05話.[気になっていた]
やっばいでしょ。
あくまで付き合ってあげるぐらいならいいって考えていた自分。
「美味しいですねっ」
「うん、そうだね」
普通に楽しすぎた、アイスも凄く美味しいし。
最近は自分がきっかけを作ったとはいえ微妙な生活を続けていたからかもしれない。
あと察し力? 察知力? が良くて、なにも言わなくても彼女は汲み取ってくれるのだ。
彼女のことを利用したいわけではないからそこはまあ重要ではないんだけどね。
「ここに座っているだけで少しいいですよね、ちょっと高いところになっていますし」
「うん、奏海と来られて良かったって思うよ」
「え」
だって予想外に楽しかったんだから仕方がない。
元々謙虚にはいられていないからとりあえず思ったことは言っておくことにしよう。
その後は少しの動物を見て移動することになった。
大変なのはある程度下らないとバス停がないということ。
時間も中途半端で待つ必要が出てきたということ。
いいことばかりではないけど、別にそんなの気にならないかな。
「遅くなりましたけど、私も木谷先輩と来られて良かったです」
「それは嘘でしょ、だって奏海が空気を悪くしないように頑張ってくれていただけだからさ。だから本当に感謝しているんだよ、あれだけ断ったのに誘ってくれたこともね」
普通、1度も行かずに頑なに拒む人間のことを再度誘うなんてしないんだよ。
2度目までぐらいならあるかもしれないけど、3度目というのはないと思うから。
でも、夕美が受け入れた理由が分かった気がした。
彼女といるのは先程も言ったように普通に楽しい、意外とそういうところに惹かれたのではないかと私は考えている。
「わんっ」
「お、おぉ? 君だけなの?」
「わんわんっ」
山の方だからこそなの?
首輪はつけられているからはぐれてしまった可能性もあるか。
「ひっ、た、助けてくださいっ」
「え、可愛いよ?」
「わ、わんちゃんは苦手なんですっ、あ、あっちに……お願いします」
意地悪したいわけではないから少し離れたところに連れて行って別れの挨拶をした。
意外だったな、勝手に犬を飼っているイメージを抱いていたから余計に。
「あ、ありがとうございました……」
「ううん、苦手な動物とかは誰にでもいるからね」
私だって野生の猿が近くにいたりしたら恐れて動けなくなっただろうから。
ライオンとかシカがいても同じ、って、それは単純に命の危険を感じて……かな?
とにかく、馬鹿にされるようなことではないということだ。
「バスが来たね、乗って帰ろっか」
「は、はい……」
もういなくなったというのにまだ怖いみたいだった。
バスに乗ってからだけど、隣に座った彼女の頭を軽く撫でておく。
あ、もちろん、ウエットティッシュで拭いてからだから汚れてはいないはずだ。
「大丈夫だよ」
「はい……」
このことはもちろん夕美に言うつもりでいる。
犬を怖がっていたからとかそういうことを言わずに、撫でたことだけを言う。
言い訳みたいになってしまってはならない。
だってその行為を正当化しようとしている悪者になってしまうからだ。
「あの、少し寄りかからせてもらってもいいですか?」
「いいよ、今日は頑張りすぎて疲れただろうから」
「ありがとうございます、失礼します」
彼女は凄く遠慮がちに寄りかかってきたからもっといいよと言っていた。
今日はいっぱい私のためを考えて動いてくれていたのにこちらだけなにもしないままではいられない。
例え自分が楽しむためだったとしても関係ない。
「……本当にありがとうございます」
「大袈裟だよ、着いたら起こすから寝てていいよ」
「はい、おやすみなさい……」
帰りの車内は凄く静かだった。
途中で乗ってくる人もいたけど別に騒ぐわけではないからね。
窓際なのをいいことに外を見て時間をつぶして。
「奏海、着いたよ」
「んあ――あっ、す、すみませんっ」
「いいよ、降りよう」
ふぅ、それでも地元にいるときが1番落ち着くな。
少し歩けば家に着くということも大きく影響しているんだと思う。
「これからどうしよっか」
「まだお時間って大丈夫ですか?」
「うん、付き合うよ」
まだお昼だから全然余裕はある。
寧ろこれで解散となってしまうことの方が私的には問題だった。
「それなら私の家に来てくれませんか?」
「さすがにそれは……夕美も怒るんじゃない?」
「そう……ですかね」
「うん、多分だけど」
いまはもうあの頃と違って暖かいんだからそう屋内じゃなくても問題はないだろう。
「外でいいなら付き合うよ、早く帰っても意味はないから付き合ってくれると嬉しいかな」
「わかりました、それならあの公園に行きましょうか」
これ以上、お金を消費したくなかったから助かった。
お小遣いを貯めているからあるとはいえ、あるだけ使っていたら駄目になるから。
「はしゃぎすぎてしまったのは反省しています、まだまだ中学生のときと変わらずにいて恥ずかしいです」
「私は一緒にいて楽しそうにしていてくれた方がいいよ、だから奏海が今日疲れちゃうぐらい楽しそうにしていてくれて嬉しかったけど」
この際、細かいことは考えないでおく。
相手が本当は演技しているだけだとか考えても気が滅入るだけだから。
相手をする側がわかるのはあくまで表面上だけなんだからこれでいい。
「……なんか変わりましたよね」
「あー、誘われていたときは夕美や樹里と仲が微妙だったからさ、少し投げやりな状態になっていたのもあるんだよ。だからごめんね? あのときは何度も断っちゃって」
お、夕美や樹里には未だに謝れていないのに彼女にはすっと謝ることができた。
最初から疑ってしまっていたからなあ、さすがの私も申し訳ないと思ったのだろう。
「いえ……、そもそも私が必死に木谷先輩を誘うことの方が不自然でしたからね」
「でも、結局誘ってきたよね? それはどうしてなの?」
「……木谷先輩といたかったんです」
うっ、聞かなければよかっただろうか。
だってこんなこと言うのって……、いやいやいや、勘違いするなよ私。
人の彼女とこうして遊びに来ているぐらいならいいだろうけど、先程からのことはアウトな領域に足を踏み入れてしまっているような気がした。
「夕美のことを考えればあまり言わない方がいいけど、私は嬉しいよ」
奏海が友達になってくれればあのふたりと喧嘩してもなんとかなるかもしれない。
奏海と喧嘩になってしまっても、あのふたりがいればなんとかなるかもしれない。
いままでの状態だと変な状態になると絶望的だったけど、いまはそうじゃないから。
「そういう…………よ」
「お?」
「あっ、の、喉乾いていませんかっ? 付き合ってもらっているので喉が乾いているということならなにか飲み物でも買ってきますけど!」
「あ、それなら奏海に買ってあげる、今日は本当に楽しかったから」
ただ、無理をさせてしまったのかなって引っかかっているのだ。
私が楽しくいられたということは相手が相当頑張ってくれたってことだし、それだけで判断して良かったなんて言えない。
疲れてしまったのも本当はそこから影響を受けていた可能性もあるからこれぐらいしかできないけど少しぐらいはしてあげたかった。
可能なら所謂奢って終わりではなく、いてくれて良かったって言ってもらえるようなことをしてあげたいのだが、夕美や樹里相手でもあんなのだから難しい。
そもそも、自分が動くことで相手のためになっているかと問われれば――まあいいか。
「なんか勝手にこれって選んで買ってきちゃったけど、いいかな?」
「ありがとうございます、好きなので大丈夫ですよ」
「良かった」
ま、凄く人気な甘いジュースだから嫌いな人間はあまりいないと思う。
飲みづらいとあれなので自分の分も買ってきた。
スーパーなら半額で買えるのにって考えた自分がいいんだか悪いんだかわからずに。
「あの……」
「うん?」
なんとも言えない表情だった。
言いづらいことを言う前の人間の顔って感じがする。
「み、未依さんって呼んでもいいですか?」
「うん、いいよ、私だけ名前で呼んでいるのもおかしいし」
実はつまらなかったとか言われるかと思った。
なんなら敬語じゃなくていいって言ったら「さすがにそれはできませんよ」と言われたので大人しくそうなんだと片付けておいた。
結局いっぱい仲良くなっても夕美の彼女であることは変わらないんだから当たり前だ。
これは悪いことをしてしまったと反省。
「あのときと違って暖かいからいいよね、なんか眠くなる」
適度な生ぬるい風が吹いているのもあって落ち着く。
その風が私の髪や彼女の少し長い髪を揺らし、なんとなくそれを見ていた。
黙っていると別人のように感じる、綺麗……と言えるかもしれない。
夕美も樹里も容姿が整っているが、どちらかと言えば夕美に似ているかな。
そういう部分に惹かれたのもあるのかもしれない。
受け入れたのはいまでも意外だと思っているけど。
「な、なにかついていますか?」
「ううん、綺麗だなって」
「へっ!?」
奏海は思わず立ち上がったぐらい驚いている、のかな。
「あ、口説こうとしているわけじゃないからね? 私的には楽しそうにしているときの奏海が1番らしい感じがするけどってだけだよ」
うん、馬鹿だな、なにも学んでいない。
いまのこれはあれだ、うわぁって感じの驚きだ。
人の彼女に綺麗とか言うのは――いやでも、友達なら綺麗とか言うよなあと考えてしまう。
「んー! はぁ、夕美には今日のことを話してちゃんと怒られておくから大丈夫だよ。奏海は巻き込まれただけ、そういうつもりでいてね」
ふぅ、付き合うとは言ったけどずっと話しているのは現実的ではない。
あと、私もちょっと疲れた、1時間ぐらいあっちにいただけなんだけどね。
あれか、慣れないバスに乗ったからかも、払うときとか緊張したから。
「今日はありがとう、本当に楽しかった」
「え、あの……」
「ごめん、ちょっと疲れちゃったからこれで帰るね」
「はい……、こちらこそありがとうございました」
彼女の彼女というところが良くない点だ。
彼女が男の子と付き合っているのであれば綺麗だと言おうが問題なかったんだけど。
実際はそうではないからあまり一緒にいるべきではない。
「あれ、夕美と樹里だ」
何故か樹里が夕美の腕を掴んでいる。
夕美も抵抗することなくただ一緒に歩いているだけだった。
そ、そういう接触はノーカウントなのか? 手じゃないからあり?
夕美は嫌なら嫌って言う子だから、あれはつまり口にはしていないということになる。
「ま、いいかっ」
……奏海を考えれば良くないことだが、なにができるというわけでもないから放棄した。
私は帰って休むことにしよう。
「未依先輩っ」
「え、ここで待っていたの?」
「はいっ、一緒に行きたくてっ」
だったら連絡先も交換しているんだから連絡してくれれば良かったのに。
いまは冬じゃないからいいが、結構ゆっくりしてしまったから普通に申し訳ない。
「あれ、というか未依さんって呼ぶんじゃなかったっけ?」
「あ、今日は学校なので」
「なるほどね、切り替えというわけか」
一昨日のことは夕美に話すときに聞いてみることにしよう。
こちらは友達と一緒に登校するぐらい普通普通、なにも気にする必要はない。
「あ、ごめん、近かったかな?」
「いえっ」
そんなに近くを歩いているつもりはなかったんだけどな、手の甲と甲がぶつかってしまった。
「あの、少し不安なことがありまして、それを紛らわせるためにいいですか?」
「え、なにを?」
「手……」
「じゃ、じゃあ、これも私から無理やりしたってことにしようっ」
友達と手を繋いで登校するぐらい普通、……普通だ。
昇降口のところまでは手を繋いでいて、さすがにそこからは離してそれぞれの教室に向かうことになった。
「あんた見てたわよ、人の彼女になにやっているのよ」
「手が冷えててさ、無理やり握らせてもらったんだよね」
「夕美に怒られても知らないわよ?」
「大丈夫、樹里みたいに腕を掴んて歩いていたわけではないから――」
「なんでそれを知ってんの」
おぅ、あの喧嘩したときぐらいの怖い顔。
そんな顔をするぐらいならするべきではないとは思いつつ、帰りにたまたま見てしまったことを素直に吐く。
「か、勘違いしてほしくないから言っておくけどね、あれは夕美が腕ならいいって自分から言ってきたのよ? あたし的には手の方が良かったけど……、まさか夕美から言われるとは思わなかったから驚いたわ」
「ふふふ」
「……あんまり調子に乗るとまた叩くわよ」
「いや、恋する乙女やってるなーと思って、もっと早く動いておけば良かったのに」
「う、うるさいっ、あんただって人を好きになってもどうせ動けないわよっ」
まあでも、同性からの告白も受け入れられるとは奏海の告白を受け入れるまでわからなかったから仕方がないか。
いくら樹里でも勢いだけで行動することはできなかったのだろう。
「うるさいのはあなたよ」
「あ、夕美っ、未依があんたの恋人と手を繋いで登校していたわよっ」
ついでに土曜日にあったことも言ってしまうことにした。
が、彼女は笑みを浮かべ「そう」とだけしか言わず。
その後は「今日の体育を頑張りましょう」とか「きちんと課題をやってきたの?」とかいつもの彼女らしいところを披露してくれただけだった。
さすがに樹里と見つめ合ったよね、普通は怒るところなんだから。
「え、彼女が他の女と仲良くしていて笑うっておかしくない?」
「これから怒るために……ではないよね」
「そうよ、夕美は怒るときはちゃんと怒るじゃない、後回しにしたりはしないわ」
却って不気味なんだよなあと。
これならまだ怒られた方がマシだった。
腕とはいえわざわざ自分から言ったのはなんで?
奏海もそうだけど、なんか怪しいぞ?
「ね、あのふたりって付き合っているのかな?」
「は? そんなの……」
「だってさ、奏海も私を必死に誘ってきたりしてさ」
「土曜は夕美から誘われたわ」
「「怪しい……」」
とりあえず予鈴が鳴ってしまったので解散となった。
そういえば当たり前のように夕美も樹里も来てくれたなあといまさら気づいた。
とにかく全ての授業を集中して受けよう。
終わったらすぐには帰らずに教室で待機をする。
「待たせたわね」
「いや、夕美は?」
「奏海と帰ったわ」
土曜日のことがなかったら自然に見えた。
でも、いまとなってはなにかを隠すためにしているように見えてしまう。
適度に一緒にいることで私達を騙しているというか。
普通であればああ、仲がいいんだなあぐらいにしか思えないから。
「さて、気になるのはあんたが朝に言っていたことよ」
「うん、夕美はともかく、奏海も何度も私を誘ってきて不自然だった」
私といたいって言うのもね。
だってこれまでずっと仲良くやっていて、夕美という恋人ができて私が距離を作ったということならともかくとして、これまで関わりがなかったのにいきなりそれだからおかしいのだ。
「でも、もしそうだったら樹里にとってチャンスじゃない?」
「……まだ分からないからそんなこと考えても無駄よ」
「いやいや、考えるぐらいいいでしょ、樹里は十分長い間微妙な気持ちを味わってきているんだからさ」
好きな人から彼女ができたと言われたとき、彼女はどういう気持ちだったのだろうか。
私ならその後は間違いなくぎこちなくなって自ら遠ざけると思う。
そうなって普通に接することができない。
だからあくまでも微妙な空気にならないようにできた彼女はすごいとしか言いようがない。
「でも、もしそうだったら……嬉しいわね」
「可能性があるというだけで楽になるよね」
「うん……」
結局、どうして私には言いにくかったのだろうか。
別に私は常日頃から好きだとか付き合いたいとか言っていたわけではないんだけど。
甘えていたから? 友達が夕美を除けば樹里しかいないから?
ああ、彼女のことだからそういう可能性もありそうだ。
他の子を優先することで放っておくような形になってしまうから。
ただまあ、あの子は付き合ってからもこっちのところには来ていたわけで。
「やっぱり残っていたのね」
「え、な、なんであんた……」
「わざわざ戻って行ったから怪しかったわよ」
夕美の後ろには当然、奏海がいた。
うつむいていてなんとも言えない雰囲気。
もしかしたら私達の話を聞いていたのかもしれない。
まあそりゃ怪しまれていたら悲しいよね。
だって自然な恋人同士には見られていないということなんだからさ。
「私達の関係が気になるの?」
「べ、別に……そんなことはないわよ」
「本当に? 少し細かく聞きたいからふたりで帰りましょうか」
「え、あ、うん……」
「どうしたのよ? いつものあなたらしくないじゃない」
ああ、珍しく樹里が押され気味だったな。
ふたりは行ってしまったから奏海の相手をしようか。
「もしかしてさっきの話、聞いてた?」
「はい……」
「ごめんね、勝手に私達がそう考えちゃっただけだから気にしないでね」
奏海ともう一緒に出かけたりしてしまったからそれはつまり奏海の不幸を願う行為と一緒だし気をつけないと。
樹里のことを考えれば夕美と上手くいってほしいと思うけどね。
「奏海がいいなら一緒に帰ろっか」
「はい」
家事をしなければならないからいつまでもここにはいられない。
ふぅ、学校で話そうとしたのは失敗だったな。
とはいえ、こそこそとするのもそれはそれで引っかかることだ。
「未依先輩」
「な――」
信号待ちをしていたから急に抱きしめられても別に危ないわけではない。
でも、夕美の彼女ということを考えれば危ないことだ。
付き合っているのならばこれはもう浮気していると言えてしまう行為だろう。
「……あなたのお家に行きたいです」
「と、とりあえず離れて」
「行きたいです」
「わ、わかったから離して、別に家に来るぐらいいいからっ」
単純に人の目があるところなのも気になっていた。
なにも喋らずに帰って、家に着いてからもしたのは飲み物を用意して渡すことだけだった。
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