第39話 おかえり
ジャンク、レオン、ダグ、ダダン。更に、シクティアス、ビト、パーピー。また、ネネとトトとジューゴ。皆の協力があって、スィーは無事戻ってくる事が出来た。
抜け道を通って、外へ出るとそこは噴水の所だった。パーピーと出会ったあの場所である。街は真夜中とは思えない程騒がしく、灯りも沢山点いていた。普段は閉まっている店も、祭りの時は特別だった。
ダダンは静かに怒りながら、スィーの手を離さずにずんずんと露店へと進んでいく。レオンたちは気を利かせて、のんびりと歩いていた。ダグやジャンクは先程までの戦いについてあれやこれや熱く語らっていたが、レオンはこれからの事を思いぐったりとしていた。
貴族様とのいざこざ、外の魔人のこと、オークションのこと、スィーのこと。血のようなワインについてもまとめなければ。そもそも、ダグは謹慎中の身なのである。当の本人は忘れているようだが。やる事が山積みだ。あの会場でのことを思い出す。
殆どがジャンクやレオンの思う通り、もしくはやりやすい通りに運ぶ中、意外な事もあった。
ダダンも貴族を倒したという事だった。
そのせいだろうか、ずんずんと進んでいくダダンの背中が以前よりも大きく見えるのは。物理的にも大きくなった気がする。魔人を、それも貴族を倒す魔物。また、怪物が出てきたな、とジャンクやパーピーの事を頭に浮かべながら、レオンは思ったのだった。
酔いどれの魔族たちの間をすり抜け、時にはぶつかって押し退けながらもうそろそろ露店が見えてくる場所にまで進んでいた。
「なあ、ダダン」
引っ張られ小走りになりながらスィーはダダンに声をかけた。ダダンは何も答えず、見向きもしなかった。
「お前何人倒した?」
「……」
「ダダン」
縋るような声を出され、ダダンはピタリと立ち止まった。その声に乗った感情が偽りだと気づいていても、ダダンは非情になり切れず、スィーに答えた。
「二人」
スィーの方は見ないまま、ぶっきらぼうに吐き出してまた歩き出した。スィーは身体の大きくなったダダンを見て考えた。首輪は乱戦で壊れたのか、していない。だが目立った傷は付いていなかった。
身体が大きくなる事は必ずしも強さに結びつかない。だが、貴族を倒してみせて、その結果身体が大きくなったのなら。
ダダンが出せる力はどの程度なのだろう、スィーはとても心踊った。
ダダンが怒っていることは多少胸がモヤつくが、ダダンが成長した事に比べれば大したことが無い。そう言い聞かせている自分には、気づかないふりをした。
そもそも、何故ダダンがあんなに怒ったのか理解していなかった。血のようなワインがスィーの血であると知ったとしても、ダダンもスィーの肉を喰っていたし、子どもたちに喰わせた時も従っていた。それが今になって、何故? 独占欲が湧いたのか、スィーに死なれたら生きていくのに困るからか。金が欲しいからか。
縋るような声を出せばあっさり答えるくせに、怒ることは止めない。時折反抗するダダンはいつも、スィーには理解出来ないのだ。
街の明るさなど露程も気にならない。目の前の大きな背中ばかり見つめて、スィーは頭を悩ませていた。
露店へ辿り着くと、真っ先にネネとトトがダダンへと飛び付いてきた。
「「おかえり!!!」」
「ああ、待っててくれてありがとな!」
ダダンは二人を抱きしめた。その時もスィーの手は離さなかった。今のダダンは二人を抱き締めるのに片腕で足りる。子どもたちは少し大きくなったダダンを見て面白そうにぺちりぺちり叩いたりした。「おおき、だだ」「つよく、なった!」などと言ってダダンを褒め倒した。
子どもたちはダダンの腕の中から降りると、スィーを抱きしめた。
「よかった」
「おかえり、しー」
「……ただいま」
スィーの手を握るダダンの手にグッと力が入った。
子どもたちに誘われるまま露店裏へ行くと、大量のクッキーにキラキラした果実ジュース。トカゲの丸焼きや、ケンタウロスの骨付き肉、
「ぱーてぃー、するよ」
「だだ、ここすわって。しー、こっち!」
言われるがまま座る……そう思いきや、ダダンは自分が座ったその足の間にスィーを座らせた。ジューゴが驚いて腹の底に響く低い声をかなり大きく出し、子どもたちはぶるぶるっと身震いしパーピーは羽を逆立たせた。シクティアスとビトは気にした様子を表面には出さなかったが、特にシクティアスは浮かべた笑みを一層優しく深くした。
後から、レオンやダグ、ジャンクが到着し、子どもたち主催のパーティーは、これから始まるのだった。
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