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 調理室。いつも通り、ひとりきりの調理愛好会。彼のことを考えて、彼のために何を作ろうか考えていたところだった。彼は、調理愛好会に入っていない。全員部活制なのに、彼は部活にも愛好会にも入っていなかった。その気になれば、わたしみたいにひとりきりの愛好会だって作れるのに。

 その理由が、ついさっき、分かった。

 彼が、調理室に血みどろで転がり込んできたから。

 駆け寄ろうとして、血がつくから近付くなと言われた。助けも呼んであるから心配ない。そう言って笑ってるけど、全身が真っ紅だった。


「いつものようにさ。何か作ってよ。俺が、意識を失う前に」


 そう言って笑う彼。わたしに、選択肢はなかった。

 急いだ。心のなかの焦りや不安をすべて冷静に抑えて、料理に集中する。もしかしたら、彼の最期の料理になるかもしれない。そう思ったら、一瞬だけ全身が震えて、そして、指先から脚先まで電気が走ったようになった。思い通りに身体が動かせる。今までこんなことはなかったけど、もしかしたら、わたしはプレッシャーに強い体質なのかもしれない。

 料理を作った。

 凄い速度で。

 全身を使った。

 前々から漬けていたきゅうりの味付け確認は、彼の口に向かって投げた。彼がゆっくりと噛んで味を確認している間、別な料理を作る。きゅうりは適当なところに挟んで。


「マイルド」


「ならいいです」


 彼がしぬまでに、わたしが。料理を作る。彼。小さな声で、胸がどうこうと言ってる。


「きこえないよ?」


「いや、なんでもないです」


 彼。もう、喋る力も残っていないらしい。


「もうできたからね。待っててね」


「うん」


 いま食べさせてあげるから。

 急いですくって、彼の口に近づける。


「ねえ」


 彼。


「いただきますは?」


 動かない。

 遠くから、車と、人の声。


「ねえ。できたよ。たべてよ。急いで作ったよ。ねえ。おねがい。起きてよ」




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