メリナの影が薄いとされる理由? から見る「人物ごとに求められる期待のハードルと、実際の成果とのバランス」(エルデンリング超絶ネタバレ)

※今回の話にはエルデンリングの特に重大なネタバレがあります。

 また、サブタイトルから察せられるかとは思われますが、純粋に当該人物のファンである方には心情的に面白くない内容となる可能性もあります。

(キャラヘイト等ではありません)

 あらかじめご了承下さい。

 未プレイの方にも通じるようには善処しますが、作品、およびシリーズ経験者にしか通じなさそうな部分は注釈に避難させます。


 

 そんなわけで、あって休み休みのプレイとなっていたエルデンリングも、ラストダンジョンと思われる所に到達し、ようやくクリアが見えてきました。

 さて、この物語は、壊れかけた世界を修復し、新たな秩序を定義する“王”となる旅です。

 その為に選ばれた者が数名、旅に出るわけですが、彼らには“巫女”と言うパートナーが同行する決まりとなっています。

 主人公も例に漏れず、メリナと言う巫女(厳密には、わけあって代理人)のサポートを受けて世界各地を自由に巡る事となります。

 サポートの具体的な内容としては、レベルアップの手続きと、時々、最高神(的なもの)の言葉を主人公に伝える事です。

 そして、巫女には最後に最も重要な役割があります。

 主人公が世界の王となる道程にて、旧世界の輪廻・魂の循環を司る“黄金樹”と言う大樹が道を阻みます。

 巫女は自らを火種として犠牲となる事で、黄金樹を焼いて道を拓く役割があったのです。

 回避する方法(ただし邪法。これについては後述)はあるものの、まともに使命を果たそうとするなら、ラストダンジョン手前でメリナを死なせなければなりません。

 果たしてメリナの犠牲によって切り開かれた道を進み、主人公は世界を変革させる最後の戦いへと身を投じる……。

 

 ……と、概要だけを並べると、メリナは物語の最重要人物にしか見えませんし、実際に彼女無しでは何一つ話が成立しません。

 しかし。それにも関わらず世間での評価(そして私が感じたのは)、プレイヤーとしての視点から、メリナの存在感・印象がとても薄いと言う事です。

 これだけ大事な役どころを、綺麗にきっちり全うしたのに、何故そうなるのか?

 この例に限らず、本来目立たせたかった人物が“空気”で終わってしまう不本意は多々あるかと思われます。

 

●主人公とのコミュニケーションが薄い

 さしあたり原因としてわかりやすいのは、これでしょうか。

 メリナは基本的に、常に同行しているとは言いますが霊体で居る事が大半で、プレイヤーから積極的に見る事が出来ません。

 数少ない機会としては、広い世界で無数に点在する休息可能な力場(=チェックポイント)のうち、たった数ヶ所で彼女に話し掛けるコマンドがひっそりと出てきた時のみ。

 それも大半は最高神(みたいなもの)のお告げを代弁するか、目的地の説明と言う事務的なものばかり。

 とにかく「共に旅をしている」体なのに、プレイヤーの感覚としては、一人旅と何ら変わり無く感じられます。

 仮に、生身で同じ状況になったのなら、気配はあるでしょうし、積極的に話し掛けると言う選択肢もありますが……媒体の限界か、ゲームに対して受け身にならざるを得ないプレイヤーとしてはそんなものもありません。

 

 その実感は、彼女と別れた後に確かなものとなります。

 メリナは、先述の焼死と言う結末の他、物語の途中で離脱する期間がありました。

 しかし言い方は悪いのですが、私は、彼女が居なくなってもそれほど感慨が生じませんでした。

 これもゲームとしての限界なのでしょうが、彼女の「主人公をレベルアップさせる」能力さえも、主人公のもとに為に、感情を抜きにした実利的にも、その存在意義が奪われてしまった感がありました。

 

 シリーズ他作品の、似た役割の人物と比較すると、更にこの点が浮き彫りとなります。

 ブラッドボーンの“人形”(※1)や、ダークソウルの火防女ひもりめは、メリナのように主人公と行動を共にしているわけではありません。

 レベルアップの実行を依頼したい時、拠点で任意に話し掛けるだけの関係性です。

 メタ的に言えば台詞のパターンも、メリナよりも圧倒的に少ない筈です。

 それにも関わらず、人形や火防女のファン人気はかなりのものだと思われます。

 彼女達とメリナとの違いは何か?

 拠点に行けば常に姿を見られて、レベルアップを依頼するだけにせよ雑談をするだけにせよ、プレイヤーから能動的に“接触・コンタクト”が可能だと言う事です。

 例えそれが、定型台詞が面倒臭くなってボタン連打で飛ばしてしまうような、マンネリ化した関係性であってでも、です。

 “主人公”ではなく“プレイヤー(小説ならば読者)”がその人物を認知する回数の多さ・密度の高さの差では無いでしょうか。

 

 蛇足ですが、あるボス戦で一度だけ、実際に直接的な戦闘要員として共闘出来る機会があります。

 そもそもの始まりが、主人公に協力を求めてきた控えめで儚げな少女……と言うイメージだったのですが。

 実際に共闘してみると、どう見ても、とある暗殺者タイプのボス敵に酷似した、キレっキレなモーションで斬りかかり、下手をすれば放っておいても一人で討ち取ってしまう白兵力を見せつけてくれます。

 しかも、ステレオタイプな“巫女”のイメージ通り、回復魔法の使い手としても優秀であり、仮に彼女が戦闘不能となっても、触れると回復する力場まで残してくれるそうです。

 一戦だけとは言え、ここまでオンリーワンな見せ場があってなお、影が薄いとされてしまう。

 メリナの置かれた立場の厳しさを物語っています。


●あえて親密になるのを避けている?

 この可能性は、半々だと考えています。

 実際、選ばれし者&巫女と言うコンビは使命によって定められたツーマンセルであり、主人公とメリナのケースに限りません。

 かつて、巫女と親密になりすぎた故に起こった悲劇が二つ、かなりの比重で描写されています。(※2)

 これが殊更描写されていると言う事は、最後に火種となって死ぬ運命の巫女と旅を共にする危険性に対してゲーム(のシナリオ)自体が自覚的であると言う事。

 それが異性愛かどうかを抜きにしても、二人で助け合い、広大な世界を回った先で情が移らない方が稀でしょう。

 しかし、だからと言って“画面の前のプレイヤー”に対して、そのメリナの狙いが成功してしまうのは、メーカーも本意では無いのではと考えます。

 悲劇を避ける為に親密にならない……と言う姿に対し、受け手のプレイヤーに情感的なものを感じて貰いたいのが大半である筈です。

 もし、意図的に“画面の前のプレイヤー”の印象を希薄にするのであれば、描写のどこかにその痕跡が残されている筈。

 しかし実際にメリナは、最後の旅の道中、主人公に「自分が何をしようと邪魔をしないで欲しい」と遠回しに釘を刺した上、実行の時にはわざわざ主人公を騙し討ちにして気絶までさせています。

 今際の言葉もかなり感傷的なものであり、これは主人公=画面の前のプレイヤーが、メリナの犠牲に心を動かされる事を前提とした描写に思えます。

 

 もう一つ、作中にはこのメリナの犠牲を回避する方法があります。

 “狂い火”と呼ばれる異教の力を主人公が宿し、自分で黄金樹を焼く手段を得ると言うものです。

 しかし、この狂い火とは、あらゆる生命・出生を否定し、世界を邪法の炎で溶かし、混沌に還すと言う破滅の教義であり、他ならぬメリナが憎悪してやまないものでもあります。

 主人公がこの狂い火を得た場合、メリナはブチキレて絶縁。あまつさえ、主人公が狂い火の王となった暁には、自らの手で殺害する事を宣告する程です。

 メリナを生かす唯一の道が、彼女との縁を切り、やがては世界を焼き滅ぼしてしまう辺り、秀逸なギミックだと思います。……やはり、プレイヤーのメリナに対する思い入れさえ上手く誘引できていたなら。

 皮肉にも、この絶縁ルートでの激おこメリナに最も人間味を感じたと言う声は相当数あったようです。

 

 例えば、チェックポイントでの休息時、主人公が力場で座っている姿が見られるのですが、いつも画面の何処かに実体化したメリナが居たなら、かなり違ったのでは? と思います。

 実際、メリナに話し掛けられる数少ないチェックポイントでは実体化した彼女と、力場の光を焚き火のように囲んでいる格好ですし、レベルアップの際も主人公に触れて呪文を唱える姿がみられます。

(メリナが不可視の時は、黙々とステータス画面を操作するだけの、味気ない光景になります)


●他の人物達の、主人公との関わりが濃密、もしくは印象的過ぎる

 真理を求める思想が異端視され、学院を追放された魔女。(主人公が彼女に弟子入りする所からクエストが始まる)

 主人公の伴侶として、共に新世界の支配者となり得る神人。

 狂い火に傾倒し、その望みを主人公に託した別の巫女。

 多くの人物NPCが個性的であり、大抵は“クエスト”と言う形で、能動的に関係を築けるのも、メリナの“物語的な立場”からすると逆風となっていると思われます。

 小説でも、メインヒロインを差し置いて、想定外の人物が人気を独占してしまうケースは多い事でしょう。

 やはり、他人物との相対的な評価と言うものの影響も大きいものです。


●結論、“物語的”に求められた役割と実際の成果(存在感)のハードルは相関する

 例えば、メリナのように殆ど喋らないばかりか、作中一言たりとも話さない人物すらいます。(※3)

 しかし、彼らの影が薄い(とされているか)と言うと、ノーです。

 実際、“フロム脳”と言うスラングすら生み出したように、このシリーズは「語らずに描写する」事にかけては極めて秀逸です。

 喋らない彼らには、確かなバックボーンがあるのも事実。

 しかし、一方で。

 これら、大抵のNPCは「所詮は主人公のパートナーと言う大役を任されてはいない」と言うのも事実です。

 つまり、メリナが本来求められていた「パートナーとしての存在感」と、金仮面卿や源流魔術師アズールのような「濃いけど、いちクエストのNPCなりの存在感」とでは、求められるハードルがまるで違うと言う事でもあります。

 

 近頃何度か考察した、ハーレムが何故難しいのかと言う問題にも期せずして繋がった気がします。

 人物ごとに求められるハードルと、実際の“成果”。

 しかもそこには、複数人物(ヒロイン・ヒーロー)間の相対評価がどうしても絡み合ってしまうのではないかと。

 

 

(※1)

 乱暴に言うと、ブラッドボーンにおけるメリナ。レベルアップのお世話をしてくれる係。

 モデルとなった女性が別に存在するものの、事件の真相を知る男が作り出した以上でも以下でもない。

 メリナよりも自己主張が圧倒的に少ないにも関わらず、数少ない台詞や仕草がしっかり印象に残ります。

 

(※2)

 一人は、

 火種となろうとした自分の巫女が死んだ事で、世界再生の使命を否定。他の選ばれし者を殺戮する修羅に堕ちた“背律者、ベルナール”。

 もう一人は、

 狂い火ルートの主人公同様、自分の巫女を死なせまいと狂い火を宿そうとして失敗、狂った殺戮者と成り果てて封印された“指痕爛れのヴァイク”

 

(※3)

 一人は、

 摂理の流れである“黄金律”をな観点から追い求める“金仮面卿”。

 ほとんど全裸に近い襤褸姿に、太陽を象った金ピカの仮面。それが、一言も発せずに謎のポーズを取り続けると言う強烈な外見もさる事ながら、

 から金仮面卿に弟子入りした別NPCとのすれ違いが印象的なエピソードです。

 もう一人は、

 魔術的な観点から、一つの真理……“源流”に到達したと言う大魔術師“源流のアズール”です。

 こちらは色々と拗らせたり見てはならないものを見た結果、全身が鉱物のように結晶化し、どれだけの自我が残されているかも怪しい有り様です。

 とある廃村の片隅に、脈絡なくポツンと立っていて、話し掛けると無言で最強の魔術を手渡してくる絵面はなかなかに強烈でした。

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