第5話 保育部


 事の顛末を話すと、理事長は眩しそうに僕を見つめてきた。


「あら~。いいわねえ、青春してて」

「ぐ……他人事だからって……」

「じゃあ、私もそんな青春に協力しちゃおうかしら」

「……協力、ですか?」


 まったくいい予感がしない。


「はい、これ」


 理事長が、何かを渡してくる。


「……鍵?」


 困惑しながらもそれを受け取ると、その鍵には本館203とラベリングされていた。


「あの、これは?」


 僕は当然の疑問を口にする。

 すると、理事長は無邪気な笑みを浮かべた。


「今年度設立の、保育部の部室の鍵よ。活動内容は、私の娘───松原由香の面倒を見ること。部長は、西条優成くん」

「僕?」

「ええ。そして、一人目の部員は一年D組の秋川明華さんよ」


 秋川明華。

 そんな名前は一度も聞いたことがないというのに、なぜかはっきりと頭の中に容姿が浮かんでいた。

 それは、昨日出会ったあの黒髪の女子生徒の姿だ。


「それじゃ、よろしくね」


 理事長がそう締めくくると、僕は理事長室を追い出されるように退出させられた。


「……噓だ」


 保育部?


「……噓だ」


 あの女子生徒───秋川さんと?


「……噓だ」


 僕の学校生活は、どうなってしまうんだ?


「……こんな青春、認められるかーー!!」


 僕の叫びは、誰もいない廊下に虚しく響いたのだった。

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