第5話 橘さんとの出会い

山梨の留置場に移送になり、同部屋になった

橘さんは私より10歳近く歳上の方です。

一瞬の見た目は優しそうに見えますし、喋った感じもとても穏やかな感じですが、一応武闘派として沢山の修羅場を潜って来た私だからわかる、強さのオーラがプンプンしていました。

橘さんとは色々なお話をさせて貰いました。

私の話も沢山しました。

振り返れば私は20代半ばですが、殆どの時間を鑑別所、少年院、少年刑務所、刑務所と塀の中で暮らして来ています。

シャバに出ては自由を勘違いし、好き勝手な事を繰り返しては塀の中に戻って来る札付きの馬鹿です。

そんな私を橘さんはちゃんと向き合って話をして、『馬鹿だなぁ』と言いながら答えを一緒に探してくれようとします。

何故ならば橘さんも同じ苦しみ、同じ環境にいるからです。

橘さんが、この留置場にいる理由は風営法で捕まって入っていました。

知る人ぞ知る風俗王なのですが、橘さんの生い立ちを聞きビックリしました。

橘さんは当時35歳位だったと思います。

私と同じ様な学生時代を過ごしていますが、中学2年生の時に仲の良い友達を骨肉腫で亡くしてしまい、そこから野球を真面目にやり、野球推薦で高校野球の強豪校に入部し期待をされるも、怪我をしてしまい野球が出来なくなり1年生の終わりには、盗んだバイクを売ったりカツアゲをしたりが学校にばれ退学になり、そこから定時制(夜間高校)に通い20歳で高校を卒業したそうです。

その定時制でも2年生の時に、先輩と喧嘩をしていた橘さんに『橘くん喧嘩してても詰まらないでしょ⁉️週末2人でバイクでツーリングに行こうよ』と言った友達が、雨で中止になったその日に車の事故で亡くなってしまったそうです。


橘さんは周りから恨まれている俺が五体満足で生きていて、なんであんな良い仲間が死ぬのか⁉️全く理解が出来ずに苦しんだそうです。だらしのない自分が嫌で、口だけの自分が嫌で、沢山期待されてきたのに、それに答えられない自分が嫌で、やりたいことがあったが定時制を卒業後、海上自衛隊に入隊し3年の任期満了まで勤め気持ちが変わらなかったらやろうと決めて、自衛隊に自ら入隊したそうです。

自衛隊で貯めたお金も親にあげたそうです。

その後、やりたかった芸能の世界に行くために何もコネが無いからと、ヤクザの世界から芸能のコネを見つけ、超一流タレントの付き人も勤め上げ役者として活躍していたが、お世話になったキャスティング会社が倒産し、実家も自己破産した為、お金を借金して風俗を開業し、苦労をしたが山梨や都内に何店舗もお店をだせる程の成功をした人です。

風俗を経営しながらも、大手外食チェーン店の会長にヘッドハンティングされて、幹部として仕事もしていたそうです。

とわ言え捕まっている人じゃないか⁉️と思う人もいると思いますが、私とは違うのです。

この人はこの時まで風俗をやっていたのは、働きに来る女性達は、色々な人達がいる。

でも多くの子は家族が病気で普通の仕事ではお金が足りなくてとか、大変な子達が多い。

もちろん男に騙されてとか、家族に売られてみたいな子までいると言う。


『うちも自己破産をして、男兄弟だから関係ないが、女の子の兄妹だったら家族の為に働いているかも知れないからなぁ、そんな子達を少しでも良い環境で、守ってあげて風俗から卒業させて、幸せな家庭を持てるようにしてあげたいんだ。大事な家族を巣立ちさせる積もりでやっているんだよ』

と言ってました。

実際に何人もの働いていた女の子が橘さんを結婚式に招待しているのです。

そして橘さんをお父さんと呼んでいるのです。


悪い環境が沢山ある中、若いのにこんな人も居るんだと思いました。

捕まっているのも、目立ちすぎ儲かり過ぎで警察にいじめられ、結果橘さんは刑務所には行くことはなく留置場止まりです。


この橘さんが凄いのは、2回捕まったことを切っ掛けに風俗王と言われた仕事を一切辞めて、また新しいスタートを切り、また物凄い結果を出すのです。

普通ヤクザな仕事で成功した人が、キッチリ足を洗い堅気の仕事でまた成功する、漫画ではあってもそう身近には居ません。


この橘さんのストーリーは私の目標であり、夢です。

また彼の事はどこかで書きたいと思います。


私はその後、裁判判決を待つ身になり、東京拘置所に入り、刑が確定して新潟の刑務所に入ることになりました。

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