小川哲『ユートロニカのこちら側』を読み終えたら急にエレクトロニカが聴きたくなったのでプレイリストを作ってみた。
第168回直木賞を『地図と拳』で受賞した作家・小川哲氏。
第165回を受賞した佐藤究氏の『テスカトリポカ』を読み終えた僕は、次の標的を『地図と拳』に定め、今丁度読み始めたところなのですが、その前にデビュー作から読むのが礼儀かなと思い、同氏の作家一発目『ユートロニカのこちら側』を読了したのが昨日のこと。面白すぎて4日間くらいで読み終えました(僕にしてはかなり早い方です)。
調べて見ると、『ユートロニカのこちら側』はSFとミステリの名門・早川書房から出版されたもので、同作は第3回ハヤカワSFコンテストの〈大賞〉を受賞した作品だそうです。『ユートロニカのこちら側』は小川哲氏の最初の作品ということですが、なるほど確かに実力が凄い。読み終えたのち「そら直木賞取るわ」と打ちのめされました。
話は若干逸れるのですが、第166回直木賞と言えば、逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』が大きな話題となりましたよね。同作は元々、カクヨム上で公開されていたものらしく、僕も(全部では無いですが)読んだ記憶があります。
【㊗本屋大賞】「デビュー前夜」Vol.1 『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬インタビュー
◾️URL:https://kakuyomu.jp/works/16816927862276750730
実は『同志少女よ、敵を撃て』も、早川書房が主催するミステリの賞レース・第11回アガサ・クリスティー賞の受賞作だったりします。
さて、話を戻します。
『ユートロニカのこちら側』は近未来の北米(主にサンフランシスコ)を描いたディストピアSFで、自分の個人情報と引き換えに労働から解放されるアガスティアリゾートと呼ばれる洋上都市を舞台に、来るべき新時代に順応できなかった人々の苦悩を描いた群像劇です。
古典SFの中にはディストピアをテーマとした名作が数多くありますが、『ユートロニカのこちら側』はそれを現代的な解釈で再構築(まるでGAFAMを彷彿とさせるリアリティのあるテクノロジー複合企業)し、古臭くなりがちなこのテーマに新しい風を吹かせることに成功しています。
さて、巻末の解説を読むと、そこにこんな感じのことが書いてありました。それは、
「ユートロニカ」はユートピアとエレクトロニカを混ぜ合わせた造語。
ということ。
エレクトロニカと言えば、音楽好きならピンとくるあれです。小川哲氏はエレクトロニカが好きで、エレクトロニカの情緒感と物語のムードと重ね合わせて「ユートロニカ」という名前を生み出すに至ったようです。
しかし、その巻末解説を書いた方はエレクトロニカという音楽がどういったものなのか知らないらしく、それは勿体無いな思いました。なら、そう言った読者のためにここはあっしが、『ユートロニカのこちら側』に合いそうなIDM/エレクトロニカをチョイスして紹介していこうと思い立ったのが昨夜。
そして、完成したのがこちらです。
◾️URL:https://kakuyomu.jp/users/Q-B-E/news/16817330647956196102
さて、IDM/エレクトロニカという音楽ジャンル。洋楽リスナーにとっては割と馴染み深いジャンルだと思います。
エレクトロニカの別名として使われるIDMとはインテリジェンス・ダンスミュージックの略で、何を持ってインテリジェンスなのか? という疑問に対しては、それまでのダンスミュージックと聴き比べたら分かるよ、と答えるのが一番手っ取り早いと思います。
IDM/エレクトロニカは90年代初頭くらいに出てきものですが、その原型と言える、所謂クラブミュージックとしてのテクノは80年代序盤くらいからシーンに登場します。初期のハウス・ミュージックやテクノ(デトロイト・テクノ)は現在のクラブ・ミュージックほど音楽的ではなく(この表現は怒られそう)、ドラムマシンのビート感が剥き出しとなったツール的な楽曲がほとんどでした。今の感覚からすると「単調」なものが多いです。これはまだこの音楽が黎明期だったこと、そしてテクノロジーの部分で今ほど緻密な音楽が作れなかった事などが起因していると思われます。あくまでもテクノやハウスはアンダーグラウンドなダンスカルチャーで消費される音楽ですし、当時は今よりももっとその側面が大きかったのでしょう。この手の音楽は、クラブみたいな場所で大音量でミックスしながら楽しむのが前提で、一般的な音楽のように自宅のスピーカーやヘッドフォンから聴くような楽しみ方には向いていると言えません。
しかし、そのアンダーグラウンドだったダンスミュージックが、90年代に入ると、IDM/エレクトロニカという形で一般リスナーにも届くようになったのです。そしてその橋渡しとなった要素が、それまでのテクノ・ハウスにはなかった「インテリジェンス」という成分なのです。
初期IDM/エレクトロニカを代表するミュージシャンと言えば、ブリープ・テクノで有名なLFO、Radioheadにも大きな影響を与えたAutechre、そしてIDM/エレクトロニカの代名詞と呼ぶべきAphex Twin、Squarepusherなどが挙げられます。それらの音楽性に共通することは、それまでのテクノ・ハウスにはなかった「音楽としての情緒感」が挙げられます。ツールとしての意味しか持たなかったクラブミュージックが、それまで切り捨ててきた要素(というか、気づかなかった要素か?)である音楽性にスポットを当てることで、一般リスナーにも、視聴に足る音楽としてクラブミュージックが受け入れられるようになったのです。またメインストリームの動向としても、80年代以降のニューウェーブやディスコポップ、インダストリアルロック、マッドチェスターなどと要素を共有するデジタルロックやビッグビートなどがあり、IDM/エレクトロニカを受け入れるだけの土壌が育っていたと言えます。
このような形で、IDM/エレクトロニカはダンスミュージック・シーンに大きな転換点を与え、同ジャンルをより一般的なものに押し上げたのです。
今回選ばせたもらった曲は、どれもベテランというか、有名なIDM/エレクトロニカのミュージシャンの楽曲です。同ジャンルの情緒感とダンスミュージックの熱狂が少しでも伝われば、そして『ユートロニカのこちら側』に興味を持って頂けたら幸いです。ありがとうございました。
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