第八話〜狂気と殺気〜

レツィア「さっきの声からして良くない知らせか—答えて」


クロサキ「……教官を含め、配置していた30名のTSが拉致された」


彼女に全てを話した


クロサキ「—以上だ、なんとしても彼等を助け出さねばならない—

しかしこの状況は最悪だ、どう打破するか—」


レツィア「要求はわたしでしょ、ならやることは一つしかない」


クロサキ「だからこの身動きが取れない状況の解決策を—」


レツィア「手を、わたしの手を握って」


言われるままに、彼女の手に触れた刹那—


レツィア「ありがと——“並列転移”」


§並列転移§

ランクB -【転移系列】

触れ合ったモノ同士の場所をお互いに入れ替える

会得すれば、物理・魔術干渉えお受けずに行える


クロサキ「ッ⁉︎」

レツィア「動くな—自身の魔術で不動を維持して」


クロサキ「…一人で行くつもりか?無策で行けば—」


レツィア「一時間でできるの?」


クロサキ「それは…」


レツィア「——彼が関係した時点で、わたしが行かなければならない」


部屋から出ようとする彼女を呼び止める


クロサキ「なぜッ⁉︎そうまでして奴に拘る理由はなんだ⁉︎

——それに、捕らえられているのはウチのメンバーだ!行くのは私でいい‼︎」


レツィア「—サクヤ、これはわたしの問題であり

貴女をこれ以上、巻き込みたくないわたしの意思でもある」



クロサキ「……一体何があったの?今までずっと黙っていたが、

“あの時”から貴女は少し変わった—それが関係している…?」


レツィア「——言えない、全てが決着するまで」


クロサキ「何それ…風紀委員がここまで介入してその答えは—」


レツィア「人質は必ず救出する」


——気配が消えたようだ


クロサキ「……決着付いたら教えなさいよ」




∬アラノイヤタワー∬

フィアノレイスの中心にそびえ立つ、政府管轄の巨大な芸術の塔


レツィア「39分—」


瞬間、気配が周囲に広がる

どうやら傭兵部のメンバーらしい


レツィア「わたしを試しているの?なら運が悪かったわね

今とても機嫌が悪いの—だからさ、殺しちゃっていいかな」


【七階・イシュカムシュの間】


ダニメラ「彼女が来たようです、ユクシヌ卿」


ユクシヌ「舞台は整った、さぁ宴の準備だ」


ダニメラ「しかしまだ、選び抜かれた傭兵部100人が待機しています」


K「そんなものは余興にも、時間稼ぎにすらならない—そうでしょう?」


ユクシヌ「腕が鈍ってない事を祈る」


—五階—


ホムドス「本当に一人で来たのか!あの女!罠だと知りつつ

乗り込んだ事には感服する!しかし!考えが甘過ぎる」


レツィア「そうかしら」


皆「ひッ⁉︎」


ホムドス「待て…なんで…ここに—」


凍てつくような冷気を帯びた殺気がエレベーターから流れ出る

——扉が開くと、そこには無傷の彼女が立っていた


ホムドス「…下の連中は…どうした?」


彼女は言葉を発せようとせず、笑みだけを浮かべていた


ホムドス「どうだと聞いて—」


——無線が入る


📲「…イ、タイ…ァ…」


ミムバス「タワー前広場の傭兵部に同行していた、我が部隊からです!」


ホムドス📱「状況を報告しろッ‼︎」


📲「…傭兵…ひゃく、ニン…全員、死亡…部隊モ、壊滅し—」


レツィア「まだ生きてたんだ、皆殺しにしたつもりだったのになぁ」


ミムバス「へ…?レヴァノイズの親衛隊が…?」


レツィア「あぁ、あの騎士風の白服さん?

見たことある服装だったから、念入りに殺したわ」


——殺気が拡大する


ホムドス「来るぞッ‼︎臆することはない

我らが栄光あるレヴァノイズ親衛隊に、敗北など有り得ないのだ‼︎

陣形デルタ、展開ッ‼︎対象を滅せよ‼︎」


レツィア「—レイジはどこぉ?ワタシのれいじ」



—七階—


ダニメラ「二つ下の階からの連絡が途絶えました」


K「最後の通信連絡からどれぐらい経った?」


ダニメラ「1分弱です」


ユクシヌ「ほぅ、彼女相手にそこまで持ち堪えるとは—

人選は間違っていなかったか」


ダニメラ「—宴が整いました」


ユクシヌ「よし、最終考察と行こうか—彼女の今の人格を見極める」



—六階—


エレベーターが開く


そこには吊るし人形状態にされた風紀委員のTS達がいた


——全員が事切れている


腕時計を見ると、50分を過ぎようとしていた


レツィア「一時間経ってない—約束を違えている」


怒りが溢れ、思わず歯軋りをしてしまう


そして一歩踏み出した瞬間—


TS達が地に降ろされ、操られたかのような動きで立ち上がる


レツィア「—もう一度殺せと、同盟の部下たちを——わたしの手で殺せと」


I「貴女にはできない——副会長は学園を導き、生徒を守る義務がある

それを破るという事は、今いる座を捨てるということ

——貴女にはできない」


レツィア「本当に残念だわ、わたしはIを信頼していた—

執行部に選出したのは学園を導く力があると確信していたから」


I「信頼していた?私を?—アハハハハッ‼︎

いつも私に監視役をつかせ、管理させていたくせにッ‼︎」


レツィア「それは時間と共に、Iが謀反を企てていたから」


I「笑えないわ、まるで一方的に私が悪いみたいに……

あれは謀反じゃない、無能に成り下がったユズリハ・レツィアを

副会長の座から退けさせる為—

貴女は変わってしまった——ある日を境に…信念も…人格すらも」


ユズリハ「その座が単に欲しかっただけって、素直に言いなよ」


副会長の顔から笑みが溢れる


I「…っ」


その不敵な笑みから滲み出る気配に押され、後退る

——殺気でこれほどの威圧感が出せるだろうか


レツィア「あげるよ—」


I「—ぇ」


ユズリハ「その座が欲しいんでしょ?—わたしを殺せたらあげる」


陽炎のように姿が消えた


I「まさか本気でッ‼︎」


——電気が消え、真っ暗闇になった


“影縫い”

影の中を移動する—今は電気が消され辺りは暗黒

それは即ち、この階全域が彼女の領域と化す


I「…本気で…執行部の私を殺すつもりなのね」


“安心しなよ、Iにもちゃんと—わたしを殺す機会を与えるから”


I(どこから声がしているのかもわからないッ…

K…貴様の言った事と違うじゃない…この女は身内は殺せないと…)


——心臓がくり抜かれた

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