第14話 ヘイワの話④
マルタと呼ばれていた若者の背中がドアの外側に消えるのを見送った。背中だけ見れば、少年と言っても違和感のない小さなものだった。
「なんでしょうね、
「タシロさんという方をお探しのご様子でしたが。タイラさん、ご存じですか?」
「タシロさんをですか? それとも彼のことをでしょうか?」
「……はて、質問は何だったかな」
「さあ。分かりませんね」
敬愛すべきマスターは、カップを置きながら、古いフィルムから迷い出たフランス人の俳優みたいに艶やかに目を細めた。見ている側にも笑顔を分けてくれる種類の表情だ。そういう意味では、マルタには感謝をしなければならない。私には彼にこんな表情をさせてあげられない。まるで孫の読解不能な文言に困惑するような嬉しそうな表情だった。
しかし彼は、マルタは、殺し屋だ。しかも、そのことをまるで感じさせない物腰が、彼の力量を物語っていた。あの若さで、とも思ったが、それは賞賛の意ではなく
マスターに身振りで伺いを立て、携帯電話を操作しながら店を出る。電話の相手はウンモだ。思わぬところで至高会の幹部であるカミナガを目撃したことと、タシロの処理を早めることを伝えるためだ。そして、望むところではないけれど、一人の若者も追加で処理をするかもしれないという旨も話した。いつもはウンモの元に寄せられた仕事の依頼を私が受ける、という流れだったが、今回はその逆だ。「珍しいわね、ノドカ君が自分から殺しを宣言するなんて」というウンモの意外そうな声には、私が自主的に行動を起こさなくてはならないくらいに物騒な世の中になったことを案じる響きが混じっていた。タシロの処理をする途中で必要な手順になるかもしれない旨を説明すると、「ノドカ君が思った通りにすると良いよ」と言ってくれた。
続けて別の人間にも電話をかける。こちらは十中八九、電話には出ない。クチナシ村民には電気が通っていないことで通しているので、携帯電話を携帯させておらず、着信を残した夜に折り返すルールとしていた。はずだったが、呼び出し音が鳴ったのを確認してすぐに電話を切り店内に戻ろうとしたところ、間もおかずに折り返しの電話がかかってきた。
「お久しぶりです。お電話大丈夫なんですか?」
「どうもです。今ちょうどヘイワさん家の世話してっところだったからだいじですよ」
「あぁ、いつもありがとうございます。それじゃ邪魔するのも悪いので早速本題ですが、すみませんシュウさん、忙しいと思いますが、少しこちらのお手伝いお願いします」
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