第34話 捜索

 ダダンは今まで聞いた説明を一つ一つ丁寧に、思考の棚に入れていった。これは生きてきた中でダダンが手に入れた一つの処世術だった。盗み聞いた会話から情報を手に入れ、『忘れてはいけない』『いつか役に立つ』『覚えておいて損は無い』そんなラベリングをして、記憶していた。


 頭の中の整頓が終わると、自然に一つの答えが頭の中に浮かんできた。ダダンは徐に口を開き、その答えを呟いた。


「……魔王争いに巻き込まれない為に、直ぐに動かなかった」

「あら、大正解よ! それにねぇ、スィーはきっと闇オークションに連れていかれたと思うの」


 パーピーの言葉に、それまで沈黙を保ち子どもたちを抱えていたジューゴが苛立ちを表すように喉を鳴らした。子どもたちはそんなジューゴをよしよしと宥めている。


「貴族には権利が与えられてるのよ、それも色々なねぇ。制約はあれど、従者を持つことも許されているわ。勿論、奴隷じゃないのだけれども、ねぇ……。闇オークションはが街の貴族様に開いてる、従者競売場奴隷オークションよ」

「その、オークションに出る前に、連れ戻す事は出来ねぇのか?」

「……難しいわねぇ。そもそも、それなりに規模のある物を魔王に隠れて行っているのよ? 外の魔人は貴族様よりも強い……。連れ去られた時点で、スィーはその管理下にあるも同然なのよ……。まあ、でも! ジャンクを嵌めて有象無象を操ったのは貴族だわ、だから、大丈夫よ!」


 貴族よりも強い魔人の管理下にスィーがいる、と言われダダンはショックを受けた。そんなダダンの心を察してパーピーは励ますように言葉を付けたした。

 しかしそれは、決して慰めの為だけの言葉ではない。実際にスィーを連れ去った魔法が貴族絡みであれば、ジャンクは必ず解析する。だから、大丈夫、なのである。


「……分かったぜ、すげぇ混乱することばっかだけどな。俺は、スィーの護衛だ。……もう失格かもしれねぇけど。スィーを取り戻す、その為に、お前たちと協力する。貴族様とか魔王とか、俺にとってどうでも良い事だけど、関係ない訳じゃねぇんだな?」

「あらあら、ちゃんと分かってるじゃない。そうなのよ? だから、お貴族様の事なんかはぜーんぶジャンクたちに任せちまいなさい」


 どうして直ぐにスィーを探しに行かなかったのか、何で悠長にここに留まったのか。探す為に、手段を考える為だ。闇雲に探してもオークションの場所は分からなかっただろう。それよりも、集ったシクティアスやダグ、ビトらと協力した方が貴族相手にも動き易い。


 余裕のあるように見えたのは唯そう見えただけで、知識のあったジャンクやレオンたちと、何も知らなかったダダンの差だったのだ。

 ダダンは心を決めた。勿論怖いし、ビビる気持ちは無くならない。それでも、スィーを取り戻すために、貴族に歯向かうと決めた。ダダンは立ち上がりジューゴに向き直った。


「ジューゴ、子どもたちを頼む」

「やだ! しー、さがす」

「ぼくも、いく!」

「駄目だ」

「なんで!」

「だだ、よわい! ぼく、ぼくたち……」


 ダダンよりも強い、その言葉は言えなかった。ダダンよりもネネやトトの方が強いのは、その通りなのだ。それでも、何故かそうでは無い、と子どもたちは思ってしまった。

 パーピーもそれからジューゴも成り行きを見守っていた。ジューゴは子守りなど到底受け入れられないが、しかし、頼られるのは嫌な気がしなかった。今まで他者との関わりはシクティアス以外殆どなかったからである。


「あー……、上手く、分かんねぇけどさ、ネネとトトが待っててくれたら、俺はすげぇ心強いんだ」

「……ほんと?」

「ああ」

「だだ、つよくなる?」

「ああ! だから、待っててくれるか?」

「……うん」

「……まってる」

「ありがとな!」


 子どもたちはダダンにしがみついた。ダダンは二人の頭を優しく撫でた。ぎゅうと強く強く抱き締めて、それからちゃんとダダンから離れた。うん、と三人頷きあって、ダダンはジューゴに「よろしくお願いします」と言った。ビトとスィーから学んだ言葉である。


「……分かった」


 ジューゴは嫌そうな顔をしつつも、そう言って頷いた。子どもたちは寂しそうな顔をしながらダダンを見つつも、ジューゴの服の裾を掴んだ。甘えているのだ。


「あらあら、あちらさんも纏まったみたいだねぇ」


 パーピーが隣の露店裏、作戦を練っていたジャンクたちの方を見てそう言った。各々、やるべき事が決まり意志の固まった表情をしている。


 スィーの護衛であるダダンと、守護兵団の隊長レオン、その心強い部下ダグ、ビト、三人の師匠であるシクティアス。貴族からも畏怖されているジャンクに、そんな彼が認めているパーピー。


 そして、皆の帰りを待つネネとトト、嫌々ながらも頼らせてくれたジューゴ。


 これ以上ない程頼もしい者たちが集っている。


 既に日は沈み、空からは暗い色が降り注いでいた。しかし、街の灯りやそれにも勝る魔族たちの騒ぎ声に、お祭りが盛り上がっている事を知った。こんな明るさも先程のダダンにはちっとも入ってこなかったのだ。

 周りを見る余裕が生まれた。


 さあ、スィーを取り戻しに行こう。


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