第26話


「ままぁ」


 由香ちゃんの甘えたような声が部屋に響く。

 その声で、僕は思考の呪縛から解き放たれた。


「由香ちゃん、どうしたの?」

「……さいじょー?」


 由香ちゃんは僕の顔を確認すると、不思議そうに僕を見つめた。

 やはりそこに普段のような元気はなく、それがとても怖く思えた。


「……さいじょー。おなかすいたー」


 由香ちゃんに言われて、僕は初めて自分の腹も空腹を訴えていることに気づく。

 時刻はすでに十四時を回っており、訳のわからない通販番組が意気揚々と商品を宣伝していた。


「お粥温めてくるから、少し待てる?」

「うん」


 消えてしまいそうな由香ちゃんの返事を聞いて、僕はキッチンへと足を運んだ。

 最新型のコンロの上にはお粥が入った鍋が用意されており、僕はこれを温めるだけだ。

 そして、その鍋の横には可愛らしい魔法少女が描かれた弁当箱が置いてあった。


「僕の昼ご飯も用意してあるって、これにか……」


 理事長のお茶目というわけではないだろう。

 きっと、これしか弁当箱を持っていないのだ。

 別に外に持ち運ばないので皿にでも盛ってくれればいいのに。


「由香ちゃん、お待たせ」


 寝具で待つ由香ちゃんに、少しだけ温めたお粥を運ぶ。

 僕が来たことを確認すると、由香ちゃんは口を開けて目を瞑った。


「あー……」

「……あーん」

「ん……」


 由香ちゃんが、もさもさとお粥を咀嚼する。

 まるで雛鳥にえさを与えているような光景に、僕は胸が苦しくなった。

 こんなにも純粋に信頼してくれている由香ちゃんを、僕は利用している。

 僕が由香ちゃんに懐かれていることを利用して、理事長との関係を保っている。

 僕は、この親子に関わる資格があるのだろうか?

 そんなことを考えながら、ただひたすらに由香ちゃんにお粥を食べさせていた。

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