今こそ? ファイナルファンタジー15を振り返る その2

●コンセプト同士の噛み合わせが悪い

 本作は、近年流行りの“オープンワールド”の形態を取っています。

 リアルな3Dで作られた、広大な世界を自由に歩き回れるのが醍醐味ではあるのですが……本作のように、主人公に明確な敵や目的のある物語との相性はそれほど良くありません。

 特に本作の場合、男4人旅を存分に満喫するコンテンツが豊富です。

 高級車を乗り回し、立ち寄った場所に関連した雑談を無数取り留めもなく交わしたり、サービスエリアに立ち寄ってレストランで休憩したり、キャンプ道具一式を広げて野宿をしたり、思い出の写真を沢山撮影したり、魚釣りに興じたり……。

 ……と言う事を、故郷が滅ぼされたり、帝国に追われた最中にやっていると言えば、いかに緊張感を疑われる状況かはわかるでしょう。(※1)

 こうしたオープンワールド、それもプレイヤーに旅情を満喫させるようなコンセプトのゲームであれば、目的が不明瞭であるか、もしくはメインの目的に至るルートを複数用意して任意に選ばせるような、自由度の高いフリーシナリオである事が前提となってきます。

 

 また、主人公のノクティスは、王子と言うには気取った所が無く、等身大で飾り気の無い若者です。

 上流階級の傲慢さや嫌味が全く無いと言うのは、何処からどう見ても美点ではありますし、プレイヤーとしても親しみが持てる事でしょう。

 ……問題は、前述のグラディオラスが、そんな好人物をいじめてしまっているような構図になってしまった事です。

 グラディオラスにキャラヘイトが集中した要因として、ノクティス側に日頃からほとんど非や難がない事が逆に災いした所もあるとは思います。

 旅をしていても、人任せにはせず能動的に動き、しかし自分が逆立ちしても出来ない事に関しては謙虚に弁えた上で仲間に頼る事も知っている、絶妙なバランス感覚で描かれていたと思います。

 むしろ、ノクティスも多少プレイヤーから嫌な奴だと思われるような面があったなら(あとやっぱり、グラディオラスの諌め方がもう少し愚直だったなら)苦難を乗り越えての成長シーンとして、好意的に受け取られたのかも知れません。

 前々回、完成した作品に新キャラを投入する難しさについて取り上げましたように、人物の“キャラクター”とは、他の人物や物語の根幹そのものとがっちり連動してしまうものです。

 ノクティス本人が好かれる人柄である事が、作品の状況に必ずしも最適であるとは限らない難しさがあります。

 

 また、別項で本作を引き合いに出した時に「王に成長する物語としては失敗し、引き換えに4人の友情を描く事には成功した」と言う私見を述べましたが、これもそうした二律背反の一つかと思います。


 このように、一つ一つの要素はちゃんと面白いのに、組み合わせで損をしている部分が多々見受けられた印象です。


●製作陣の、作品外での態度

 本作は、開発決定の発表から実に10年の時を経て発売しました。

 その辺りの、開発の紆余曲折などは、業界の事情に明るくない私には言及出来ませんが……。

 ネット社会の昨今、こうしたメジャーなシリーズ作品の開発にもSNSなどでの発信はつきものではあります。

 そこで有名なのが、

「ゲーム内の“岩”をよりリアルに作る為に、どこそこの国に行って見てきました」

 と言う記事だったり、

「おにぎりのグラフィックを作り込んだら、リヴァイアサン(大津波を自在にする龍神)のムービー容量を超えました」

 と言うエピソードです。

 繰り返しますが、こんなどうでも良い、作品のクオリティに無関係な話を配信しているのが、発表から10年を費やして開発している作品です。

 本人達は、それは楽しいのかも知れませんし、それを誰かと共有したい気持ちもわかります。

 しかし、発売を待ち望んでいるファンからすれば、真面目に作っているのか非常に不安を覚える話だった事でしょう。

 納期がほぼ無いに等しいと言うのも、過去作の実績に甘んじた結果にしか見えず、まるで課題を先延ばしにして、ネットゲームで遊んでいる専門学校生のようです。

 幸い、私はゲーム機の入手時期とかの関係で、本作と出会った時には中古が1,500円にまで値崩れしていた状況だったので、その不平・不安とは無縁でしたが。

 

 “作品外でチャンスを逃す事”については別項でも書きましたし、その1でもちらりと触れましたが、

 ファイナルファンタジーほどのメジャータイトルになると、特に作品とは関係無い所で見られたものによって作品の評価を著しく落としてしまうと言うのが現実です。


●まとめ&エンディングについて

 総じて、思い込みによる描写不足の恐ろしさが、書き手として学べる作品だと思います。

 また、物語を構成する要素の噛み合わせが悪いと、こうも長所が裏目に出てしまうものだと言う事もわかります。

 ちゃんと真剣に読み取れば、やりたかった事はわかるのですが、その「真剣に読み取る」事を受け手に強いすぎにも思えました。

 散々槍玉にあげてきた描写不足に関しては、開発中に方針が二転三転せざるを得なかった事情など、やはり事情に疎い私にはわからない所もあるかとは思いますが。

 

 …………と、ネガティブな感想が多くなりましたが。

 私としては、スタート時に感じた「ずっとこの4人だけなの……?」と言う不安は、最終的には、

「この4人だから、ここまで来れた」

 と言うものに変わっていました。

 この4人より減るのは勿論、1人でも増える事すら今では考えられません。

 最終決戦、黒幕の待ち構える祖国の廃墟に4人で攻め込んだ時のやり取りが、シンプルでありながら熱いものばかりで、

「各自、やる事はわかってんだろうな?」「当然!」

「(必殺技を指示しようとして)イグニスーー」「ああ、わかっている」「……さすがだな」

 などなど。

 臣下と友人としての関係性については、やはり作品的なジレンマも多かったとは言え、この形でなければ実現しなかったやり取りだと思います。 

 

 そして、エンディングでも最後の最後、決戦に赴くのキャンプで、ノクティスが仲間達に本心を吐露するシーンも有名です。(※2)

 素直な気持ちで弱音を吐き、4人で共に涙する。

 全く同じやり取りであったとしても、これがラスボス手前とかであれば、今一つだったと思います。

 あるいは、キャンプ→決戦の時系列順に語られていたとしても、やはりここまで強く心に残らなかったと思います。

 このやり取りと最終決戦、逆転した時系列で知る事によって、それぞれの深みが格段に増しているのがわかります。


(※1)

 流石に婚約者の死亡後は、物語が一本道となって、文字通り“遊び”は無くなりますが。

 “回想”と言う形でオープンワールド世界に戻る事も可能ですが、これはイベントの取りこぼしだったりレベル上げの不自由で詰むプレイヤーが出ない為の配慮であり、メタ的である事を自覚した上なのは明らかなので、順当な機能でしょう。

(※2)

 ノクティスは、最終的には星を蝕む病を打ち払う使命を果たす事となり、その代償に彼は命を落とす事が確定しています。

 その事に対する本心を三人に打ち明けようと、気の利いた言葉が見つからず、逡巡した末に、

「悪い、やっぱつれえわ……」

 と涙ながら、いつもの口調で吐露します。

 不器用な若者が土壇場で言葉を探しあぐねた末に絞り出したように出てきたのが、この後の決戦に見て取れた勇敢さとは真逆の、弱音。

 それを表現しきった声優の力量も、凄かったと思います。

 例によって、この台詞も不特定多数の人達に茶化されていましたが、ある程度真面目な気持ちでプレイしていたなら、決して笑い物に出来るシーンではない筈です。

 少なくともクリアすらしていない人達に、このシーンを冒涜されたくないくらいには、やはり私はこの作品が好きだったのでしょう。

 本当にあれこれディスりましたが。

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