今こそ? ファイナルファンタジー15を振り返る その1

 発売当初(今も?)どちらかと言えばネガティブな評価が多かった本作。

 ほとぼりが冷めたであろう今、概ね楽しめた立場から再考察してみます。

 ここは小説書きの創作論なので、ゲームシステムやインターフェースの出来、バグの多さなどのシナリオに直接関係ない要素には触れません。

 一応、未プレイの方にも直感的に理解できるように書いてみようとは思います。

 例によって、ネタバレにご注意・ご了承下さい。

 

●作品の概要

 一言で言えば「仲の良い男の4人旅」です。

 最初から4人揃っており、この面子が増減して変化する事は、基本的にありません。(※1)

 20代前半の男友達が高級車を足にし、時にはキャンプで和気藹々とご飯を食べて野宿をしたりします。

 開始直後、メニュー画面を開いて、

「えっ、まさか、ずっとこの4人だけ……?」

 と、若干戸惑った事を今でも覚えています。

 実写も同然の映像美が売りであるこのシリーズにおいて、敢えて男4人組に絞ったのはかなりの英断だと思います。

 言うまでもなく、本来であれば綺麗な・可愛い女の子の活躍を期待されるであろうシリーズでもあるからです。(※2)

 また、日本有数のビッグタイトルである以上、下手に変わった事をすると厳しい目に曝されるリスクが大きい筈です。

 人気作は、作り手の意思に関係なく、人気に乗っかって勘違いしていると言うバイアスが掛けられやすいものです。

 事実「ホスト4人が草原で走っている(笑)」と言うような冷ややかな意見は、発表当初からあったようです。(※3)

 

 ただこの4人、単なる男友達なら話は単純だったのですが、主人公ノクティスはとある国の王子であり、3人の仲間は仲良しの友人であると共に、れっきとした王子の側近と言う立場でもあります。

 物語の途中、帝国によって故郷が攻め滅ぼされ、王子は否が応にも“王”としての使命を背負う立場となります。

 この、友人関係と主従関係・今時の若者としての属性と王族としての属性との混在が、後述する色々な問題の種になっているようです。


●理不尽に(?)キレる仲間

 恐らく、本作品をプレイした感想として、最も槍玉に挙げられやすいエピソードが、仲間の一人であるグラディオラス(武力による護衛担当)の態度でしょう。

 物語後半、黒幕に婚約者が殺され、仲間の一人であるイグニス(家事&参謀担当)が深傷を負って失明すると言うどん底の状態に立たされたシーンの見せられるのが、失意に項垂れるノクティスを突然恫喝する、グラディオラスの姿です。

 曰く、

「何様のつもりだ、いい加減気持ちを切り替えろ、重傷を負ったイグニスに掛ける言葉の一つもないのか」

 と言う事なのです。

 これについては、実はさりげなく「二週間後……」と言うテロップが入った後の事です。

 確かに二週間もの間、友人兼指導者がウジウジして立ち上がる素振りを少しも見せなかったとするなら、側近としても不安になり、憤慨するのも仕方がない部分はあります。

 しかし、プレイヤーの体感としてはほんの数分前の出来事です。まるで、婚約者を殺された所へ、叱責を口実とした追い討ちをかけられているようにしか見えません。

 この辺りは、やり取りそのものよりも、時間の経過を体感的に理解させる描写の不足が招いた所もあるでしょう。

 また、ノクティスは生前の婚約者に自分の故郷に立ち寄って欲しい、と言い遺されており、その為に列車に乗っていた所なのですが、

「(婚約者の故郷には)寄らねえぞ」

 と、公私混同・主従関係無視も甚だしい発言をします。

 これについては擁護の余地が全く無いと思います。

 

 仲間がリアルタイムに無数のリアクション・コメントを聞かせてくれて、共に旅をしている気分を味わえるのがこの作品の特長でもあるのですが……当然、グラディオラスと険悪なこの時期も例外ではありません。

 ダンジョンを進む、こちらの一挙手一投足に対し、

「少しは(負傷したイグニスに)気を遣え……」

「一人で旅してるつもりなのかぁ?」

「先走るなよ王サマ」

 などなど、背後から陰湿な圧の掛け方をしてきて、プレイヤーとして俯瞰している立場でも不快にさせられます。

 なまじ筋骨隆々とした大男が、おばちゃんの陰口や当て付けみたいな悪態をネチネチ垂れ流す様は、ある意味でリアルでもある(現実でも、フィジカルの強い人が性格もさっぱりしているとは限らない)

 のですが、狙ってやっているとしたら明らかに求められていないタイプの生々しさです。

 意外なギャップが魅力とされるキャラ作りも世の中には多数存在しますが、こんなギャップは多分、少なくともこのゲームのプレイヤー層には求められていません。(※4)

 いっその事、胸倉を掴みあげてパンチを一発喰らわして「立ち止まってる時じゃねえぞ!」的な一言だけ&和解までは終始無言、と言う方が、例え陳腐であっても、ここまで嫌悪はされなかったのではと思います。

 リアルさもギャップも、受け手の需要を読まねばやぶ蛇になる、と言う好例でもあります。

 

 ただこのグラディオラス、王家に代々仕える護衛隊長のようなものの家柄です。

 先ほど、さらりと彼らの祖国が滅ぼされた事実を紹介しました。

 その際にノクティスの父親である先王も戦死しており、同時にグラディオラスの父親も殺されてしまっています。

 つまりグラディオラスとしても、父を亡くした事で恐らく当主の責任を突然課せられた上、祖国から孤立した状態で新たな王を、たった三人で守らねばならないと言うかなり過酷な状況下にあります。

 グラディオラスの父親の死も作中でろくに言及されないため、プレイヤーからすれば彼にはもう少し精神的なゆとりがある筈だと感じられてしまうのです。

 

 更に、これはネットで拾った面白い説なのですが、

 他の仲間達が20歳、あるいは22歳である中、グラディオラスは23歳で最年長にあたります。

 武闘派の家柄であり、パーティでも攻守ともに要となる立場もあり「兄貴分として振る舞わねばならない」と言う強迫観念が生まれてもおかしくない状況でもあります。

 しかし、例え仲間内で最年長であろうと、王子の兄貴分を期待されていようと、まだ社会経験の浅い23歳の若者に過ぎません。

 それが無理に背伸びしようとして、空回ってしまっている……と見た場合、安易なキャラヘイトで片付けるべきではないとも思えます。

 

 

 1話で終わらせるつもりが、長くなってきたので、一旦切ります。

 予告、兼、自分の備忘録として、次回取り上げるテーマを置いておきます。

 

●コンセプト同士の噛み合わせが悪い

●製作陣の、作品外での態度

 

(※1)

 NPCの一時的な加入や、別行動による離脱は何度かありますが、大抵はすぐに元の4人組に戻ります。

(※2)

 ヒロイン不在と言うわけではありませんし、役割だけを見ると物語の鍵を握っていると言っても良いのですが、露出の比重が明らかに小さすぎて、印象が薄いです。

 以前取り上げた、エルデンリングのメリナに通じるものがあります。

(※3)

 正確にはハイファンタジーの草原と言うより、アメリカの田舎町にあるような、農道の脇や未舗装の草むらにモンスターが配置されている関係で、そう見えがちではあります。

(※4)

 実はドライブ中にグラディオラスの様子を注意深く見てみると、それなりの頻度で本の虫になっています。

 終始友人としか行動していない為、内輪向けの砕けた口調に紛れ込んでしまっているのですが、見るからにインテリ然としたイグニスと比較しても言語感覚が大人びており、見た目以上に理屈っぽい性分も考えると、ジメジメした喧嘩のしかたになるのにも一定の説得力はあるのかも知れません。

 が、やはり、ここまで注意しないと読み取れないのでは、説明不足・描写不足と言われても仕方がないでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る