第8話

「人間がペンギンを好きなのは珍しくないけど、人間を好きになった珍しいペンギンがいるよ」

「へー」

「結ばれないのにね」


 興味津々のペンちゃんに、切なそうに返すペン子。全然違う親子の表情に、僕はなんとなく和む。こうして話をよく聞いてくれることが、本当に嬉しい。


「一途なんだよなぁ、その女の子。ちなみに相手は動物園の飼育員で、彼が仕事中でもついてくるんだって」

「ペンギンは人間から、一夫一婦制のイメージを抱かれているみたいね」

「……」


 ペン子の一言で、僕はこの話題を出したことを後悔した。


「他にも、何かすごいペンギンって、知ってる?」


 ペンちゃんのその質問が、僕にとっては最高の助け舟だった。


「うん。脱走ペンギンとかね」

「だっそー?」

「そのペンギン、水族館のペンギンなんだけど、突然水族館からいなくなっちゃったんだ」

「わー大変だ! みんな心配しちゃうよ」

「でも、ある日そのペンギンは元気に戻ってきた。というか……前よりも元気な姿だったって」

「えー」

「脱走前よりも、たくましくなった。ムキムキで『かっこいい!』と仲間から言われたって」


 ペンちゃんの顔は輝いていた。マッチョなペンギンを想像して、キラキラしている様子。


「ねえママ、ぼくもだっそーしたい」

「絶対にダメよ」

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