4話

 最適化が出来るのは、あくまで自分がプレイしたことのある、何が起こるのか分かっているところまでである。プレイしたことのない新しい場面は、ただただ普通にプレイするしかない。当たり前のことだが、新しい場面では、どんな敵が現れるかもわからないし、ダンジョンのどの道順が正しいルートなのかも分からないし、どうすればストーリーが進行するのかも分からないのだから、最適化のしようがない。


 そうやって、プレイしたことがある場所までは少しづつ最適化して時間を短縮し、時間を捻出し、プレイしたことのない新しい場面を攻略していく。

 最初はプレイを短縮して得られた持ち時間が数時間程あり、それなりに長時間、新しい場面を攻略することが出来ていたが、しかしループを重ねて行くたびに、その持ち時間はどんどん減ってしまっていた。


 というのも、単純にプレイ時間を半分に短縮できたとして、本来24時間かかる場所まで、12時間で進め、12時間新しい場面まで進めたとしよう。

 すると、翌日は前日すすめた場所まで、18時間かかることになる。すると、新しい場面は6時間分しか進めない。

 さらに翌日は、同じ場面まで21時間かかり、新しい場面に使える時間は3時間。そのまま、新しい場面に使える時間は90分、45分、22分、と加速度的に減少していく。


 実際は、プレイ回数が増えるゲーム前半ともなれば4分の1以上にプレイを短縮できるようになっているのだが、どちらにしても新しい場面に使える時間が短くなるという現実に変わりはない。

 いまでは、新しい場面に当てられる時間は1時間もあれば御の字という状況で、その程度の持ち時間では、ちょっと攻略で躓けばすぐに無くなってしまい、挙句ほとんど何も進まない、ということすらある。


 それでも、少しづつ、本当に少しづつではあるが、ゲームは先へ進んでいた。

 毎日毎日、23時間30分前後は同じ個所をプレイし、30分ほど新しい場面を進める、というゲーム修行僧じみた行為を地道に続けた結果、ついにループ36日目にして、2章をクリアすることが出来た。

 ここまでくると、もはや通常プレイした際にどの程度のプレイ時間になっていたのかは分からない。

 そして、既に予想してたことではあったが、当然のように第2章のエンディングのあと、第3章が始まった。


 今度は、1章と2章のキャラクターたちが一堂に会し、さらなる巨悪に挑む、というような展開である。

 僕は引き続き、これまでと同じように、プレイしたことのある個所を最適化し、残った時間で新しい場面を攻略する、という行為を繰り返し続けた。


 このころには、もう僕は食事もとらず、トイレにも行かなくなっていた。すべて、ループすればリセットされる感覚なのだ。いちいち関わるだけ時間の無駄である。それらを欲求する気持ちが、プレイを阻害することもなくなり、ついには常に同じタイミングでやってくるそれらの感覚は、ただの脳から発せられるタイマーに成り果てていた。

 最初にトイレに行きたくなるのが、7時45分。最初に空腹を覚えるのが、11時25分、という具合だ。

 僕はそのタイマーを目安に、さらに最適化を続けていった。


 そうして、第3章に到達してから52日目。ループ状況下でクラリオン5をクリアする試みを始めてから88日目。ようやく、ラストダンジョンだと思われる場所に到達した。

 3章に入ってからここまでの攻略に時間がかかったのは、単純に3章でゲームの難易度が上昇し、ボスが軒並み強くなり、最適化した結果低レベルになっていたキャラクター達では苦戦を強いられ、敗退する、ということが増えていった、ということが理由のひとつだ。

 それを打開するために、出来るだけレベル上げ効率の良い場所を発見し、そこでの最低限度のレベル上げを、最適化の手順に組み込む必要性が生まれ、そこにかなりのループ日数を費やすことになってしまった。

 しかし、それは自分のプレイ次第でどうにか解決できることであり、実際、多少時間がかかっても乗り越えることが出来た。


 だが、3章も中盤を過ぎたあたりから、それよりももっと重大な、ゲームの仕組みとして根幹的な問題が起こっていた。これが今後、さらにプレイを困難にするであろうことは想像に難くなかった。


 根幹的な問題。

 それは、バグである。

 それも、かなり重大なバグ。


 セーブが出来ないのだ。

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