第27話 共喰い
思ったよりも早く露店の目処が立ったスィーたちは、街を散策する事にした。とはいえ、主な目的はいろんな露店を回って美味しいものを好きなだけ喰う! である。子どもたちは大はしゃぎ、ダダンも一緒になって目をキラキラ輝かせていた。
先程スィーから「金の心配はしなくていい」と言われ、目にした新しいものは尽く買っている。
生きた稚魚の丸呑みツブツブジュースや、もぎたて
奇抜な物が目を引く中、王道な物もちゃんと売っていた。果実ジュース、というのも至る所で見かけた。色とりどりの飲み物は、全て草木に成る実から出来ているという。
「きれい!」
「ほうせき、みたい」
「わたし、めろん!」
「ぼく、いちご!」
「俺は林檎にするぜ、スィーは?」
「林檎」
売り子からジュースの入った透明なコップを受け取り、銀貨一枚を渡し小銀貨二枚のお釣りを貰った。
小銅貨十枚で銅貨。銅貨十枚で小銀貨。銀貨、金貨へも同じくだ。金貨よりさらに高価な通過は、魔王の血で出来た
陽の光に照らされて輝く、緑色、赤色、透き通った薄黄色。コップに口をつけて恐る恐る飲むと、甘酸っぱい果物の味がぶわりと広がった。
「んー!! おいしい!」
「すっぱいのに、あまい!」
「おー、すげぇなこれ!」
「うむ、美味いな」
「とと、ちょっと、ちょーだい」
「いいよ、ねねのも、ちょーだい」
子どもたちは、お互いのジュースを交換して飲み合った。空になったゴミは近くの露店に設置してある袋に入れれば大丈夫らしい。売り子曰く、『道端に捨てれば魔王に殺されるぞ』との事。どこまでも治安や文化を維持する事が力を示すのに一番有力なのだ。
甘い物を食べた後はしょっぱい物が食べたくなるものである。丁度良くリザードマンの肉が串焼きで売られていた。子どもたちは隣の
好奇心に負けたダダンはリザードマンを喰ってみることにした。すかさずスィーが突っ込みを入れる。
「共喰いだ!」
「違ぇ! 俺はキングリザードマンだ!」
自分に言い聞かせる様に声を大きく出してスィーに反抗した。売り子から肉を受け取り銅貨三枚を渡す。串焼きを手に持ち、いざ食べてみるとなると心臓がドキドキと鳴った。
酷い見た目だったクレープという名の、心臓の皮包~血のジャムを添えて~を食べる時とはまた違ったドキドキだ。
思い切って串を口の中に突っ込み、刺さっている肉を一気に全部引き抜いた。舌で触って、直ぐに噛む、噛む、噛む。
味はタレのおかげで美味かったが肉はパサパサしてて、そんなに美味くなかった。何となくホッとした。いや、少し残念な気もする。
子どもたちはゴリゴリバキボキという音を響かせながらふわふわ串焼きを食べていた。見た目に騙された、と最初はビックリしていたがだんだんと癖になったのか二人はニコニコ笑顔で喰い尽くした。
次の露店にはトカゲの丸焼きが串に刺さって売られていた。またも、ダダンは好奇心がそそられて、喰ってみることにした。子どもたちも「もりに、いた!」「しっぽ、とれる!」と興味津々だ。
売り子に三人分の金を渡す。銅貨三枚だ。どの露店も割高で設定されている。特に、四人分のジュースが銀貨一枚とは、ぼったくりも良い所だろう。街のカフェで飲んだ
ただ、誰にでも吹っ掛けているのではなく、気前よく払っている者に
トカゲの丸焼きはリザードマンの肉の串焼きよりも随分と小さな串焼きだった。子どもたちも二口でペロリと食べられる大きさだ。またも、スィーが突っ込みを入れる。
「共喰いだ!!」
「ち、違ぇ! 俺は魔族だ!」
ダダンの否定は先程よりも弱々しかった。リザードマン種がトカゲを祖に持つ事は知っていた。何故、知っているのか何処で知ったのかはもう忘れた。きっと、荒れ地で追いかけ回され馬鹿にされ嘲笑われていた頃、投げ掛けられた言葉にその類の物があったのだろう。
このトカゲ野郎なんて、如何にも昔のダダンにぴったりの言葉じゃないか。
思い切ってトカゲを口の中に突っ込む。ぐっと串を抜くと、噛んで噛んで噛んだ。
トカゲの丸焼きはパリパリしていて面白かった。肉自体は少なくて物足りなかったが、味はそこそこ美味しかった。また食べるなら断然トカゲの丸焼きだ。
「ぷりぷり、おにく!」
「もちもち! ぱりぱり!」
子どもたちがダダンを指して、巫山戯てるのか本気なのか分からない事を言った。とても美味しい肉だったのだろう。「も、ひとつ」「しー、おねがい」とねだっている。
スィーはニッコリ笑顔を貼り付けてダダンの方を見た。
「お前の肉も売ってみるか?」
「ヒェッ、や、止めろよ!」
「ははっ、冗談だ」
口ではそう言いつつも棒読みで、スンと真顔になったスィーを見てダダンはすぐに言い返した。
「嘘だ!!」
「そうだな」
「……ヒェッ!?」
「た、たたた確かに俺はヒールが効くしホーリーブレスも習得したから肉を切って売って回復してって繰り返せるけどおおおお俺の肉は上手くないと思うぜぜってぇ不味いそう不味いから止めてくれ頼む頼むたのむたのおおおお」
頭を抱えて壊れたようにブツブツ呟くダダン。そんなダダンを尻目にスィーは子どもたちに一本ずつトカゲの丸焼きを買ってやっていた。
「だだ、とかげ?」
「だだ、おいし?」
むしゃむしゃとトカゲを食べながら、子どもたちはスィーに
「さあな。尻尾が取れたらトカゲなんだろう?」
槍のように先が鋭いダダンの尻尾を見ながらスィーはそう答えた。ダダンは未だに「俺は美味しくない」と繰り返している。子どもたちは好機とばかりに、そろそろとダダンの後ろから近づいて、ギュッと思いっきり尻尾を引っ張った。
「ヒェッ!」
「あれ、とれない」
「だだ、とかげ、ちがう」
ギュッギュッと何度か引っ張るものの当然、尻尾を囮にして逃げる事は無く、ダダンは困惑した表情を浮かべて子どもたちとスィーを交互に見ていた。
硬い鱗で覆われているダダンの尻尾を思いっきり握っても、子どもたちの手は少しも傷付いていなかった。ダダンはその事実に、またショックを受け項垂れた。
「あはは! 本当に馬鹿ちんだな、ダダン」
「だだー! あるく!」
「あっち、いくよ、だだ!」
スィーに笑われ子どもたちに足を押されながら、ダダンは何となく楽しい気分に包まれていた。怖い事も驚く事もあったが、それはそれこれはこれである。
スィーが隣に居て笑っていて子どもたちと一緒に楽しさを分け合えること。ずっとそんな時が続けばいいと思う。続かない事を知っているから、余計にそう感じた。
スィーたちは子どもたちに引っ張られて色んな露店を見て回った。ヘンテコな食べ物や小物、素敵な食べ物や小物。どれも等しく子どもたちは欲して、スィーはそれを受け入れていた。
パーピーの露店に戻り、スィーが色々と話し込んでいる間もダダンは子どもたちに連れられて露店を回った。ほぼ一日中食べているのにまだ食べる子どもたちが恐ろしく思えたのは、ダダンだけの秘密だ。
四人が宿屋に戻ったのは、日が沈み暗い青色が街を覆い尽くした頃だった。
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