第4話 『流浪の民』。

 二人にどう説明しようか……。

 女神様に転移させてもらったなんて言えないし。

 そんな世迷言、信じてもらえるわけないからね。

 いやちょっと待てよ。

 俺以外にもこっちに転移させてもらった人がいるかもしれないな。

 機会があったら探してみるか。


「……信じていただけるかわかりませんが。俺は気が付いたらこの林の中に寝ていて。何故ここにいたのか。どこから来たのか。よくわからないんです。。ただ、ちょっとした常識程度は持ち合わせていまして。林を抜けてきたらこの湖が見えたんです。綺麗だな、と見ていたら。あれに襲われたんです」


 バカでかい化け物を指差してみた。

 俺が説明したあたりで、ジェラルが驚いた表情になってる。

 クレーリアさんも、同じような感じだ。


「クレーリア姉ちゃん。もしかしてあれじゃない?」

「えぇ。『流浪の民』かもしれないわね」

「流浪の民、ですか?」

「はい。ごく稀にですが、ソウジロウさんのような方がこちらに迷い込んで来ると言われています。私たちも話は知っていましたが、実際にお目にかかるのは初めてなのです」

「そうなんですね」

「はい。特出した能力を持っていると聞きます。それと共通したことがひとつあるとも」

「特出した能力ですか。それと、共通とは?」

「はい。腰に小さな鞄をつけているんだそうです。その鞄はかなり特殊なものらしく、触るだけで物の出し入れが可能だったと聞いております」

「もしかして、これのことかな?」


 俺は腰に着けられていたポーチを指差した。

 でもな、これ、金貨しか入ってないんだけど。


「どうでしょう?」

「そりゃ見ただけではわからないですよね。どれ」


 俺は死んでるはずのキングリザードに近づく。

 ペタペタとその鱗を叩いて、死んでるのを確認すると。


「入ってくれないですね。何か呪文とかあるのかな?」

「私もわかりません。ジェラル、何か知ってますか?」

「わかんないよ……」


 困ったもんだ。

 これじゃこの鞄が特殊かどうかなんてわかったもんじゃない。


「えと。『格納』。……駄目ですね。『入れ』……。『収納』……。『お願い』『どっこいしょ』『頼むよ』。……あ、もしかして」

「何か思い出されたのですか?」

「いえ。もしかしたらなんですが。……『キングリザード』なんて、できるわ──。おぉっ!」


 びっくらこいた。

 目の前からあの巨大なキングリザードが跡形もなく消えてしまった。

 まさか、収納するターゲットの名称を言うだけなんてな。


「凄い、……ですね」

「すっげぇっ」

「格納する対象を言えばよかったみたいです。ということは、俺。流浪の民だったんですね」

「えぇ、おそらくは」

「すっげぇよ、ソウジロウさん」


 感動しまくってるな、ジェラル。

 おじさんはそういう少年、嫌いじゃないぞ。

 好きでもないけど。


「さて、どうしたものか……。行く当てもなし。町もどこにあるのか見当もつきませんし」

「あの。よろしければ、私たちとご一緒しませんか?」

「そうだよ。探検者になった流浪の民の話も聞いたことあるし」

「なるほど。俺のような得体のしれない者でもなれるのですか。それ、いいですね」

「では?」

「えぇ。お願いできますか」

「はい。これも何かのご縁でしょうから」


 いい子だねぇ。

 おじさん、感動しちゃったよ。


 とりあえず、生臭くなってそうな手を洗ってから。

 二人の馬車に乗せてもらうことになった。


 道中、色々と教えてもらって助かったよ。

 ここは、レーベリア大陸といって、十数の国が存在するらしい。

 俺たちが向かうのは、ここグランケイット公国の首都、ダリアレーン。

 二人はで探検者になったらしい。


 途中でご馳走になった乾菓子。

 かんぱんみたいに焼き固められた甘いものだけど。

 凄く美味しく感じた。

 依頼で遠出するときにはよく持っていくものみたいだ。

 あの生臭いものしか食べてなかったからねぇ。


「ソウジロウさん。ダリアレーンが見えてきたよ」

「ジェラル、見えてきました。じゃないかしら?」

「ご、ごめん。クレーリア姉ちゃん……」


 ジェラル君にとって何気にクレーリアさん、躾けの厳しい怖いお姉ちゃんなのかもしれないな。

 俺的には、見ていて微笑ましくは感じるけど。


 お、結構大きな町だな。

 あのメロウリア湖もグランケイット公国の中だったんだろう。

 町の入り口には門がないからな。


 道幅は広く、両側には商店なんかが並んでる。

 中央は馬車、両脇に歩行者と棲み分けができてるみたいだ。

 髪の色も様々で、クレーリアとジェラルのようなアッシュブロンドも結構いる。

 俺みたいな黒髪も珍しくないみたいだな。

 小説で読んだみたいに『黒髪がいなくて浮いてしまう』みたいなことがなくて助かったよ。


 この国の建物は、思ったよりも近代的な造りみたいだな。

 もしかしたら、俺みたいな流浪の民がセメントなんかを伝えたのかもしれないな。

 中央広場のような場所を、馬車は左に折れて行く。

 しばらく行くと、大きな馬車が並ぶ駐車場みたいな場所あがる。

 ジェラル君はそこで馬車を停めた。


「着いたようですね。ソウジロウさん。降りましょうか?」

「はい。助かりました」


 あれ?

 看板が出てて、『探検者ギルド』って読めるな。

 文字は日本語じゃないのに。

 あぁ。

 女神様が設定をいじくったんだろうな。

 『このラジオボタンをオンにして、と』みたいに。

 ありがたや。


「これ。俺が入ってしまっても大丈夫なんですかね?」

「えぇ。大丈夫ですよ」

「ほら、ソウジロウさん。入ろうよ」


 何やらジェラル君の目が、尊敬の眼差しみたいに感じなくもない。

 俺、何かやったっけ?

 あぁ、キングリザードか。


 中に入ると、年配の男性から若い女性。

 二人と同じくらいの年の子まで見えるな。

 募集の紙が貼ってあるように見える、壁際に人が集まってる。


「ソウジロウさん。私たち、報告を済ませてきてもいいですか?」

「あぁ。構わないよ」


 二人は受付のような、あ。

 受付って書いてあるじゃんか。

 なんつ、優しい世界だよ。


 うわ。

 受付のお姉さん、胸でっかいなぁ。

 ジェラル君、ガン見してるよ。

 あ、クレーリアさんが頭叩いた。

 そりゃそうだろう。

 駄目だね。

 おっぱいは尊いものだ。

 ガン見するなんて失礼だろう。

 一瞬で脳裏に焼き付けて、すぐに視線を外す。

 心の中で、二礼二拍手一礼。

 最期に『大変結構なものでした』と感謝しないとな。


「あはは。クレーリアちゃん、ジェラルちゃんもお疲れ様」

「すみません。この子が失礼なことばかりで……」

「俺、何もしてないじゃんか」

「ジェラルっ!」

「はい。ごめんなさいっ」


 微笑ましいな。

 従姉弟とはいえ、仲がいいことはいいことだ。

 うんうん。


 二人とも真っ白いコンビニで使うようなカードを出してる。

 あれが会員証みたいなものなんだろうな。


「依頼の確認お願いしますね」

「はい。カードお預かりしますね」


 鉄製の箱。

 カードの読み取り装置かな?

 それに通してあっさり終わりっぽい。


「はい。確認取れました。いつもありがとうね」

「いえ、どういたしまして」

「シルヴェッティさん。どう? ランク上がった?」

「馬鹿ね。まだに決まってるでしょう?」


 シルヴェッティさんは苦笑してるな。


「確か、先日上がったばかりでは?」

「そうだった……」

「報酬は、振込まれてますから。あとで確認してくださいね?」

「はい。ありがとうございます」

「ところで。先ほど一緒に来られたあの方は?」

「あ、はい。ソウジロウさん。どうされます?」


 クレーリアさんが振り向いて聞いてくれた。

 そうだなぁ。

 身分証明にもなるかもしれないし、登録しておこうかな。


「はい。俺なんかでもお仲間になれるのなら」

「よかった。シルヴェッティさん。登録の手続きよろしいですか?」

「はい。では、こちらのテーブルへ」


 シルヴェッティさんはカウンターを出てきた。

 そのとき、入り口から若い男性たちが話しに夢中になりながら入ってきた。

 そのままシルヴェッティさんの背中にぶつかってしまう。

 反動で彼女は蹴っ躓き、倒れそうになってしまった。


「あっ……」


 俺は彼女を助けようと手を伸ばしたが、遅かった。

 届かない、このままじゃ床にぶつかる。

 そう思ったとき、俺は地面を蹴って彼女を無理にでも抱きとめようとした。

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