第4話 呼び出し


 翌日、いつもより少し早めに学校に着くと僕の悪評は学校中に広まっていたようで、クラスメイトたちは僕のことを遠巻きに───なんてこともなく、いつものように挨拶を交わした。


 ひとまずは僕の平穏な学校生活が守られたことに安堵していると、まだ朝のホームルームまで三十分近くもあるというのに、校内放送が流れだした。


『一年B組西条優成。一年B組西条優成。登校していることはわかっているので、至急理事長室まで来なさい。繰り返す。一年B組西条優成───』


 ははは。こんな朝っぱらから呼び出されるなんていったいどんな奴だ?顔を見てみたいものだ。

 そんなことを思っていると、ふと多数の視線を感じた。

 恐る恐る周囲を確認してみると、クラスメイト全員が僕の顔を見て固まっていたのだった。


 ───ちくしょう!考えることはみんな一緒かよ!


 さすがに認めざるを得ない。一年B組に所属している西条優成という生徒が、僕であるということを。

 しかし、いったい僕が何をしたというのか。呼び出されるような心当たりは、例の女子生徒しかない。

 とはいえ、うだうだと言っていても仕方がないので、僕は早急に理事長室に行ってみることにした。


「一年B組西条優成です」


 理事長室の扉をノックし、返事を待つ。


「入りなさい」


 中から聞こえてきた声はとても綺麗な女性の透き通った声で、思わずいらぬ緊張をしてしまった。いったいどんな美貌を持っていたらこんな声が出せるのだろうか。

 ……容姿と声は関係ない?まあそういう学説もあるよね。


「し、失礼します……」

 どんな人が待ち構えているのかと、慎重に中に入る。これでおばさんだったら訴えてやろう。


「あなたが西条くんね。娘から話は聞いているわ」

「あ、ありがとうございます」


 中にいたのは僕の学説通り美女という言葉を体現したような大人の女性だった。

 その美貌に見とれてしまったせいで、謎の感謝をしてしまったくらいだ。


 しかし、理事長は今なんて言ったんだ?娘とか言っていなかったか?ちくしょう!既婚者かよ!───じゃなくて、僕の話をするような娘って誰だ?


 僕の記憶がよみがえる。

 そう。それは昨日あの女子生徒に別れ際に向けられた、汚物を見るかのような視線だ。


 ───まずい!まさか彼女、理事長の娘だったのか!?早く理事長の誤解を解かないと、最悪退学なんてこともありえるんじゃないか!?


 慌てて理事長に弁明を図る。

 なんだか昨日から、何かに言い訳してばかりだな。僕は。


「あの、理事長!あれはその、誤解でして!僕は決して下心があったわけじゃないんです!」

「ふぅん……下心ね」


 理事長は子供のいたずらを見つけたように、不敵な笑みをした。

 それは、僕の思っていた反応とはずいぶんと異なるものだった。


「えっと……その……」

「西条くんが何のことを言っているのかわからないけど、詳しく聞かせてもらおうかしら?」


 ……どうやら僕は墓穴を掘ったらしい。

 だとすると、理事長の娘というのはいったい誰なのか。


「昨日娘から西条くんがなくしものを見つけてくれたって話を聞いたのだけれど、これは評価を改める必要があるかしら?」

「ああ、あの子の……」


 完全な早とちりに、僕は膝から崩れ落ちたのだった。

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