最終話

桜の奥義、桜の奥義、桜の奥義…。


バーカウンターのすべてのアルコールの瓶を確認したが全く見つからない。


「すみません、桜の奥義ってどこにあるか知ってますか?」


と近くいたホストに聞くと


「あー…?あ、アルコールの瓶はこの廊下行った右の更衣室の奥に倉庫があるからそこ見てみぃ。」


「ありがとうございます!」


私は駆け足で倉庫に向かった。


桜の奥義…その名前だけをヒントに瓶を探していると

隣の更衣室からキャバ嬢の人たちの声が聞こえる。


「今日あの客来るらしい。」


「はぁ!?マジで今日早退しようかな。」


「見つからなければなにもされないって。」


「いやあいつらめっちゃ鼻いいんじゃないの?マジで人間じゃねぇ。」


お客さんの愚痴を言い合ってる。

その人はだれをいつも指名してるんだろう?


そんなことを考えつつ桜の奥義を探していると棚の一番奥に一つ埃まみれになった桜の奥義を見つけた。


あった!よかった!


「来たわよ!」


キャーという叫び声が聞こえて

フロアに戻ろうとしていた私はとっさに更衣室の荷物台の死角に隠れる。


ちらほらいた人がみんな身を縮めて隠れている。


すると悪臭がこちらの部屋まで来る。


ちらっと扉の向こうを覗くと、ゾンビかと見間違うくらい身なりが汚い人が団体でフロアにはいっていく。


その中にキャバ嬢が担がれて連れて行かれるのか数人見えた。


手に持っていた桜の奥義を見る。


お客さんの注文持っていかないと。


私は駆け足でバーカウンターに戻って、おじいさんがくれたメモを見ながら急いで作った。


「はぁ!?みさきちゃんやめたのかよ?」


「はい。すみません。」


あのゾンビの客はどうやらやめたミサキさん目当てで店に来ていたらしい。

しかし、匂いも声もとても不快だ。

あんなに怒鳴り声出したらほかのお客さんが迷惑だと思わないのだろうか。


私はエメラルドブロッサムを作り終えて、

頼まれたお客さんの席の戻ろうとするとあのゾンビの1人に腕をつかまれる。


「え…はい?」


「おい、ウイスキーもってこい。今すぐ、三本。氷もな。」


「え、このお酒…」


「早く!」


「はい!」


私はまたバーカウンターに戻り、頼まれたものを集めて一発で持っていけるようにトレイに乗せて持っていった。


「さっさと注げ。」


私は団体全員の酒を入れる。

あー、早く持っていかないとあのお客さんカンカンだよ。


「では失礼します。」


私は急いでバーカウンターに戻る。


エメラルドブロッサムの氷が無情にも溶けている。

私はまた作り、持っていく。

慣れないヒールで早足で歩いた。


すると足がカク…っとして、思いっきり横に転んでしまった。

その時グラスもスポッと手を離れてビシャ…とどこかにかかった音がする。


「大変申し訳ありませんでした!」


私は土下座する。


「なんだぁ!この店は!ブスとバカしかいねぇのか!帰るぞ!こんなクソな店一生来ねぇ。」


あのゾンビの団体のミサキさん目当てで来た人にぶっかけてしまったよう。


私の土下座なんか見ずにぞろぞろと帰っていく。


あたりは静まり返る。


せっかく受かったのに…、これでここをやめさせられる。


「エミルちゃん。」


オーナーが私の肩を叩く。

終わった。ここでは働けない。


私はおとなしくオーナーに顔を向ける。


「エミルちゃんありがとう。」


オーナーがおしぼりを渡してくれる。


「最高のずっこけ!」


「やっとクセェのいなくなった!換気しろ!」


「ブス、ありがとう。」


みんながなんでか私に感謝してる。


「え…、あの、私やめないといけないですよね?」


「ん?普通お客様にあんな風にぶっかけたら処罰はあるけど、あの客はだいぶ迷惑だったからエミルちゃんが追い出してくれて本当よかったよ。

だからやめるなんて言わないで。」


「…やめなくていいんですか?」


「もちろん。これからもよろしくね。」


「はい!」


これを機にキャストの人と仲良くなり、お客さんにもこの話が広がり、私と話して見たいと言ってくれる人が増えた。


これで少し根暗な性格も良くなるかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホス×キャバ 環流 虹向 @arasujigram

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説