Ep.2 スーツと彼女の示す道 ②

* * * * * * * * * * * * * * *


「早く逃げてください!!」


ジーナが人々を庇うように光の障壁バリアーを展開すると、そこに大型のモンスターがぶつかってくる。

虎の身体に山羊のような角が生え、鷹のような翼を持ち、尾が蛇のようになっている全長4m程のそのモンスターは所謂、合成獣キマイラだ。


口をくつわで塞がれ、脚に千切れた鎖をつけられたその合成獣キマイラの暴れ方は、人間を襲う……というよりも、とにかく興奮して混乱しているようにジーナには見えた。

ジーナの後ろで、小さな女の子が恐怖のあまりしゃがみこんで泣いている。


「は、早く逃げるわよ!!」


母親らしき女性が、女の子を抱き抱えて合成獣キマイラに背を向けて走り出す。


「あの、ありがとうございます!!」


一瞬振り返ってお礼を述べた母親に、ジーナは笑顔で返すと、再び合成獣キマイラに向き直る。

障壁バリアーに衝突した合成獣キマイラは再び飛行し、またどこかの壁や地面にぶつかっていく。

その先に逃げ遅れた人がいれば、ジーナは先回りして障壁バリアーを展開していた。

そこに、衝撃音を聞きつけたルディオが現れる。


合成獣キマイラ……!!?」


ルディオは周囲の状況を確認し、なるべく多くの情報を集めた。

壁や地面に何カ所かクレーターができている。

ルディオが聞いた衝撃音は、合成獣キマイラが衝突して立てた音に違いなかった。

そして、道端には大型トラックが転がっていた。

それは先ほどジーナが注目していたトラックだ。

その荷台は、大きな力で無理矢理破壊されているように見えた。


ルディオは推測を巡らせ、ハッとする。

合成獣キマイラはあのトラックから逃げ出したもので、ジーナはその危険性にあの時点で気がついていたのではないか。

当のジーナは、障壁バリアーで逃げ遅れた人々を守っている。

細かい話は後にして、今は加勢するのが先決に違いなかった。


「ジーナ!!」

「あ!! ルディオさん!!」


ルディオが駆けつけると、ジーナは粒子化して彼に憑依した。

幽霊のように半透明になり、ありとあらゆる干渉を避ける最高の護身魔法『粒子化』。

その状態で他者に取り付き、魔力を与えるのが『憑依』だ。

クローネに魔力をほとんど奪われたルディオだったが、ジーナの憑依によって奪われる前よりも遙かに高い戦闘力を発揮することが出来た。


「死ねぇッ!!」


ルディオが腰のサムライ・ソード《村雨》で斬りかかると、合成獣キマイラはそれを避ける……が避けきれず、左前脚は斬り飛ばされる。

そして、ルディオの放った斬撃は合成獣キマイラを斬った後もとどまらず、その切っ先にあったレンガ造りの建物の角をチーズのようにすぱっと切断する。

斬られた角が地面に落ち、砕ける。

幸いにも人がいなかったので何も起こらなかったが、一歩間違えれば大事故であった。


「ルディオさん!! 町中なんであまり無茶しないでください!!」

「ああ……!!」


あまり派手な戦い方ばかりしていると、町に被害が出る。

建物の中にも逃げ遅れた人がいるに違いないのだ。

合成獣キマイラは、近くにあった建物の壁に正面からぶつかっていく。

ドンッという衝撃音とともに壁は凹み、合成獣キマイラの口を塞いでいたくつわはガシャンと外れた。


すると、合成獣キマイラの口腔が煌々と光り出す。

先のドラゴンとの戦いでも見た、熱線だ。

その銃口は、レンガ造りの建物に向けられる。


「ジーナッ!!」

「はいっ!!」


ルディオは標的となった建物の壁を垂直に走り、あえて合成獣キマイラの銃口に身を晒す。

そして合成獣キマイラの放った熱線は狙い通りルディオに向けて放たれ、ジーナが光の障壁バリアーでそれを防いだ。

数秒の間、熱線に晒されるジーナの障壁バリアー

ルディオは壁にサムライ・ソードを突き刺すことで、それを支えた。


そして熱線が止むと、ルディオは合成獣キマイラに向かって跳躍し、その身体にしがみつく。

じたばたと暴れてルディオを振り落とそうとする合成獣キマイラの顔に、ルディオはサムライ・ソードの切っ先を向ける。


「吐くんならてめぇの血を吐きやがれぇッ!!」


そして、合成獣キマイラの喉奥に深々とサムライ・ソードを突き刺す。


「があああぁぁっっ!!?」


ルディオの要望通り、合成獣キマイラは大量の血を吐きだし、痛みのあまり暴れまわる。


「くそっ……!!」


血液で手を滑らせたルディオはサムライ・ソードを放してしまい、そして合成獣キマイラの背中から落下してしまう。

ルディオは地面にドンッと足から着地すると、体勢を立て直して走り出す。


「《村雨》を放しちまった!! もう一回乗るぞ!!」

「はいっ!!」


ルディオが喉奥に深いダメージを与えたおかげか、合成獣キマイラが熱線を撃つ様子はない。

そして、ルディオを明確に敵として認識した合成獣キマイラは、残った左前脚の爪を立てて突っ込んでくる。

その攻撃を避けて、再び合成獣キマイラの背中に乗ったルディオは、合成獣キマイラの口から力ずくでサムライ・ソードを引っこ抜く。


「うぉらァッ!!」

「があああぁぁぁぁっっ!!!」


痛みのあまり鳴き声をあげながら、大量の血を吐き出す合成獣キマイラ

そしてルディオはサムライ・ソードで合成獣キマイラの背中を大きく斬ると、その傷口に腕をつっこむ。

力の入れづらい体勢もあり、分厚い筋肉や骨に遮られて内側までは傷つけられなかったものの、ルディオの腕はその皮膚の下に完全に埋め込まれた。

そして、暴れ回る合成獣キマイラにしがみつきながら、じっと腕を埋め続けた。


「臓破抜刀術!!」


ルディオはそう叫ぶと、ルディオは合成獣キマイラの体内から赤く、太い剣を取り出した。


「あがっ……!!?」


合成獣キマイラはそう静かにうめくと、大量の血液を口からだらーっと吐き出す。

ルディオが合成獣キマイラの体内から抜刀した赤い剣は、このモンスターの血液。

合成獣キマイラは剣を形成され、抜刀された時点で、内蔵を深く傷つけられ、大量に出血し、絶命したのだ。

そしてその死骸は、ゆっくりと高度を落としていく。


「ルディオさん!! 障壁バリアーで衝撃を吸収します!!」

「わかった!!」


ジーナの呼びかけに応じて、ルディオは出来る限り合成獣キマイラの頭側にしがみつく。

そしてジーナは、その頭からお腹を覆うように障壁バリアーを展開する。

翼による飛行を失い、急速に落下していく合成獣キマイラ

その身体は滑空し、レンガ造りの建物に突っ込んでいく。


「ハァッ!!」


しかし、その衝突時にジーナの障壁バリアーが衝撃を吸収してガシャンと割れる。

そして建物は無傷のまま、合成獣キマイラはルディオとジーナを乗せて落下した。

ルディオはしがみついたその身体が徐々に熱を失っていくのを感じながらも、立ち上がってスーツに付着した毛をはらっていく。

そしてジーナも、粒子化と憑依を解除して自らの足で地面に立つ。

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