第24話 資金調達
一悶着あったものの、シクティアスに言われて四人は朝食を食べる事にした。相変わらずジューゴが一人でテキパキと仕事をこなしていく。
調理場に近い大きなテーブルに、スィーとダダンが横に並び、スィーの向かいに姉、その隣に弟。また、ダダンと弟の斜め隣にシクティアスが座った。スィーと姉の斜め隣、シクティアスと向かい合うようにジューゴが座る予定だ。
「出来たから持ってけ」
ジューゴの言葉にそれぞれ立ち上がり、料理をトレーごと運んでいく。子どもたちの分はダダンが持っていこうとしたがジューゴに止められた。ここで働く気があるなら自分のことは自分でしろ、との事だ。確かに、と思いダダンは子どもたちを見た。
「だいじょぶ」
「ぼく、できる」
ゆっくりゆっくり、二人は落とさないようにテーブルへと運んでいった。
トレーの上の皿にはそれぞれ、小さめの丸いパンが2つ、黄色のスープ、魔族の肉と思わしきステーキとそれを包める程大きな緑色の葉っぱ一枚が乗っていた。
「ジューゴ、果物は」
「忘れた」
「言い訳はあるかの?」
「だぁから、昨日は、」
「ほっほっほ」
「…………ックソ! 悪かったな!」
もうお決まりなのだろうか、スィーは昨夜も見たやり取りをある意味感心して見ていた。ここまで上手く他者を扱えるとは、シクティアスも相当曲者だ。
子どもたちは「ヨキカテヲ!」と明るく言ってパクパクと食べ始めた。
子どもたちもここなら楽しめるだろうと思いながら、スィーも朝食を食べていった。
「今日は何をするんじゃ?」
朝食の感想を言い合ったり、葉っぱは皆も喰うものなのかとダダンがショックを受けたり。そんな時間が終わった後、子どもたちが食べ終えるのを待ちながらシクティアスは尋ねた。
ダダンも聞きたいと思っていた事だった。先程スィーは、もう少しこの街にいるぞと言っていた。何かする予定があるのだろうか。
「これを換金して、それから露店で金を稼ぐ」
「ほう、そう言えばもうすぐ祭りじゃのう」
「祭り?」「「まつり!」」
ダダンと子どもたちの声が重なった。そこに含まれる感情は大きく差があったが。
「この街の魔族たちも息抜きが必要じゃろうて、暴れはせんが、闘いの場もあるぞい」
「うむ、稼ぎ時だ」
宿屋のお陰で良い物を喰い、良い寝床で過ごせているが、未だ小銅貨一枚すら払ってない。他の宿屋では考えられない事だ。
「何か手伝う事はあるかの? ジューゴを遣わすぞい」
「はあ!?」
「露店は朝から日暮れまでやるつもりだ。その間、子どもたちを見てやってくれ」
「てつだう!」
「ぼくも!」
話を聞いていた子どもたちは、そう訴えた。スィーとしては、何日か露店をやる予定でその間は祭りでも何でも楽しめばいいと思っていた。子どもたちとしては、残り少ないスィーとダダンと居られる時間である。離れたくないと言うのが最もだろう。
「ふむ、分かった。だが、夜は駄目だぞ。片してる間はジューゴに見てもらえ」
「うん」
「わかった」
「俺は良いなんて一言も言ってねぇ! そいつが見れば良いじゃねぇかよ!」
「ヒェッ」
突然ジューゴに鋭い爪の先端で指され、ダダンの口から情けない声が漏れた。目つきの悪いジューゴが更に睨むと、ダダンはぷいと顔を背けた。
スィーが口を開き、何事か言おうとした時。
「俺は、スィーの護衛だ!」
ダダンが先に、そう言った。
シクティアスはそれを聞いてほっほっほと笑い出した。スィーは意外だと言うように一度ゆっくり口を閉じた。そうして満足気に口端を釣り上げ笑った。
「……そういう事だ」
「ふざけんな! この、」
「ジューゴ、聞き分けんか。この子たちは後輩じゃぞ。先輩として振る舞いなさい」
優しい口調で諭すようにシクティアスが言うと、ジューゴは荒々しく席から立ち上がり、トレーを持って調理場へと駆けていった。
子どもたちも食べ終えており、それぞれトレーを持ってカウンターに置いていった。
「おいしかった、じゅーご、すごい」
「ありがと、じゅーご!」
これにはジューゴも何も言えなかった。子どもたちからしたら、食べた後に感謝の言葉を伝える事は親から授かった習慣になっている為、特別な事ではない。しかしジューゴは、シクティアス以外からこんなに素直に褒められたのは久方ぶりだった。
うじうじと文句ばかり垂れる自分よりも余っ程格上じゃないか、と打ちのめされたのだった。
宿屋を出た一行は換金所へと向かっていた。傍から見れば、大柄半裸の魔族が魔人族の子どもを引き連れている様に見えない事もないが、四人の雰囲気を感じれば杞憂だと分かるだろう。
時折子どもたちはダダンの足にしがみついて運んでもらっていた。きゃあきゃあはしゃぐ二人は、とても楽しそうだ。
換金所は景観を壊さない質素な茶色の建物だった。人族の使っていた建物をそのまま流用しているのだろうとひと目で分かった。そういう建物がこの街は多い。魔人族や魔族では再現出来ない飾りや扉の作り。美的センスとでも言おうか、きっと街の街灯も外見は人族の造った物を使っているに違いない。
ガスや電気は使いこなせず、魔法で補っている。勿論、全て魔王の力による物だ。
中へ入ると奇抜な置物や見た事もない柄の布が壁際にどさどさと置かれていた。美しい大きな石やキラキラ輝く液体なんかも、透明なショーケースの中に入れられている。
天井は高く、ダダンは背を丸めなくても立っていられた。しかし壁にかかった面妖なお面を間近に見てしまい、その薄気味悪さに身体を小刻みに震わせた。
「らっしゃい」
やる気の無さそうな声がスィーたちの耳に入ってきた。そちらを見れば、貧相な見た目の浅黒い肌をした背の低い魔人が受付に居た。パッと見ると子ゴブリンによく似ている。だるそうにカウンターに片肘をつき、顔を置いていた。スィーたちを一瞥し、カウンターをトントンと指で叩いた。早く物を置け、という事だろう。
「いくらだ」
スィーは左腕の袖の部分を受付の魔人に見せ付けた。魔人はそれなりに歳をとった風貌で、子どもたちからおじさんと呼ばれても致し方ないだろう。しかし子どもたちは受付の端に置いてあるお香が嫌なのか、ダダンと一緒に離れた場所で待機していた。
魔人は無遠慮にスィーの差し出した服を触ると、仰天し大きな薄茶色の瞳をさらに大きくした。
「なんだこりゃあ」
男にしてはかなり高い声を上げ、スィーの服を食い入る様に見つめた。スィーは意地の悪いことに、パッと左半身を翻し男の手から服を取り上げた。
「一度しかチャンスはやらんぞ」
言外に値切ったら売らない、と匂わせてスィーはニヤリと口端を上げた。小柄な男はあー、と何やら考えて唸り、カウンターの下から布袋を取り出すとスィーの目の前にドンッと置いた。
スィーは中身を確認すると、「ふむ」た小さく頷いた。中には金貨、銀貨、銅貨、大小それぞれがぎっしり詰まっている。店の金ではない、魔人の男の
「いいのか?」
「この店は趣味みてぇなもんだ。本当のお宝はコレクションするのが俺の生き甲斐だ」
「金持ちの娯楽は理解に苦しむ」
そう言いながら、スィーは左腕の袖部分を指で挟んだ。するとスィーの意思が通じたかのように、袖は綺麗に切り離された。男は両手で受け取り舐めるように真っ白な布を見つめた。
「それを言うんじゃねぇよ。おい、またいいモン見つけたら此処へ持ってこいよ!」
「私の事はスィーと呼べ」
「へっ、俺はジャンクだ。また来いよ、スィー」
「機会があればな」
そう言って、心配そうに待っていたダダンと子どもたちを連れて外へ出た。最初の資金はこれで揃った。露店をやるまでもなくかなりのお金を手に入れたが、金はあればあるだけ良いものだ。
ずっしりと重い布袋を抱えて、スィーは歩き出したのだった。
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