第27話


 由香ちゃんは、お粥を食べ終えると寝具から抜け出そうと体を動かし始めた。


「由香ちゃん、まだ寝てないとだめだよ」

「やー。あそぶー」


 どうやら遊びたいと思えるほどには回復してきているようだったが、それでもまだ病み上がりだ。

 僕は心を鬼にして、由香ちゃんを止めに入る。


「だめだよ。病み上がりは安静にしないと」

「やーだー」

「ママが心配しちゃうよ?」

「……さいじょーはー?」

「僕ももちろん……心配だよ」


 その言葉を聞くと、由香ちゃんは安心するように眠りについた。

 由香ちゃんの純真な信頼が、僕の心を締め付ける。僕は由香ちゃんのことを、どう思っているのだろうか?


 理事長に押し付けられて、気が付いたら戻れなくなっていて。

 安易に理事長の事情に踏み込んで、そのくせ自分は覚悟も決めないで。

 そうやって流れに流されるままにやってきた自分の気持ちなど、もはや僕自身にもわからないものになっていたのだ。

 逆らえないから。仕方がないから。由香ちゃんはまだ子供だから。

 そういって自分の気持ちから、逃げ続けていたのだ。


 この学校に入学したのだって、そうだった。

 何か全力になれることを見つけるためなんていって、探すことを後回しにしてきただけなのだ。

 手芸を始めたのだって、秋川さんがやっていたからだ。

 結局僕は、僕自身を賭けるのが怖かったのだ。

 いつもどこかに理由を探して、鎧を着こむように言い訳を重ねて。

 その結果が、これだ。


 もう身動きも取れないその重さに、最初から持っていたのかもわからない僕の心など、もはや見出すことは不可能だった。

 僕はこのまま、自分の心もないままに押しつぶされていくのだろう。

 それが逃げ続けてきた僕の、慣れの果てだ。

 僕は、倒れ込むように眠りに落ちたのだった。

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