ツキノキミヘ
影神
厄人
語りべ「ある地方では、遥か昔から
月を信仰する者らが居た。
月を信仰する者らは、
今で言う、昼夜逆転の生活をしていた。
月を信仰する故にそれが当たり前だった。
月は彼等に不思議な力を与えた。
その時代では
"当たり前のモノ"
だったのかもしれないが、
未来を予言したり、
天候を操ったり、
呪術を使ったり、
それら異なるモノの力を受け、
月の民の者は地位を築いた。
しかし、『月の恩恵』を受ける代わりに、
月の民らは代償を払う必要があった。
"それは月に生贄を捧げる事だった。"
『器』と呼ばれる者を、
湖に映る月へと差し出す。
器は同族の穢れを受け、
湖の底へと沈み、
そして、月の恩恵を受け、
それが同族へと返る。
魂は月へと誘われ、
翌日には月が青白く染まる。
さすれば、彼等は月からの加護を受け続けられ、
恩恵に肖れるという仕組みだ。
器には穢れなき者が選ばれる。
お決まりの様に美しく若い女だ。
器は産まれた時に
額に赤い紋章のようなものが刻まれており、
時期が来るまで、
月のように崇められる。
そして、月が湖を覆う時、
器は月へと捧げられるのであった。
何代、何十代と続く家系は、
全て月の恩恵のモノだとされた。
流行り病で亡くなる者、
奪い合いで命を落とす者、
鬼々にあやめられる者。
昔は、命は軽かった。
何をどう願っても、
亡くなってしまうのが少なくはなかった。
だが、月を信仰する者らは滅びすらしない。
月の民と言うのは相当な一族だった。
時が過ぎ、この時代の月の事。
『器』と呼ばれる者がしばらく産まれなかった。
器は産まれる年がバラバラで、
月を信仰する者らにもそれは分からなかった。
民が心配し、長が眉をひそめだした頃、
無事、"器"が誕生した。
器は稀に見る美しさだった。
器は大事に大事に育てられ、
ある程度の年齢になると月のように崇められた。
器は産まれた時からある程度は悟っているのだろう。
自らの宿命を理解し、受け入れる。
だが、それを受け入れられない者が居た。
名をミカヅキ。
月の民は月を信仰している故に、月の名を授かる。
ミカヅキは儀式を行う際に、
月に舞いを捧げる家の者だった。
器とは仲良く、親しい関係であった。
だが、表面上はそのような行為は許されなかった。
器は捧げ者であり、
供物や、生贄でしか、
無かったのだ。
ある程度の歳をとると、
神聖な場所へと幽閉され、
民に崇められる。
他者と関わる事を禁じられ、
口を交わす事すら許されなかった。
無論、穢れ等はもってのほか。
だから彼は器にひっそりと会っていた。
いつしか、二人は引かれ会う様になった。
だが、引かれ会う事によって、
現実を突き付けられてしまう。
女は一族の為に月へと捧げられ、
男はそれを歓迎し、送り出す。
なんとも数奇な運命だ。
彼は、器と一緒に居たかった。
そして、一族の掟やこの定めに納得してなかった。
彼は脱走を試みた。
細かに計画を立て、慎重に、バレないように。
実行は生贄とされる祭りの後。
器はミカヅキへと代わり、ミカヅキは器へと。」
ミカヅキ「バレないかって??
器は胸元まであるフードを被っているし、
皆、器の顔は知らない。
大丈夫だろう。
器は舞が踊れるか?
なんせ、小さな頃から一緒に踊って遊んでたから。
完璧だ。
俺が沈んで、皆が居なくなるまで耐えれば、
時間は次の晩までの猶予がある。
問題は何処まで行けるかだ。
なんせ、外なんか一度も出たこと無いからな。
絶対俺が守ってやる。
儀式なんぞ知ったことか。
俺に大切なのは器だけだ。
お前を生贄何ぞにくれてやらん。」
語りべ「月が湖を覆うと、綺麗な月が湖いっぱいに広がる。
何とも幻想的な景色なのだろうか。
祭りの様に、音色が奏でる。
太鼓の音と共に器の幽閉された扉が開くと、
同時に月への舞が始まる。
器はゆっくりと四方の者に担がれ、
少しずつ湖へと進む。
湖に映る月はゆらゆらと揺れ、
今か今かと待ちわびてるようだ。
手前の者が水面のすれすれの所で下に降ろし、
後者が、ゆっくりと水面へと送ると、
器は漂う様に、水面へと浮かぶ。
湖に揺られながら方向を変え、
ゆっくりと湖への中心へと流れる。
月の真下へと着くと、
ゆっくりと器は沈む。
ゆっくりとゆっくりと。
月の光が水中で揺らぎ、
光はどんどん届かなくなり、
暗く暗く重く沈む。
水中でゆっくりと水面に変化が出ないよう、
方向を変えながら、水上へと上がる。
器もバレてしまわないように、
舞が終わるなり、待ち合わせ場所まで急いだ。
月明かりの下、彼等は無事に合うことが出来た。
民にバレないように、静かに移動する。」
ミカヅキ「それからは今までの事が嘘の様に、
とても楽しかった。
見る景色、感じる匂い、全てが新鮮だった。
二人ははしゃぎ歩いた。
この満月の夜に。
まずは金がねえとな、、
器はずっと話して無かったので、一切声が出ない。
直に、出るようになるだろう。
ミカヅキは山へと入り、動物や植物をとり、
道でそれらを売り、金へと変換した。
その金で服を買い、皆に馴染んだ。
途中に器には内緒で綺麗な髪飾りがあったから買った。
器といる時間はとても楽しかった。
器はよく、笑う。
とても綺麗だ。
いつか落ち着いたら、器と子を持ち、
のんびりと過ごしたいものだ。
というか、名前をつけなければな。
いつまでも器なんて可哀想だ。
そうだな。。
『結』
とでも呼ぶか。
あいつに良い縁が結ばれるように。」
子供「それからどうなったの?」
子供「続きは?」
子供「それで、それで?」
語りべ「今日はもう。
おしまい。
続きはまた今度。
また僕と遇えたらね。」
ミカヅキ「結!!!!
逃げるんだ、
起きろ、、、
結!?!!!」
語りべ「幸せと言うのは案外素っ気ないモノだ。
自らをそっちへと寄せても叶わない事もある。
"そう決して抗えない事からはね。"
」
ミカヅキ「お前、、
誰だ、、、」
語りべ「私か。
私は、、」
BADEND'
ツキノキミヘ 影神 @kagegami
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