第25話
理事長の家は、高級住宅街といった感じのところにあった。
なんとなく、住む世界の違いを感じてしまう。
「それじゃ、入って」
「お邪魔します……」
理事長の家は、飾りすぎず、むしろシンプルすぎるくらいだというのに、おしゃれに仕上がっている家だった。
「広いですね……」
「ええ。私と由香ちゃんだけだと使ってない部屋とかも結構あるのよね」
「もったいない」
「せっかくだし西条くんもうちに住む?」
「そういうのは卒業してからにしましょう」
冗談に冗談で返すと、理事長は僕を見て固まってしまった。
「……冗談ですよ?」
「……えっ!?ああ、冗談よね!冗談」
そんな残念そうな雰囲気出さないでください。とは言えなかった。
あの日、僕は理事長に勘違いをさせてしまっている。
あの時は手元に置いておきたいなんて浅はかな気持ちで理事長を受け入れてしまったが、本当に良かったことなのだろうか。
理事長は、僕よりずっと年上だ。
僕なんかに期待をさせてしまっていて、いいのだろうか?
一度、しっかり話し合った方がいいのではないだろうか?
いや、あれもこれも全部僕の勘違いで、理事長は僕のことなどなんとも思っていない可能性もある。
だって、僕みたいな子供に理事長のような大人が本気になるわけがない。
あの時だって、僕の考えを見抜いて僕が傷つかないように合わせてくれていただけなのかもしれない。
───一度疑心暗鬼になった僕の気持ちは迷宮入りをし、その中をぐるぐると回り始めたのだった。
「……それじゃあ、由香ちゃんのことをよろしくね」
「はい」
そんなことを考えながらも、僕は理事長から家の大体の構造を教わり、由香ちゃんを託された。
理事長を見送り、由香ちゃんが眠っているリビングへ戻る。
由香ちゃんはぐっすり眠っていて、家の中は静寂に包まれていた。
その静寂さに飲み込まれるように、僕は再び理事長とのことを考え始める。
理事長は、どこまで本気なのだろうか。
理事長は、僕のことをどう思っているのだろうか。
その答えが出ることはない。
なぜなら、その答えは理事長しか持っていないからだ。
それでも、僕は考え続けた。
何かから逃げるように、理事長気持ちを考え続けた。
その行為に、意味がないことを知りながら。
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