第15話 あと、礼儀
たどりついた駅の自転車置場には、まばらに自転車が置かれていた。
「あと、
「
「まあ、それも一種の信じ方、だけど。あやかしと人間は、互いの了承のもとにしか関係を結べない。なんにも思わないし、信じもしない人間が油揚げを持ってきたって、よろこぶのはカラスだけさ」
シオは自分の自転車の横に立ち、前カゴにお面を置いた。
その無造作な態度に
「だったら、最初からそう言えばいいだろ! そんな、キツネのふりなんかして!」
真剣に訴える
「悪かったよ。眠ってるとこ起こして」
「ち、ちがうよ、そこじゃない!」
「窓叩いたことか?」
心の底から不思議だという表情で、シオは聞いた。
「ちがう、ちがうよ、僕をだましたことだ。なんでそんな肝心なところがわからないんだよ! やることが決まってたんなら、い、言えばよかっただろう!
「まっすぐ伝えてうまくいくならそうするさ。俺だって夜は寝たい。でもさ、今夜のは使命感がキモだったから、
「そ、それなら、自分でやればいいだろ。きみだって、見えるんだから」
「あー、だめだめ、俺、薄揚げキライなんだよ」
「は?」
予想外の返答に、
「食べるわけじゃないんだから、そんな、好き嫌いの問題じゃ」
「無理無理。あんなスカスカな食べ物、見るのもゾッとするね」
「…
「ご名答。そうかっかするなよ。おキツネ様だって
「あ、あとさ、靴のことも嘘だから」
はシオは
「え?」
「昨日さ、放課後に待ってるあいだに調べたんだ。見た目で新品ってのはわかったからね。靴底を確かめると、溝のあいだが黒く塗られてた。知らないだろ? 夕刻に
「うん。それでこう推理した。
確かに、靴は祖母にもらったものだった。
遠方ではなく、電車で二駅のところに暮らしているが、シオには黙っておいた。
シオは自分の自転車にまたがり、じゃあな、と帰っていった。
自宅に帰りついたあと、
ベッドに入って五分と待たずに起きあがり、毛布をマントのように肩にかけ、学習机の前にあった椅子を窓辺に移動させると、カーテンを開け、座って外を見た。
川の向こう岸を、宴会帰りのキツネたちが通らないかと期待しながら。
しかし、夜の川べりには、キツネはおろか、人も、車も、鳥の一羽も通らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます