第9話 由香ちゃん


 翌日、四月にしては肌寒さを感じる中、僕は真面目に学校へとやってきていた。

 すると、僕が教室に着くや否や校内放送が流れだす。


『一年B組西条優成。一年B組西条優成。登校していることはわかっているので、至急理事長室まで───』

「またか!!」


 そう叫ばずにはいられなかった。

 そんな僕を、クラスメイトたちは好奇の目で見る。

 もう、僕の理想の学校生活は手の届かないところに行ってしまったらしい。


 あの理事長、いったい僕に何の恨みがあるというんだ。

 泣く泣く理事長室まで行き、ノックもせずに突入する。

 これは僕の怒りの意志表明だ。


「理事長!用があるなら放送じゃなくて───あ」


 理事長室だというのにそこに理事長は居らず、大きなメロンが二つ───


「失礼しましたっ!」


 ははは。まったく、理事長はどこに行ったのだろうか?


「西条くーん?」


 先程まで中には居なかったはずの理事長が、僕を追ってくるように理事長室から出てきた。


「いや、理事長。これはその───って服着てから出てきてくださいよ!」


 せっかく居なかったことにしてたのに、これじゃあ意味がないじゃないか。


「ブラなら着けてるじゃない」

「その上がないから問題なんですよ!」

「そのくらいで照れちゃって、可愛いわね」

「セクハラで訴えますよ!?」

「あら、嬉しくないの?」

「いやまあそれはもちろん───って何言わせようとしてるんですか!」

「まあまあ、ひとまず中に入りましょう?」


 理事長に促されるまま中に入る。

 すると、突然何者かが突進してきた。


「さいじょー!」


 これは、まさか現世に舞い降りてきた天使──ではなくて、由香ちゃんだった。

 由香ちゃんはそのまま僕の脚に抱き着くと、甘えるように僕を見つめてきた。


「だっこー」

「だっこ?しょうがないなあ……」

「わーい!」


 あまりの可愛さに、僕の顔もふやけてしまう。

 由香ちゃんにおねだりされたら何でも許してしまうそうだ。


「……」

「理事長?」


 ふと視線を感じて理事長の方を見ると、僕と由香ちゃんを見てどこか寂しそうな表情をしていた。

 由香ちゃんを取られた気にでもなったのだろうか?


「……なにかしら?」

「いや……早く服着てくださいよ」


 そんなことを面と向かって聞けるわけもなく、僕はそうごまかした。

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