世界で最期の告白
浅桧 多加良
ぼくからのせかい
僕は今走っている。ただ告白をしたくて。本当はそんな事をするつもりでは無かった。
でも、それは一時間前に気が変わった。地球に接近していた小惑星が爆発をして軌道をそれて、地球に衝突する推測とされた。その数と質量はかなりあってこれは地球の終わりとされてしまった。
僕はこんな事になって十七歳でもう三年も好きな相手に告白する事にして走っている。もしかしたら人生最期に最悪の状況になるかもしれないけれど、やはりこの恋は諦めたくなかった。
僕は彼女の家の近くまでやっとの事で到着すると、周りを見渡した。そこは山と海に挟まれた狭い一体に住宅が並んでいる。
夜空には砕けた小惑星の欠片達が降り注ぎ始めて流れ星になって、次々に夜空に光を残して降り注いでいた。
流石に彼女の細かい住所までは知らなくて困っていると、人の気配が有る事に気が付いて振り返った。
そこには僕の好きな彼女が、海の近くで塩害から逃れる様に小高く作られた畑の一メートル程の高さの石垣に足を放り出して座って、その流れ星を眺めていた。
美人と言う言葉が似合う人ではない。どちらかと言うと可愛いが良く似合っていて、笑うときに細く無くなってしまいそうな瞳が印象なのだが、その表情は彼女が良く笑う人物なので、度々目撃できる。
しかし、今の姿は笑顔も全くなくて、スンっと引き締まった顔をしている。けれど、そんな表情だって彼女の愛らしさを軽減させる要素では無くて、クールな表情も良く似合っていた。月と流れ星に照らされている彼女はとても綺麗だった。
「どうかしたん?」
僕の事は無視をするようにずっと空の方を眺めていた彼女だったけれど、気付いたはいたみたいで、一応話しかけてくれた。
「ちょっと君に会いたくて…」
こんな事になって僕はちょっと怖気づいていた。本当なら時間も無いから会ったら直ぐに告白をしてしまおうか、なんて考えていたのにこんな返事しかない。
「ふーん、それで? どんな用? もしかして世界の終わりに愛の告白とか始めるの?」
彼女はその時ちょっと鼻で笑っていた。クスっとした顔がかなり愛らしい。けれど、それで僕の決意はちょっと揺らいだが、もう世界は終わるんだ。
「そうだよ。君の事が好きなんだ。世界の、そして僕の終末に一緒に居たい!」
「馬鹿じゃないの?」
かなりの攻撃力だ。最悪の結果で僕は最期を迎えなければならないのか。
「そっか…」
僕が肩を落として帰ろうかと迷った時に、スタンと質量の軽いものが僕の目の前に着地した。それは彼女だった。
「もっと前に言ってよ…二人で居る時間がもう終わるじゃない」
「それって…」
僕は意味が解らなくて聞き返していた。すると彼女は俯いて顔を赤らめていた。
「まだ、あたしに言わせるつもり? まあでも、最期だから言っておく。あたしも君の事が好き。一緒に星を見よう!」
彼女の放った「好き」の言葉で僕は飛び上がりそうになったけれど、彼女は照れ臭かったのか直ぐに話を替えてしまって、僕の右手を掴んで、引っ張った。その彼女の手がとても暖かくて、ちょっと震えている。多分それは最期だからの勇気が有るんだ。
僕達は石垣に上って最期の世界を眺める事にした。そこからは道が見えなくて足元まで海が続いているみたいで、その向こうには流れ星と輝く小惑星の欠片達が浮かんでいて、とても綺麗だった。でも、その綺麗さは終末を現しているからかもしれない。
「もう終わりなのかな…」
「怖い…」
普段の彼女は結構気が強くて、誰にでも怖気る事なんて無いのにそんな人からは全く想像できない言葉だった。でもそれが本音だとするならば、僕に言ってくれた事が嬉しくも有った。
僕は彼女の左手を強く握った。すると、もう最期が近付いている様で、星は光をました。彼女は死ぬのが怖くなったのか空を見る事は無くなって、僕の方へ縋り付いた。僕はそんな彼女を優しくも強く抱き締める。
星が強く輝いて僕も見てられなくなって、目を瞑った。すると瞼を通しても明るくなって、気味の悪い音が世界を包んだ。
もう僕は死んでしまったのだろうか、でもちょっと疑問が有って、僕の腕にはまだ彼女が居て、その鼓動が解る。
光に眩んだ目が段々慣れると、直ぐ近くに彼女は居て、周りを見ると穏やかな夜の海が有るだけだった。
「どう言う事なんだ?」
僕が声を上げると彼女も顔を挙げて世界を眺めた。
「死んでないの?」
僕達には解らなかったが、それから解った事では、あの小惑星は彗星だった様でその全てが氷だったらしく、大気圏で全て蒸発して、強い光と音を放っただけだったらしい。
全く人騒がせな彗星だったけれど、僕達にも世界の最期の次の日が訪れた。ただ一つ違うのは僕には恋人が居る事だ。
おわり
世界で最期の告白 浅桧 多加良 @takara91
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