第一章 婚約からはじめる二人の恋④

 週に一度の、エミーリアとマティアスが会う日がやってくる。

 ふわりと微笑ほほえむエミーリアと、かつての令嬢の姿が重なって見えるようでマティアスは気分が悪かった。

「お久しぶりです、陛下」

「君からの手紙が毎日届くので久しぶりという感覚はないんだが」

 トゲがあるマティアスの声に、げんが悪いらしいと、エミーリアはマティアスの様子を的確に感じとった。

(……でも手紙を読んでくださったのね)

 たったそれだけのことに、エミーリアはほっと胸をで下ろす。

 たとえ報告書ほどの厚みがないごくつうの手紙だとしても、いそがしいマティアスはエミーリアからの手紙など読んではくれないかもしれないと、少しだけ不安だった。

「……申し訳ありません、陛下とはこうしてお会いできる機会も限られておりますから、少しでもわたくしを知っていただきたいと思って手紙にしたのですけど」

 エミーリアは静かに目をせる。

 マティアスにわずらわしいと思わせてしまったならこれは失敗だ。良い方法だと思っただけに、平静をよそおおうとしてもエミーリアは悲しげな顔になる。

「……ごめいわくでしたよね、以後ひかえます」

 せっかくマティアスに会えたというのに気分がしずむ。

 そんなエミーリアを見て、マティアスは言葉選びをちがえたらしいということはわかった。ヘンリックからの「会って早々に何やってんだ」と言いたげな視線が痛い。とはいえ、エミーリアに会う前にマティアスの不信感をあおるようなことを言ったのはヘンリックだ。

 女性はたやすく表情を変えることができる。嘘のなみだだって平気で流す。それをマティアスは知っていたし、だまされた過去があるからこそしんちようにもなる。

 だからどんなに泣きそうな顔をしても、それを素直に信じるわけにはいかない。少なくともマティアスとエミーリアの間には、彼の不信感をふつしよくするだけのしんらいはまだ築けていない。

「……迷惑とは言っていない」

 悩んだ末に、とにかくそれだけは伝えておかねばとマティアスは重い口を開いた。

 その言葉にエミーリアは顔を上げた。しかしマティアスのけんしわを見てまた目を伏せる。

「ですが、手紙は読むのも手間でしょうし」

 社交辞令だと思ったのだろう、エミーリアは結論を変える気はないようなので、マティアスはさらに付け加えた。

「あの程度の長さなら仕事の合間に読んでもえいきようはない」

 いききになってちょうどよかった、とまでは言わなかった。

 エミーリアは再び顔を上げて、今度はじぃっとマティアスを見つめた。大きなペリドットのような瞳に、マティアスはたじろぐ。その瞳はじやな子どものようでもあったし、子犬のようでもあった。つまり、まったく悪意がない。

「……では、また送ってもよろしいですか?」

 マティアスをまっすぐに見上げて、エミーリアが少し躊躇ためらいがちに問いかけてくる。

 拒む理由はない。

「……好きにすればいい」

 よかった、とエミーリアはうれしそうに微笑んだ。そのがおからは打算めいたものは感じない。

 だからこそマティアスはまどっている。

「そうだ、先日お話ししたチョコレートを持ってきたんです。お口に合うといいのですが……」

 そう、問題なのはそのチョコレートだ。

「……君は知っていたのか、それとも知らなかったのか」

 ぽつりとつぶやいたマティアスの声にエミーリアは不思議そうに首をかしげた。

「申し訳ありません、なんのお話でしょう?」

 エミーリアの表情からは、マティアスには嘘をついているのかどうかわからなかった。政治にからむ嘘を見抜くことはうまくなったが、女性がつく嘘というのは見破りにくい。

「……チョコレートは、やくになると聞いたが」

「びやく……?」

 大きな目を丸くして、エミーリアはオウムのようにマティアスの言葉をり返した。

 そしていつしゆんののち、エミーリアのかしこい頭がその言葉を正しくにんしきすると、顔から湯気が出るのではというほど真っ赤になった。

「え、あ、し、しらな……あの、その……! た、他意はなくて、だってわたくしが以前に食べたときはぜんぜんそんなこと……!」

 わいそうなほど狼狽うろたえる姿に、マティアスの不信感もき飛んだ。

「も、申し訳ございません、これは持ち帰ります……!」

 ぐしゃりとつぶれてしまうほどかみぶくろを強くきしめて、エミーリアが半泣きになる。

「あー……えーと、そんなに強い効果があるもんが大っぴらに売られているわけがないですし、そんな許可も出してないし、食べても問題ないとは思いますよ」

 見かねたヘンリックが割り込んできた。

 もしそんな効果を望んでマティアスに食べさせようとしたのなら問題だが、エミーリアがそんなことを考えてもいなかったのは一連の流れで明らかだった。

「え……えっと」

「失礼。申しおくれました。ヘンリック・アドラーと申します」

 さすが色男というべきだろうか、混乱するエミーリアの手を取るとその指先に口づけながらヘンリックはあいさつした。

「……先日もいらっしゃいましたね、ヘンリック様。こちらこそ陛下のこのであるあなた様にご挨拶がおそくなり申し訳ございません。エミーリア・シュタルクと申します」

 ヘンリックが間に入ったことで、エミーリアも平静さを取りもどしたらしい。どうしたものかと思っていたマティアスは胸をで下ろした。

「せっかく陛下のために持ってきてくださったんですし、頂きましょうよ、ねぇ陛下?」

「え、ああ……」

「で、ですが。潰してしまったので中身が無事ではないかもしれませんし……」

 チョコレートが入っている紙袋はぐしゃぐしゃだ。中のチョコレートは箱に入っているとはいえ、どうなっているかわからない。

「シュタルクじようの胸に潰されたおならどんな形でも男にとってはごほうですよイテッ」

「おまえはもう少し言葉を選べ」

「無口な陛下よりマシだと思いますけどねぇ」

 いつの間にかヘンリックはエミーリアからチョコレートの入った紙袋を受け取ってテーブルに置き中身を確認している。

「ああほら、平気ですよ。箱が少し潰れたくらいです」

「そ、そうですか……」

 エミーリアはこしを下ろしながら、冷静さが吹き飛んで狼狽えてしまったことがずかしくなってきた。

(陛下の前であんなに取り乱すなんて……!)

 勝手に袋から箱を取り出したヘンリックは、エミーリアが口をはさすきあたえずにチョコレートをひとつ口の中にほうり込んだ。

「うわ、あまっ」

 チョコレートを食べてすぐに、ヘンリックはその甘さに声をあげた。彼が食べたのはミルクチョコレートだ。甘いものが好きではない男性には甘すぎるだろう。

「それは一番甘いチョコレートです」

「だ、そうですよ。どーぞ陛下」

 おじゃま虫のようなヘンリックの行動も、エミーリアはどくだとすぐに気づいた。本来ならば専門の者がいるはずだが、それこそここにそんな人間がいたらふんはぶちこわしだ。

 おそらくヘンリックなりのづかいか、それともマティアスがそうたのんだのか。エミーリアには知るすべがない。

「……甘いな」

 ミルクチョコレートを食べたマティアスがぽつりとこぼした。やはりこれは男性には甘すぎるらしい、とエミーリアは心の内に書き留めておく。

ほかには甘さが控えめのチョコレートと、中にアーモンドの入ったものが……」

「あ、俺はアーモンドのが好きですね」

 どのチョコレートもヘンリックがひとつ毒味をしたあとにマティアスが食べる。

「……陛下はたくさんし上がるんですね。やはり男性だからでしょうか」

 ぱくぱくと、マティアスはチョコレート以外にもたくさんのお菓子を食べている。それを見ているだけでエミーリアはおなかいっぱいになってしまうくらいだ。

「いやいや、陛下はめんどくさがって昼食を食べなかったから、代わりにお菓子を食べているんですよ」

 時間がしいとかなんとか言っていつも食事は抜きがちなんですよねぇ、とヘンリックがエミーリアに告げ口する。

「ヘンリック、うるさい」

「だって本当のことでしょ」

 ヘンリックと話しているマティアスは少し気安く、エミーリアと二人で話していたのでは見せない表情をする。エミーリアはそんな二人のやり取りを見るのが楽しかった。

「……ごぼうなのは重々承知しておりますが、陛下の代わりになる方などいないのですからご自愛くださいね」

 あまり口うるさく言うのはうつとうしがられるかもしれないので躊躇われるが、マティアスの身を案じればこそ、エミーリアは何も言わずにはいられなかった。

「そうですねぇ、こんなに可愛かわいこんやく者に心配かけたらいけませんよねぇ」

 にやにやと笑うヘンリックのめ言葉に、エミーリアは喜ぶような様子をまったく見せない。マティアスはそれが少し意外で、わずかに目を見開いた。マティアスが知る限り、ヘンリックにれいだとか、可愛いだとか言われた令嬢はたいてい嬉しそうにほおを染めていたものだ。

「ふふ、ヘンリック様はうわさ通りの方ですね」

 しかしエミーリアはといえば、平然としてゆったりと微笑ほほえむばかりだ。こういったときのエミーリアは、十七歳とは思えない落ち着きがある。

「おやおや、良い噂だといいんですが」

「お聞きになります?」

「イイエ。えんりよしておきます」

 しようしながらヘンリックはしれっと話題を変える。

「シュタルク嬢はだん何をなさっているんですか」

「読書が多いです。ロマンス小説などをよく読んでいて……」

 エミーリアの声がだんだんと小さくなった。話してしまってから子どもっぽいですよね、と恥ずかしそうにしている。

(ヘンリック様と話しているとつい話しすぎてしまうから、もう少し気をつけないと……)

 ただでさえマティアスとは十歳もねんれいはなれているのだ。あまり子どもっぽいことを言ってれんあい対象から外されてしまってはいけない。

「あとは、そうですね……きんりん諸国の文化や歴史、語学書など」

 これはしゆというよりは勉学のための読書だ。アイゼンシュタット王国の歴史などはすでに頭に入っているので、おうとなってからのことを考えて周辺諸国のことを学び始めている。

「さすがシュタルク家のかんぺきな令嬢ですね」

 感心するヘンリックに、エミーリアは「そんな」と首を横にる。

「完璧なんて、おそれ多いことです。わたくしにだって、できないことはあるんですよ?」

 けんそんしながら、エミーリアはテーブルの上の変化に気づく。

(……あら?)

 甘すぎるだろうと思っていたミルクチョコレートの減りが早い。量はどのチョコレートも同じだったはずなので、並べて置いてあるとその差ははっきりと見てわかる。

 同席しているヘンリックはあまりチョコレートに手をばしていないし、食べたとしてもビターかアーモンドのものだ。エミーリアはまだひとつも食べていない。

 つまり、エミーリアが気づかないうちにマティアスがもくもくとミルクチョコレートを食べていたということだ。

(……本当に甘いものがお好きなのね。それにしても……)

 おくり物はどうやら成功したらしい。しかしこれはマティアスとの仲を深めたことになるのだろうか? いや、ならないだろう。

 ううーん、とエミーリアがなやんでいると、助けぶねを出すようにヘンリックが口を開いた。

「陛下。せっかくですし、シュタルク嬢を温室にでも連れて行って差し上げてはいかがです?」

(ええ!?)

 ヘンリックのとつぜんの提案に、エミーリアはおどろいた。

 確かにマティアスと二人でゆっくり話す時間はほしい。そうすればもう少しきよを縮めることができるだろう。

 しかしマティアスはなんでそんなことを言い出すんだ、という顔をしている気がする。

「いえ、その、陛下もおつかれでしょうし……」

「それほど疲れてないでしょ、お土産みやげのお礼くらいはしないと、ねぇ?」

「……それもそうか」

 チョコレートが気に入ったらしいマティアスはしぶしぶといった様子ではあるものの、腰を上げる。エミーリアは突然の展開についていけずにマティアスとヘンリックをこうに見てわたわたとしていた。

「俺も護衛としてついていきますけど、後ろにひかえておりますので」

 そう言いながらヘンリックがエミーリアの椅子を引く。うながされて立ち上がったエミーリアは義務のように差し出されたマティアスの手にそっと、自分の手を重ねた。


 温室の中では色とりどりの花がいていた。ドーム型になった温室は四方がガラスでおおわれている。こうのようなわくえがく曲線がなんともうつくしく、建物だけでも見る価値がありそうだ。

「温室ではもう薔薇ばらが咲いているんですね」

「この中は年中花が咲いているからな」

 そうなんですか、とエミーリアが小さくつぶやいて会話がしゆうりようする。

(……ど、どうしたらいいのかしら……陛下との会話が全然続かない……!)

「さ、最近は暖かくなってきましたし、これから温室の外もたくさん花であふれるでしょうね!」

「春だからな」

 エミーリアが話しかければマティアスはりちに答えてくれるものの、そこから会話が盛り上がるような展開にはなかなかならない。

(今までもヘンリック様経由で会話していたようなものだものね……)

「そういえば、チョコレートにあんな効能があるなんて知りませんでした。うちのしきにある植物辞典にはそもそも原料のカカオについてのさいはなくて……」

「あれは南国原産のものだから、王立図書館くらいにしかくわしいぶんけんはないだろう」

「そうなんですね。王立図書館にはよく行っているので、今度探してみます」

 勉強のためには王立図書館が何かと便利だったので、エミーリアはれいじようにはめずらしく王立図書館によく足を運ぶ。知識を得ることはエミーリアにとっては自分をみがく手段のひとつだ。完璧な令嬢と言われているけれど、これくらいしかエミーリアには胸を張れることがない。

「王立図書館に? ……よく行くのか?」

「はい。週に一、二回ほどは通っております」

 王立図書館は王城の一角にある。王城の中でもいつぱんに開放されている数少ない場所だ。

(あ、言わないほうが良かったかも……)

 マティアスとの会話が続いたのがうれしくてつい口に出してしまったが、普通の令嬢は図書館にひんぱんに通ったりしないものだ。エミーリアが勉強熱心であることは既にマティアスにも知られているが、まさかここまでとは思っていなかったかもしれない。

 父にも図書館通いはあまりいい顔をされない。王妃になるために必要だからと理由をつけてどうにかなつとくしてもらっているものの、かんげいされていないとエミーリアは自覚していた。

「変ですよね。父にもよく言われるんです。『おまえはちゃんとしていれば完璧なのに、ときどきとんでもなく変わっている』と」

 エミーリアは口早にそう告げる。マティアスの口からは、否定の言葉を聞きたくなかった。

 うつむいた視線の先に、温室の花が咲いていた。

 本来ならばもう少し先の時期に咲くはずの花だ。こうして人の目を楽しませるために、ここの花は管理され計算され、望まれたように咲く。それがエミーリアの目にはあわれに見えた。

「……温室の花のように、望まれる形で咲けたらいいんでしょうけどね」

 貴族のむすめは、温室の花と同じだ。

 親や周囲の理想の娘になるために、整えられたかんきようで大事に育てられる。それなのに望んだような娘でなかったら、周りのらくたんはどれほどのものだろうか。赤い花を育てていたつもりが、真っ白い花が咲いたら?

 ──エミーリアが、完璧な令嬢ではなかったら。

 思わず暗い思考に落ちかけて、エミーリアは首を横に振った。

(陛下に変なことを聞かせてしまったわ)

 こんなことを話すつもりじゃなかったのに、と話題を変えようとエミーリアがマティアスを見上げた時だった。エミーリアがほかの話題を出すよりも先に、マティアスが口を開く。

「温室の花だって、望まれたとおりに咲いたわけではないだろう」

 え、とエミーリアが小さく声をこぼす。マティアスはちょうど咲いている薔薇に手を伸ばしていた。

「植物だって人間だって、思い通りになんて育たないものだ。花にはこちらのおもわくなんて関係ないしな」

「……でも、思い通りに咲かなかったらがっかりしませんか?」

 エミーリアは小さく呟いた。周囲の願うように、理想のとおりにならなくてもいいと告げるマティアスの言葉に、エミーリアはなおうなずけなかった。

 だってそれは、育ててくれた人たちへの裏切りになるんじゃないだろうか。

「温室の花が咲けるのは、庭師が環境を整えてくれたからです。それなのに……」

 こうして令嬢としての自分があるのは、それだけこうしやく家がエミーリアにあらゆるものをあたえてきたからだ。だからエミーリアは、父の期待にこたえるためにがんばってきた。

「どんなに良い環境にしたところで、つぼみのまま咲かない花もある。思い通りの花が咲くかどうかは大事なことじゃない」

 何気ない口調で、けれど迷いなく告げるマティアスにエミーリアはおどろいた。

「……大事なのは、花が咲くことができたという事実だけだ」

「それだけ、ですか?」

 思わずエミーリアは問いかけた。だって、咲いただけなのに。

「どんな形でも咲くことができたなら、それはもう十分期待に応えていることになると思うが」

 大切に育てた花が咲かなければだれだって悲しい。けれど見事に咲くことができたなら、どんな色でもどんな形でもいとおしいと思うだろう。

 それに、とマティアスは続ける。

「人間でも同じことだ。望まれたように成長しようと、少し変わっていようと、それはその人のりよくであって、個性だろう」

 その声はとてもやさしかった。マティアスはれいに咲いた薔薇をねぎらうようにそっと花弁をでていた。

(……望まれたままのかんぺきな令嬢でも、少し変わったところのあるわたくしでも、どちらでもいいのかしら)

 そんなこと誰にも言われたことがない。

 だってエミーリアはずっと、完璧な令嬢ではない自分ではみなが失望すると思っていた。期待外れだと、ため息をかれると思っていた。

 しかしマティアスはどちらのエミーリアも否定しない。それは魅力だと、個性なのだと認めてくれる。

 他でもないマティアスがそう言ってくれるだけで、厚い雲に覆われていた空が晴れていくような気がした。マティアスの言葉をみしめるたびに、胸にあたたかな熱が広がっていく。

「……ありがとうございます、陛下」

「礼を言われるようなことは言っていないが」

 本気でそう思っているらしい顔に、エミーリアはくすりと微笑ほほえむ。

「それでも、ありがとうございます」

 重ねて告げるエミーリアに、マティアスは不思議そうな顔をしながら手を差し出した。

「……そろそろもどろう」

「はい」

 マティアスの手をとり、エミーリアは温室の花を見回す。今はじゆんすいに、咲きほこる花たちがうつくしいと思える。

「こうして考えてみると庭師と王の役目は似ているのかもしれないな」

「……庭師と陛下が、ですか?」

 歩きながらぽつりとマティアスが零した。その言葉にエミーリアは首をかしげる。庭師と王は、似ても似つかない。

「国をじようとするなら、たみは花だ。私は民がよりうつくしく咲くための道を作り整えることが王としての使命だと思っている」

「民がよりかつやくできるように……ですか?」

「ああ、この国に色とりどりの花がくところを見てみたい。そのために力をくすことは、私の役目だ」

 マティアスのまっすぐなひとみに、エミーリアは目をうばわれた。その目はまるで夢を語る少年のようにきらきらとしていたし、遠くまでえるりよぶかい王のようでもあった。

「とても、てきだと思います」

 エミーリアは頷きながら、微笑んだ。

 できることなら、色とりどりの花が咲く未来のこの国を、マティアスのとなりで見守りたい。今はそれを、素直に口にする勇気はないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る