第17話 マルタの話⑦

 自宅に到着すると、木が無造作に乱立する庭の端の、納屋に毛が生えたくらいのおんぼろな車庫に車をねじ込んだ。金属の塊と科学燃料よりは、鶏と卵とわらと糞が似合う小屋だ。その狭さから、壁に当たって車のドアが通常の三分の一位しか開けることができないという点だけが不満だった。助手席に人が乗っていた場合、その人も運転席側から出なくてはいけないという欠点は、助手席に人を乗せて帰宅したことがあればそれも不満に感じることだろう。庭が狭いわけでもなく、むしろ整地されていない泥の地面で良ければどこにでも停められるのに、わざわざこんな車庫に駐車させるのには理由があった。

 車から這い出るようにして壁との隙間に立ち、ドアを閉め、ぽっかりと口を開けている車庫の出入り口とは逆方向、小屋の奥へと進む。車体と奥側の壁との間にはまだちょっとした余裕があり、半分は工具などを雑然と収納した棚が占めている。もう半分は空間になっていて、満員電車内でのパーソナルスペースよりかは断然広く確保されていた。

 その場にしゃがみ込む。床板の一部にある突起を押して十センチメートル四方の小さな扉を開くと、細いスリットが刻まれた金属のプレートが露出するので、そこにポケットから取り出したカードキーを差し込んだ。足元から解錠の感触がある。カードキーを抜いて一旦小さな扉を閉め、もう一度突起を押すと、今度は周囲の床が俺の身体を乗せて静かに沈み始める。立ち上がって姿勢をぴんと伸ばした。こうしないと、身体のどこかが周囲の壁をこすって服が汚れてしまうのだ。三メートル程度下りると地下室の床に到達する。

 室内の照明が点灯してどこかからか空調のガタンという起動音が響いた。一歩前に踏み出すと、それまで車庫の床だった足場がこの地下の空間に栓をするため戻り始める。

 目前の六畳ほどの空間は休憩所と呼べるような内装で、窓がなく連続した電子音が気にならなければ、快適とまでは言えないまでも、一人で寝食するには問題ない設備と広さだ。テレビもソファも冷蔵庫もあり、掃除機だってある。住宅の元のオーナーがこの地下室を倉庫として使用していたこともあり、日の光が摂り入れられていない居住スペースは建築基準法に準拠じゅんきょしておらず、トイレとシャワールームがこの部屋には併設されていないことが多少不便ではある。

 昇降機の発着所から見て正面方向へ数歩進むだけで部屋を縦断することができ、ここに一つだけあるドアを開ける。ぽっかりと開いた暗闇に足を踏み入れると、自分の前方数歩先までの照明が自動で点灯した。高感度のセンサーで点灯するが、俺の全速力でも置いてけぼりになることがない反応の速さだ。冷蔵庫の中みたいにひんやりとした空気を割きながら先へ進むと、数十メートル先で仕事部屋に突き当たる。

 仕事部屋は、先程の休憩所の倍以上の広さだ。ルームランナーなどのトレーニング機材が設置された一画と、三つのモニターが横並びに壁に掛けられたマンションの管理人室のような趣向の一画がある。モニターからは、この敷地と周辺の林の要所要所に取り付けたネットワークカメラで撮影している映像を見ることができる。カメラは取り外しが簡単なので殺す対象の行動を調査する際に使用することができ、本来はその使われ方がメインであって、だからここは、仕事部屋なのである。

 今は二つのモニターが一つにつき四分割した計八ヶ所の映像を映し出していた。動くものは杉の枝の動きで間接的に分かる乾いた風くらいだ。右側のモニターには何も映っていない。壁から少し離れた場所に置いているデスクに座り、キーボードを手元に寄せて適当なキーを打つと、暗いモニターの表示が普通のパソコンのデスクトップに切り替わる。ネットワークカメラのマスターアプリを開き、人影に反応してアラームが鳴るよう設定を変更した。これで、シャチホコをはじめとした俺の殺害を命じられた同業者の接近を漏れなく知ることができる。


 カミナガは、アザミは、果たして俺の命にどれ程の金額をけたのだろうか。それ如何いかんによって、ここに到達する殺し屋の人数が決まる。今回は、俺の業界内のランクや脅威度なんかではなく、アザミがどれほど俺を恨んでいるか、温かみのある言い方に換言すれば、息子だか孫だかをどれほど愛しているかによって俺殺害に割く経費の額が上下するだろうから、人数がどれ程かを予測するのは困難だ。多すぎては面倒だけれど、少なすぎればその分カミナガに到達できるチャンスが減るということになるため、だいたい三、多くて五、六人くらいが理想と言える。ただ、お世辞にも大したやつとは言えない鬼瓦の相方であるシャチホコとやらにまでお声が掛かっていることと、セイメイを撃退してからシャチホコとやらにお声が掛けられるまでに要した時間が極端に短いことから、相当お冠ではあると思われる。シャチホコを除いて、一名なんてことはないだろう。

 いや、別に多ければ多くて結構だ。考えてみれば、まとまって襲撃されさえしなければ、カミナガの居場所が特定できるまで、返り討ちにしては拷問、返り討ちにしては拷問、を何度も繰り返せば良いだけのこと。長期の連戦を覚悟し、極力負傷しないように気を付けよう。まとめてこられた時には地下室でやり過ごせば良いだけのこと。ここを建設した設計事務所は既に存在しておらず設計図面も入手は困難だろうから、自ら口外しなければ、郊外の林に囲まれたわびしい一軒家、というだけの至って普通の住居である。地下室の存在はオジにだって教えていなかった。

 問題があるとすれば、備蓄が頼りないということと、俺がどこまで暇に打ち勝てるかというこの二つが思いの外切実で、早期に解消しておく必要がある。


 時刻は十三時を過ぎる頃。日は高く、空は晴れ渡り、暗いところが大好きな同業者にとっては健やかすぎる時間帯である。今の内に食料と暇つぶしの道具を確保しよう、と考えた。携帯電話にもネットワークカメラのマスターアプリをインストールし、離れた場所からでも侵入者ありのアラームを受けられるようにする。

 席を立ち、向かって右側の壁を見た。三つのドアがあり、右がシャワールーム、中央がトイレ、そして左のドアの横には、車庫の床にあったものと同じ金属のプレートが埋め込まれている。ドア横のプレートの前に立ち、細いスリットの代わりに付いているボタンを押してドアが解錠されるまで待った。一般的なエレベーターと同じく、地上の住居一階にあるトイレ奥の隠し小部屋の床が下りきるまでは安全のためドアが開かない仕様となっている。休憩所は車庫とつながっており、この仕事部屋は俺が普段生活をしている住居につながっていた。公的ではないけれど、ここは言ってみたら地上二階地下一階建ての物件、と言えた。

 解錠音が鳴ったので、ドアを開いて中に入る。体重を床に預けてしばらく待つと、センサーに反応した床が自動で地上一階の隠し小部屋に戻る仕組みだ。ゆっくりと床が動く間、先程同様に背筋をぴんと伸ばす。しばらく後に到着したトイレ奥の隠し小部屋は、学校の教室後ろにある掃除用具入れのロッカーの中に似ていた。

 携帯電話で侵入者のアラームがないことを確認し、トイレへ出る。ついでに用を足した。地下から地上に上がった際には決まって尿意を思い出すが、これは金木犀の香りをかいだ時にも同様の現象が起き、幼少の頃にトイレの芳香剤が金木犀の香りだったのだと予想している。トイレから出てキッチンに向かった。

 籠城は一週間を想定することにする。一週間の期間には特に根拠はない。ゾンビが街に溢れかえっているわけでもないので、食料が尽きたら街に買い出しに出れば良い。要は、なるべく地下室から離れないようにしたいだけなのだ。いつお客さんが来ても最良のおもてなしができるようにするための籠城なのだ。だから今あるインスタント食品や冷凍食品を適当にプラスチックのカゴに突っ込んでいく。水分は地下室の水道水でどうとでもなるので、極力食べ物だけを選んだ。アルコールはもともと飲まない。甘味は好きなので、アイスのストックがないことが結構な痛手だったが、バナナの一房と甘夏ミカンでどうにか我慢することにする。地下で食事をすることがほとんどないので、念のため最低限の調理器具と食器もカゴに差し込んだ。

 あれは必要だろうか、これも必要かもしれない、などと物色していると、なんとなくわくわくしている自分に気が付く。俺は、台風で外出できない日の暗い部屋で過ごす時間が割と好きで、今からの一週間はそれに似ている、とどうでも良いことに理屈付けをしていた。

 頭ではどうでも良いことを考えていて、食料もある程度かき集め終わって行動に一区切りついた、そんな絶妙なタイミングだったからだろうか。基礎鍛錬を怠ってしっかりと条件反射が身についていなかったら、確実に命に関わる大怪我を負っていたくらいに、油断していた。

 襲撃だ。


 上半身を後ろに反らして致命傷を免れながらも、その後の不可避な体当たりの勢いで身体が右側に吹き飛ぶ。不完全だけれどどうにか右半身で受け身をとった。左上方に視線をやると、抱えていたカゴの中身が噴火したみたいに宙に放り出されていた。

 突然の襲撃者の正体を確かめるのは後回しにして、次の一手の予感を空気中からスキャンする。

 強烈な殺気を察知。

 左半身に遠慮なくぶつかってきている。

 身を低く前転して二撃目を回避。左ひざを支点にし、屈んだままの身体を反転させた。

 確実に仕留めた、と油断でもしたのか、渾身こんしんの力が手応えないまま宙を切り、その余った勢いで体勢を崩す男性の背中が目に入る。手には出刃包丁と思しき白いシルエットがあった。

 時間がぎゅっと固まり、

 視界が広く、狭まった。

 対象までの距離は二メートル。体勢を崩しているのは俺も同条件。左太ももの筋肉を目一杯に膨張させてもきっと俺の非力では彼に届かないだろう。頭上に浮かぶバナナも邪魔だ。吐いていたのか、吸っていたのか、分からない息を止める。空中に平手を突き出し、丁度そこに落ちてきた甘夏ミカンの芯を捉え、男性の左肩めがけて弾き跳んだ。

 男性は踏み出していた左脚を踏ん張って上体を起こしながらこちらへ向こうとする。その動きは、一瞬前に俺が描いたシミュレーションと寸分も狂っていなかった。

 甘夏ミカンが振り向いた男性の鼻頭に命中する。衝撃で顎先が上を向く。おそらく、両手を鼻に持っていくだろう、と想定。俺の動きがその手の死角になるように、更に身を低くする。思った通りの動きをしてくれて、どこの誰だか分からない目の前の殺し屋に感謝した。

 時間はまだ硬いままだ。

 男性を観察する。身長。体重。全体の筋肉量のバランス。足腰は強そうで、どっしりと構えるタイプと予想。真っ黒な上着はだぼだぼ。動きづらいだろうに、おそらく、あえてそれを着ているのだろう。今は露出している両腕が長く見えるから、普段は上着に隠してリーチを見誤せる戦闘かもしれない。互いに万全の体勢になれば手こずりそうだ。このまま畳み掛ける。

 辺りに視線を這わせた。刃物がある場所は男性の向こう側。瓶やどんぶりのような鈍器になりそうな物も手の届く範囲にはない。

 舌打ちをしながら、全身の筋肉を爆発させるように前に跳ぶ。

 落下中のフォークをつかみ、そのまま腕を振り下ろして刃物を持つ手の甲に刺した。

「このフォークじゃ、パスタはもう食べられないな」

 加速度的に、時間が氷解していく。

 ぶちまけられた食料が一斉に床に到達した。

 痛覚が追い付いたようで、男性はたまらず刃物を手放した。異物がめり込んだ方の手を別の手で絞めるようにつかみ、前屈みになって解読不能の怒号を発している。こんなものではまだ戦意喪失とは言えないだろう。

 落ちた刃物を拾い上げ、彼のうなじの一点を狙って柄の部分で素早く突いた。こつんと意識が零れ落ち、次いで男性の図体が豪快に倒れる。

「うわ、鉈じゃん。危な」と、自分の右手に握られた男性の獲物をしげしげと見つめた。


 首が少しだけ痛い。体当たりを受けた時に筋をおかしくしただろうか。負傷という負傷はそれくらいのもので、流血は一滴もない。だが、甘夏ミカンは内部損傷をしているだろうしフォークも一本他人の血で汚染したので廃棄だ。短期で決着がついたので、キッチンは俺が抱えていた食料の散乱以外の大きな乱れはなかった。ただ、「やっぱりかい……」と腰に手を当てながら鉈で割られたシンクを眺める。俺が前転で攻撃を避けたばっかりに、何の罪もないシンクがこんな大きな傷を負うことになるなんて……、と目頭が熱くなるかと思ったけれど、人間相手に冷徹でいられる代償として物に魂が宿っていると勘違いしているような痛い個性は俺にはなかった。でもまあ、洗い物を今後どうするかが悩ましくはある。

 仕切り直すつもりで短く声を発し、まずはシンクの割れた箇所の近くにくっ付けてあるハンガーからタオルを引っこ抜いて水道水で全体を濡らす。振り向いてひざまずき、やけに長い男性の両腕を軽く絞ったタオルで縛った。仰向けに転がし、ようやく男性の顔をしっかりと確認する。見たことはない。

 鉈を武器として活動するなんてふざけた殺し屋は……、「あぁ、こいつがカイロギかぁ」と、噂で聞いたことがある特徴から撃退した相手の呼び名に見当を付けた。

 かいろぐ、とは、揺れ動く、という意味。肩を常にゆらゆら揺らしながら長い腕を振り子のようにする戦闘から付いた呼び名だそうで、そんなアニメみたいな戦い方は一度お目にかかってみたいところだ、とは以前思ったことはあったが、それはもう叶うことはないだろう。お目にかからなかったから、だぼついた上着に隠れた腕のリーチに騙されることもなかったわけで、カイロギの急襲がある意味ではこちら側に有利に働いたようにも思える。しかしそれももう過ぎたことである。脇に手を突っ込み、重い身体を引きずってリビングルームまで運んだ。

 足首と膝と、腕が長いので肘も、手首と同じように拘束する。ロープも結束バンドも手元になかったので新聞紙を束ねるのに使うビニールの紐で代用した。ソファに寝かせようと思ったが、重くて持ち上がらなかったので、ソファの足元に寝かせてある。ここまでの後処理の方が戦闘よりも重労働で、早いとこ地下室に戻ってシャワーを浴びたかった。ソファに横たわりたい欲求とも戦いながら、どうにか食料のまとめ作業に戻る。


 カゴをトイレまで運んでいる時だった。尻ポケットに入れていた携帯電話が振動する。嫌な予感がした。取り出して確認してみると、「まじか」と自らの不運を嘲笑してしまう。侵入者のアラームだった。携帯電話に該当のテキストが表示されていて、それに触れてアプリを起動させると、一番カメラの画像が写し出された。数秒前に撮影されたもので、この敷地に入るための林の出入り口付近に設置してあるネットワークカメラが宅配業者のトラックを捉えている。画像に触れれば動画で確認できるが、そうする間もなく次から次へとアラームが連発する。四番目のアラームは、携帯電話を確認する必要すらなかった。屋内から庭を覗き見れば件のトラックが目視できる。二トントラックだろう。荷台が箱型のコンテナになっているタイプで、街との往復で一度は目にするメジャーなデザインだ。こんなタイミングで着荷だなんて、全くもって運が悪い。でも業者からすれば俺が今置かれている状況など知る由もないわけで、あまり邪険にするのも失礼だなと自らを諭した。

 堅気にはきちんと堅気の対応をするべきだ。

「そんなわけないっての」と、即座に自分に突っ込みを入れた。

 あれは堅気の宅配業者などではない。まず間違いなく殺し屋だ。何故なら、俺は何も注文していないし、俺に物を送る人間だっていないからだ。

 車を停め、下車した人間は一人。男性。中肉中背のやや年輩。助手席には誰もいないが、身体を突っ伏して潜んでいる可能性はある。男性は三歩だけこちらに近付き、思い出したような表情の後に荷台に踵を返した。演技が徹底されていない様子に思わず吹き出してしまった。荷台の影に隠れて彼の姿が見えなくなる。後方のドアを開く音が聞こえてきた。荷台の中ももちろん死角になっているので、そこに複数人の潜伏の可能性も捨ててはいけない。

 さて、どうするか。危機感のないにやけ顔のまま考えを巡らせる。

 素直に騙されたふりをして相手の出方を注視の上、後手をとる。か、それとも地下室に戻って様子を見る、の二択が有力。万が一、俺の見立てが外れて彼が本物の宅配業者だった場合のことを考えると、裏口からトラックに接近して俺の方から急襲を仕掛ける、という選択肢は削除するべきと判断された。そうこうしている間に、玄関の方から足音が聞こえてくる。呼び鈴が鳴った。前者の選択肢を実行することにした。

「はーい。今開けますねぇ」という呑気な発声は演技ではない。足音を潜ませる技術すらない殺し屋など大したことはない。もちろん油断はしないけれど、こういった場合は程よい緊張だけしてあとは自然体で振舞うのが吉である。

「お、お届け物です」と、聞いているこちらが心配になるくらいに相手の方が緊張していた。新人配達人という裏の設定でもあるのだろうか。だとしたら、なかなかの役者だ。

 サンダルではなく動きやすいスニーカーを履き、玄関のドアを開けた。正面からは何も飛んでこない。初撃で事を済ます類の殺し屋ではないようだ。相手の顔を見た時に、ちょっとだけ興に乗ってしまい、このまま互いに全編アドリブ構成の茶番劇を継続することにする。

「えっと……お、届け物っす」

「あ、はい。さっきも聞きました」

「えぇと、どうぞ、これがそれです」

「どうもです。お世話様でした」

「いえ。では自分はこれで……」

「あれ、サインか判子は要らないんですか?」

「あ、要り……ます。え、っと、……ここ、ここにサインをお願いします」

「ここって内容物を書く欄ですけど?」

「え? ……あ、そうです。そこには内容物を書きます」

「違った。すみません、やっぱりここにサインで良いみたいですね」

「え? ……そう、そこでした。そこにサインで良いんでした」

「じゃあ、ペン借りても良いですか?」

「え、ペン? あれ、す、すみません。車に置いてきてしまったみたいで」

「ちょっとしっかりして下さい。胸ポケットに刺さってるじゃないですかぁ」

「あっ、ちょ、それ!」

「あれ? すみません、このペン、インクが出ないみたいですけど……。内容物の欄に爆弾って書いてあるってことはもしかして、このペンが起爆スイッチってことですかね」

「え、そんなはずは! ……書いてないですって。はは、ははは……爆弾なんて、ねえ?」

「ですよね。あ、そうか。このボタンでインクが出るようになるんですね」

「いや駄目それちょっと待って」

 もう笑いを堪えるのも限界だったので、「えいっ!」とボタンを押すふりをして茶番劇を終えることにした。男性は物凄い剣幕と悲鳴と勢いで後方に飛び跳ね、耳をふさいで地面に伏せた。

 目までぎゅっと閉じているシャチホコの横にしゃがみ込み、「スズキさんがね、半殺しまでで勘弁してやって、って言ってましたけど、どうします?」と耳元で聞いた。

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