第六話〜二人の時間〜

—???—


❓『大丈夫か?副会長』


レツィア『いい加減その呼び方はやめてください』


❓『なぜ?別に不都合はないだろう』


レツィア『あります、なぜなら二人の時は

お互い名前で呼び合うと約束したからです』


❓『——そうだったな、ユズリハ』


レツィア『……』


❓『え?不服?』


レツィア『下の名前』


❓『俺たちまだそんなに親密には—』


レツィア『もう恋仲にはなった!…違う?』


❓『まぁ…違わないが……レツィア』


レツィア『何?』


❓『いや!お前が呼べと言ったからだ!…全く—』


レツィア『—ありがと、***、これからも二人で一緒に——』



—医務室—


レツィア「——ッ」


目が開いた瞬間、目の前にいた人物に息が詰まりそうになった


レイジ「大丈夫か?副会長、かなりうなされてたぞ」


レツィア「(寝顔見られた…)…わたし何か—」


レイジ「俺の名前連呼するし、焦ったよ」


レツィア「——ん?今なんて?」


レイジ「あぁ—大丈夫、誰にも聞かれてないから

ただ悪い夢でも見ていたんだろ?」


——彼女は不意に自分の頬に手を這わす

そして、その指先が濡れている事に驚いた様子だった


レツィア「…怖い夢じゃない…あれは—」


レイジ「なら嬉し泣きだ—そうだろ?」


レツィア「………」


レイジ「———」


彼女は掛け布団を捲り、起き上がって視線をこちらへ向ける


——なぜか、不思議と見つめ合う事に違和感がなかった


レイジ「—君とは何だか、ずっと以前から知り合いだった気がする」


レツィア「…レイ…ジ?」


レイジ「—いや…本当にすまない、こんなこと言うなんて

…俺はどうかしている、謝るよ」


変な空気になりそうだったので、意識的に目を逸らし辺りを見渡す


—しかしここは医務室、何も見たいものもなく、再び彼女へと視線を向ける


——彼女は医務室のベッドの上に座っている

掛け布団が捲られた事で、足が見えていた—

——制服のスカートから見える白い太ももはとても艶かしく—

とても綺麗だった


レツィア「教官」


レイジ「違う見てない」


レツィア「—生徒のナマ足を見て興奮する変態さん?」


レイジ「敢えて否定はしない、が—この位置では

俺が君の足を見るのは不可抗力だ」


それに——何というか—こんな近くで

ちゃんと彼女を見たことなんて、今までなかったんじゃないか…?

——改めてよく見ると…


腰付近まで伸びた長い髪—

生徒会副会長しか着れない、黒い制服から見える白い肌—

どこはかとなく、微かに香る——いい匂い


学園に一人しかいない副会長の席を任された女が—

今目の前で、無防備に——


レツィア「確かにね、学園内で誰かに介抱されたことなんて

これが初めてだから——わたしの考えすぎね」


レイジ「…もう行く、よく考えたら

こんな現場見られたら確実に誤解されて、即追放される」


レツィア「ちょっと待って、話がある」


レイジ「君はまだ寝てないと—」


レツィア「もう十分休めたわ—

それより風紀委員長サクヤが言ってたでしょ?

“決行まで我々は仲間”だって

わたし達は一緒よ——全てが終わるまで」



—執行部—


K「NとGが風紀委員に拘束されたようだな」


I「…分かっているわよね?」


K「ユズリハ排除にはあの二人が邪魔だった

奴らは絶対的な副会長派であり、正面から対抗すれば

ユズリハの500、Nの150、Gの100、合わせて750もの勢力が

我々の敵となる」


I「そんな事はどうでもいい‼︎ちゃんとわかっているの⁉︎」


K「勿論だ、事が上手く行けばI—副会長の座はお前の物だ」


I「—それを聞けて安心したわ、NとGの統率力が

最も不安定なこの時こそ、追い討ちを仕掛けるチャンスよ」


K「うむ、両名の勢力を我々に吸収させ、来る時に備える」


——Iが先に退出した


K「—残りの仕事もしっかり働いて貰うぞ、I」




—医務室—


レイジ「……ッ、やっぱり危険すぎる…囮は俺がやる」


レツィア「それだとIは動かない、元凶を引きずり出す為には

わたしじゃないと——失敗はしない、“今度は”は絶対にね」


レイジ「—今度は?」


レツィア「必ず——取り返す」


この時の俺は、彼女が一体何の事を言っているのか分からなかった



——暫くの沈黙が続いた後、彼女は突然仰向けに寝そべり

何度も深呼吸を繰り返した


レツィア(呪いの進行を遅らせることが限界か——

わたしには、自力で呪詛を解く術はない)


——扉が少し開いた


レイジ「誰だ?」


——しかし気配はない


ユズリハ(心頭系列の魔術で呪詛の効力を弱める—)


レイジ「…誰かいる…用心しろ副——うぐっ⁉︎」


何者かに首を掴まれた


❓「誰だと?ここを一体何処だと思ってやがる?」


レイジ「透明…魔術…?学園では禁止の、筈で…」


レツィア「その手を離せ、ガロア」


レイジ「ガ…ガロア?まさか…」


ガロア「ふんッ!」


そのまま教官をぶっ飛ばした


レツィア「レイジ!」


ガロア「おやぁ?いい女じゃねぇの、こんな場所で何やってんの?

ここ、オレらのテリトリーなんだけどなぁ」


透明化になる迷彩魔術で姿を隠している


【ガロア・コブラザ】

拳闘傭兵部主将

武術の中に魔術を合わせる事に特化した拳闘部のトップ

傭兵部という新たな部を立ち上げ、審査を通り成立させた

学園内でも珍しいデュアル部持ちである


レツィア「確かにここは、もう使われなくなった旧医務室

でもだからと言ってあなた達に独占権はない」


レイジ「やめろ…副会長…ッ!ここは教官である俺に…任せるんだ」


——彼が立ち上がる


レツィア「何を言って…」


レイジ「今それどころじゃないだろ…不要な争いは避けるべきだ」


ガロア「—コイツがIさんが言っていた目撃者か」


レツィア「—ッ⁉︎」


彼の胸にナイフが突き刺さっていた


レイジ「ぁ…がっ…」


ガロア「悪く思うな、ただオレは“魔術単位”の為にヤるだけだ」



【傭兵部】

お金の代わりにランクアップに必要な魔術単位を貰い

雇い主の意のままに従う



ガロア「一緒にいる女には手を出すなと言われたが——

可愛すぎて理性が抑えられそうにないな」


すると彼女がベッドから起き上がり、男と対峙する


ガロア「そこはオレ様愛用の寝床なんだよねぇ…」


彼女の顔に自分の顔を近づける—


ガロア「間接ベッドイン、どうだった?肌と肌が—」


レツィア「—ろ」


ガロア「あん?」


レツィア「消えろ—雑念」


男が彼女の胸ぐらを掴んだ


ガロア「そんなひ弱な体しといて、何言っ—ん…?このバッジは…お前…」


“慟哭の預言書”


——男の喉が破裂した



慟哭の預言書エルディアシス

ランク特A -【幻術系列最高位】

数秒先の状態を創り出すことができる

その間、対象は傍観者になる為一切の関与は不可となる

創り出された未来を現実にするか幻にするかは術主次第

“副会長固有魔術”



ガロア「……ァ」


白目を向き、痙攣する

更に飛び散った血が瞬間凝固し、血によって精製された剣が

心臓と脳に突き刺さる


ガロア「ガア゙ア゙ア゙ア゙ーッ⁉︎」


男が膝から崩れ落ちる


レツィア「今にも死にそうな顔してるけど—

どうしたの?——雑念」


男の体は全くの無傷だった—しかし、悪夢でも見たように怯えていた


レツィア「暴力からはまた新たな暴力が生まれるだけ——でも

オマエハ ユルセナイ」


“罪を刀に罰を剣に”


——鮮血が飛び散った

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