第31話 誘拐
レオンとスィーは露店の後ろで話をする事になった。仕事のなくなった子どもたちは、スィーが心配なのか引っ付いて離れない。
子どもたちからしたらレオンは、いきなりやって来て部屋を荒らしダダンを傷付けた悪い奴、なのである。
「血のようなワインについて、確認させて貰う。街の騒ぎは知っているだろう?」
「祭りの時は何時もこんな感じだとパーピーから聞いたぞ」
「魔族が道端で寝出す、なんてそうそう有り得ない事だ」
「そうか」
特に悪びれる様子もなくスィーは答えた。カウンターの方では未だ「マイドアリ!」とダダンが答えている。
「ドラッグや寄生蟲が入れられてないか調べないといけない。生成源はどこだ?」
「……」
「まさか、答えられないのかい?」
何も答えないスィーに怪訝な顔をするレオン。スィーに限ってそんな物を
レオンはスィーにくっついている子どもたちを見た。子どもたちはスィーに顔を
「……仕切りの中に樽がある。必要であれば調べて良い」
「ご同行を」
仕切りの中に罠でも仕掛けられていたら困る。万が一を考えて、レオンはスィーと一緒に樽を調べる事にした。流石に子どもたちは付いてこさせなかった。
仕切りの中にあったのは、台とその上に中が空っぽの樽だけ。特に怪しい様子はない。
「これは、ジャンクが作ったのか?」
「そうだろうな」
レオンが仕切りと樽を指してスィーに聞いた。どこにも魔法陣が見当たらないが、色々な魔法が散りばめられていると感じ取れた。こんな離れ業そうそう出来るものでは無い。例えば、異端児と呼ばれた天才お貴族様では無い限り。
「……」
「……」
二人の間に沈黙が落ちる。レオンは一向に調査をする素振りを見せず、スィーに質問をすることも無かった。ダダンの声ももう聞こえない。ワインは全て売りきったのだろう。
「……」
「おい、」
「静かに、してて、くれないか。物凄く迷っているんだ」
そう言って、眉間に皺を寄せたレオンは樽を片手で掴み上げ、台の上に座り込んでしまった。
血のようなワイン、推測するにドラッグや寄生蟲は入っていないだろう。それは確定と言っても良い。ジャンクはそんな下らない物を嫌悪しているからだ。巨大な貴族の一派を壊滅させる程度には。正攻法で規格外な異物を以て、周りを驚かせたがるのがジャンクなのである。
そんなジャンクが手を貸したのだ。これ以上疑う必要など何処にあるだろうか。
なればこそ、だ。血のようなワイン、これは『のような』では無いだろうと想像が付く。強い魔人の血は、人に良く似ていて美味と聞く。
そう言えば、結局喰わされたあのハンバーグも美味しかった。料理長の腕が良いのだろうと思っていたが、そうではなかったのかも知れない。
これを、本人に確認するか、黙認して血のようなワインに問題は無いとするか。いや、実際に血であろうがなかろうが、混入物が異質な物でなければ問題は無いのだ。
だが、血であると判明した場合。スィー自身をどう扱うか問題になってくるだろう。もしかしたら、魔王や魔王を目指す物に目を付けられる可能性がある。
頭が痛い。出来れば知らなかった事にしたい。今ならまだ間に合う。
「スィー殿、」
「やべぇ! 離れろ!!」
「!?」
「何だ?」
レオンが悩みに悩んで答えを出そうとした時、仕切りの外からジャンクの鋭い声が飛んできた。何事かと驚き、レオンもスィーも仕切りの外へ行きかけた。その瞬間。
「あ?」
「スィー殿!!」
仕切りの中が淡い紫色に光ったと思うと突如、何も無い黒い空間が発生し無数の手が現れた。無数の手は瞬く間にスィーの身体中にしがみつき絡み合うと、そのままスィーを引きずり込んでしまった。抵抗する間も、手を差し伸べる間もなく、スィーは空間の中へ消え、無数の手も黒い空間も跡形もなく溶けていった。
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