現在でも学者の間では見解が分かれているという。
しかし、現在でも日本各地で目撃例が稀にあり、そのため”二ホンオオカミ生存説”を主張する人々も多くいる。
奥田博士の資料にもある通り”オオカミの証拠写真”と呼ばれるものが、新聞などでもスクープされることがあるものの、それらの大半は、野犬か、或いは狸か狐などを見間違えたものと判断されており、学会や役所などに於いても、頑として、
”既に絶滅した”という見解を変えていない。
世間では俺みたいな探偵を”ロマンチストだ”と思っているんだろう。
だからこんな仕事を引き受けた。多分誰もがそう思うに違いない。
しかし、それはとんでもない間違いだ。
単に金と、そして”分からないことは自分の目で確認しないと気が済まない。”
つまりは”大いなるへそ曲がり”。
それだけのことさ。
だから引き受けたんだ。
俺が予備知識と装備を一通り準備し、和歌山に向かったのは、依頼を受けてからちょうど三日目の事だった。
季節は三月から四月にかかる頃、まだ何となく世間は肌寒さが残っていた。
安立村は、大阪から奈良、そして和歌山県に入り、更に在来線を乗り継ぐこと二時間、そこからは路線バスに揺られて山道をさらに一時間いったところにあった。
事前に調べた資料によれば、人口はやっと二千人を少し超えた程度で、大きくはないが、さほど小さいともいえない。
村民は団結力が強く、外部からの干渉を極端に嫌う。
奥田博士があんな目に遭わされながら、誰一人として警察に逮捕されなかったのも、その結束力が大いに関係しているんだろう。
俺は村に入る入り口に当たるバス停ではなく、二つ手前で下車した。
ここだと村に入るためには、歩いて山を一つ越さねばならない。
当然、遠回りになる。
そこまで用心深くなったのは、先に挙げた村自体の団結力の強さと、もう一つは
村の因習・・・・そう、その日は『山の祭り』と村人が呼んでいる日だったからだ。
”祭り”といったって、別に屋台が出るわけでも、お囃子が鳴り響くわけでもない。
『山の祭り』というのは、彼らの信仰の対象になっている、あの
”イヌガミ様”と畏怖している”お使い”がやってくるという日だったのである。
其の日、陽が落ちると、村の総ての家は灯を落とし、雨戸を締め切って誰も外には出ない。
いや、誰も、というのは正解じゃないな。
”当番”と呼ばれる男性だけを除いて。
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