第10話 特別保育生
「それで、何の用なんですか?」
ようやく着替えた理事長に、改めて要件を伺う。
まさか、こんな茶番をやるために呼び出したわけではあるまい。
「あー、これよこれ」
理事長は雑に資料を引き抜くと、僕に渡してきた。
「えーなになに……特別保育生?」
特別保育生。そこに書かれていた内容は、衝撃のものだった。
まず、特別保育生に選ばれた人は、授業中だろうと放課後だろうと、学校にいる間は由香ちゃんの面倒を見なくてはいけないらしい。それが原因で受けられなかった授業は、後日補修を行うとのこと。ははは。大変そうだなあ。
「こんなのに選ばれた生徒は大変そうですねえ」
「そうね。頑張ってね」
「?」
この人は何を言っているのだろうか?
「ああ、これを渡し忘れてたわね」
理事長からさらにもう一枚の紙きれを渡される。
そこには特別保育生認定書と書かれており、さらにはなぜか僕の親の名前と印が押されていた。
「偽造はよくないですよ」
「あら、それなら親に確認してみる?」
示し合わせたかのように、理事長の言葉に合わせてスマホが震える。
『特別保育生、頑張ってね。いい人生経験になるわよ』
母親からだった。
「嘘だ!」
「嘘じゃないわよ」
「うそじゃなーい」
理事長の言葉に乗っかるように、僕の後髪をいじって遊んでいた由香ちゃんが急に反応した。
「さいじょー。おなかすいたー」
それが言いたかっただけか。
「おなかすいたって……どうすればいいんですか?」
「部室にお弁当が置いてあるから、西条くんの判断で食べさせてあげちゃって」
「僕の判断ですか!?」
「さいじょー。おーなーかーすーいーたー」
「わかった。わかったから。じゃあ部室いこっか」
僕の腕の中で駄々をこね始めてしまった由香ちゃんをなだめるように歩き出す。
別に由香ちゃんのことは嫌いではないし、授業に絶対出たいと思っているような勤勉な学生でもない。
だが、当事者である僕を置いて進んでいったこの話にどこか不満を感じていた。
いや、もっと単純に、ただただ面倒だと思っているだけなのかもしれない。
「……ごめんなさいね」
理事長室を出る瞬間、後ろから理事長がぽつりとつぶやいた声が聞こえた。
「そう思うなら、巻き込まないでくださいよ……」
僕も、誰にも聞こえないくらいの声量で返事をしたのだった。
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