3話
ループする世界で完全な攻略法の分からないRPGのエンディングを見る為に、まずすべきことといえば、プレイの最適化――無駄を省く、ということである。
クラリオン5の完全な攻略法は分からなくとも、とりあえず僕自身が最初のループ前に攻略した、プレイ時間にしておよそ12時間目までの大雑把な攻略法は分かる。まずは自分の分かる範囲で、無駄を潰して行けばいい。
一度見たイベントは飛ばし、シナリオ進行に関係のない村人には話しかけず、しょうもない物が入っていた宝箱は開けず、無駄な回り道はせず、不必要な戦闘は避ける。これだけで、かなりのプレイの最適化が出来る。こうして、最初は12時間かかったところまで、6時間程で到達することができた。いきなり、プレイ時間を半分に短縮することが出来た。
やはり、初めてプレイしたときには、ストーリーを進めるために話しかける必要のある人物がどこにいるのかを探す、というようなことに時間の多くが割かれているため、それらが一度プレイして攻略済みになっている、というだけでかなりプレイ時間が短縮できる。
さらに、序盤はイベントシーンが多いので、それらをガンガン飛ばしていけたのも、一気に短縮できた一因だろう。
僕は、ループするまでの残りの18時間で、さらにストーリーを先へと進めていった。ここまで、過去作のノウハウを生かして、それほどボス戦などで苦戦することなく順調に進めることが出来た。これで、トータルにして、普通にプレイした場合の30時間目のところまでゲームを進められた、という事になる。
この時点で既にキャラクターたちは、クラリオンシリーズにおける終盤の始まり頃のレベルに育っていた。(ドラクエだと30くらい、FFだと40くらい、女神転生だと50くらいだろうか)
前作のクラリオン4では、同程度のレベルに育つまでに、プレイ時間にして50時間ほど必要だったはずだ。そう考えると、クラリオン5は前作よりも短い時間でクリアできるボリュームのゲームなのかもしれない。
普通にプレイしていた時であれば、これは少し残念なことだったが、ループしている状況下においては、これはありがたいことなのかもしれない。なにしろ、あまりにも長すぎるゲームはクリア不能になる可能性もあるのだから。
しかし翌日、僕の予想は、意図も容易く砕かれることとなる。
昨日同様に順調に最適化は進み、6時間程度得た時間的余裕で新たな局面を進め、これまでとは少し演出が豪華なボスを、それほど苦も無く倒した。
すると、まるでエンディングではないか、というような派手なイベントの後、スタッフロールが流れ始めたのだ。
ということは、僕がさっき倒したボスが、ラスボスだったいうことなのだろうか。確かに、普段のボスとはBGMが違うなど、普段とは違う演出がなされてはいたけれど、それにしても、ラスボスにしては弱すぎる。
クラリオンシリーズのラスボスといえば、その時点で到達したレベルでは到底倒せる代物ではなく、多くのプレイヤーがそこでプレイを断念するほど、心を折ってくるような強さで有名なのである。
それが、行き当たりばったりの、それもプレイの最適化のせいで若干低レベルであったにもかかわらず、あっさり倒せてしまったのだ。僕は酷く物足りない気持ちになりながら、スタッフロールを眺めていた。
時計は23時30分を過ぎ、間もなくループが始まろうとしていた。
そんな僕の前で、スタッフロールを終わると同時に、画面に大きく、
『第1章 完』
と、文字が表示された。
僕は思わず、「は?」と声をあげていた。
さらに、その文字が消えると同時に、これまで見たこともない景色が映し出された。それは、現代日本の景色だった。
そうして、これまたこれまで見たこともない、東京に暮らす少年を操作できるようになり、画面上に『第2章』の文字が表示される。
僕は、おそるおそるメニューを開き、この少年のステータスを確認してみた。
彼のレベルは、当然のように1である。
その事実が僕に突き刺さったのとほぼ時を同じくして、ループ開始を告げる無重力が始まった。
しかし、僕はそれに構うことなく、ただ茫然と、彼のレベル1のステータス画面を見つめていた。
1章をクリアするのに、通常プレイにおける35時間程度がかかったのだから、2章をクリアするまでにこの倍、70時間以上はかかる可能性がある。さらに、2章、ということは3章もある可能性だってある。そうなると、ゲームクリアまでに100時間以上かかる可能性もあるということだ。
100時間……。
果たして僕は、たった24時間しかない持ち時間で、このゲームを最適化し、クリアすることが出来るのだろうか?
強烈な重力に押しつぶされながら、僕は途方にくれるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます