もしも死に乙女ゲームの“闇と光のキセキ”が発売されたら?
私の小説ではなく、その作中作の“闇と光のキセキ”が実際に発売されたら、世間ではどんな評価を受けるのかを考えてみます。
それによって、小説という媒体での描写と実際のゲームバランス等とのギャップを浮き彫りにさせるのが狙いです。
やはり、私の小説の死に乙女ゲーム(序章部分)のネタバレが満載なので、あらかじめご了承下さい。
●ゲームバランスが不安定
……もしゲームカタログwikiに記事が書かれた場合、評価欄に↑のような評価が下される事でしょう。
小説としてのテンポを優先した結果、(基本的には)1話・2000文字前後と言うボリュームでボス戦に決着がついています。
プレイヤー側が秒殺されるのは良いとしても、ボス敵がおよそ三発から五発程度の攻撃で沈んでいると言うのは、ソウル系のそれとしては脆すぎます。
実際、ボス敵がこれだけ脆いと、倒した時の達成感もそれなりにしかなりません。
まぐれ勝ちで終わってしまう可能性も高くなります。
反面、エーヴェルハルト戦で、こちらの武器全てを破壊される(回避不能)と言うのは、あまりにもユーザーへの配慮がありません。
これが例えば“炎の勇者ファイムル”と言う、メーカーが定めた固定の主人公を操作するゲームなら、そのファイムルさんが武器を失っても制作側で抜け道を用意する事ができます。(※1)
しかし、元祖ソウルシリーズ同様、闇と光のキセキも、プレイヤーキャラクターを自由に作って育てる、キャラメイクの形式を取っています。
こうしたゲームでのキャラクターの育成方針を“ビルド”とも言うのですが、当然、プレイヤーがどんなビルドでエーヴェルハルトに挑むかはわかったものではありません。
大剣や鞭などの武器を愛用する人だって相当数居るでしょう。
しかもエーヴェルハルトは敵側の総大将であり、まともなルートで戦うと終盤にぶつかるボス敵です。
雑魚戦すら油断すれば、即、死の難易度。
何度も殺されて、やっとの思いで4人の大ボスや、その他大勢の中ボスを乗り越えた挙げ句に待っていたのが、それまでに愛用していた武器の剥奪。
(書いた私自身は)小説としては面白い展開だと思いますが、これを実際にプレイしろと言われたらたまったものではありません。
実際の抜け道としては、素手で戦うか、魔術で作った魔法剣などは武器破壊の対象外なので、それで武器を補填するかと言った所です。
しかし、対エーヴェルハルトだけのために慣れない素手での攻撃を新たに練習しなければならないのは多くの場合苦痛でしか無いでしょうし、愛用の武器を矜持としているロールプレイをしていた場合、その自由を阻害されています。
魔術を使うにしても、知力や理力(闇と光のキセキの場合は魔性)をある程度要求されるため、やはり自キャラのイメージを崩す事を強いられるでしょう。
闇と光のキセキでは「剣一本で戦う!」と言うロールプレイが許されず、しかも予備知識が無い場合、敵の総大将とぶつかってようやくそれに気付かされるのです。
実際、私が今やっているエルデンリングですら、大斧使いなどの重戦士が不利な傾向にあるらしく、また、解毒など(マップ次第では)必須の魔法も、戦士系で使うには装備で補うかステータスを妥協しなければなりません。
これらの事から「ビルドの自由度が阻害されている」とする不満のコメントが見受けられました。
この手のゲームにおけるパワーバランスと言うのは、戦士も魔術師も暗殺者も僧侶も、皆が納得出来るものにするのはほぼ不可能です。
それはしかし「あいつに比べて俺は不利」と言う相対的な問題に過ぎず、大抵はどんなビルドでも、ストーリーのクリアは可能になっているものです。(※2)
もう一つ、大ボスの中でも「あらゆる武器・流派を極めた」と言う騎士・マイルズの存在です。
参考までに、私が今、プレイしているエルデンリングにおける武器種(弓矢ボウガン含む&杖等の魔法触媒は除く&盾も除く)
これが28種あります。
私の中のイメージ的にも、闇と光のキセキにはそれくらいの種類が存在しています。
ここではキリよく30種としておきましょう。
これがゲームと言う媒体で表現された場合、どうなるのか。
マイルズと遭遇した場合、最低でも30種類のボス敵のどれが出現するのか、わからない事と同義なのです。
納期に間に合いません。もしくは、モーションを作るプログラマが過労で死にます。(※3)
しかもマイルズは、上記のエーヴェルハルト(味方の武器まで壊れてしまう)との共闘も想定して、無手での格闘技も極めています。
それも、小説内で描写しただけでも、ボクシングのような打撃系・柔道のような投げ技・果てはサブミッションのような関節技まで有しています。
基本的に、死にゲーと言うのは初見での撃破こそ困難ではありますが、同じ強敵に何度も挑む事でパターンを覚えれば、いつかはそれが報われるように出来ています。
はじめは手も足も出なかった相手を、ノーダメージで勝利する事も可能となる。
その達成感こそがジャンルそのものの肝である中で、マイルズのようなボス敵が出てきたらどうなるのか。
理論上、完全制覇は不可能ではありません。
ただ、通常のボス敵の30倍の苦労をして全てを見切るか、確率n/30(n=覚えたパターン数)で自分の得意なパターンを引くまで殺されまくるか。
しかも、覚えたからと言って、操作するのは人間なので必ず勝てる保証もない。
……と言う、ストレスフルな事になってしまうのです。
更に更に駄目押しで悪い事に、このゲームには何と“キャラロスト”があります。
作ったキャラが完全に死に、データが消去されます。
その条件は、死亡時の所持エーテル(ソウル)が、復活に必要な量を下回った時。
ソウルシリーズですら、そこまで鬼ではありません。全額を失うだけであり、キャラクターが消えるなど絶対にありません。
裏を返せば「エーテルさえ足りていれば何度でも生き返れる」事でもあるのですが……その為に稼ぎを強いられる事になります。
当然ですが、復活に必要なエーテル量はキャラのレベルに比例するので、後半になるほど挽回がつらくなります。
反復が基本の死にゲーで、このリトライ性の悪さは嫌がらせとしか思えません。
●システムとシナリオのミスマッチ感
作中では、乙女ゲームを作っていたメーカーが死にゲーを組み合わせようと思い立った結果が、闇と光のキセキでした。
私が知る限りでは「シナリオは外注」と言うパターンはあったのですが……この場合は死にゲー部分の「バトル等のシステムを外注」した可能性が高いでしょう。
もちろん、自社でどちらのジャンルもノウハウがあったと言う可能性もゼロではありませんが……。
当たり前かも知れませんが、闇と光のキセキは、システムとシナリオが見事に噛み合っていません。
まず、マーケティングの問題。
乙女ゲームのユーザー層に死にゲーが売れるのか……と言う点については、キャラデザインやシナリオが受ければ充分に可能性があると、作中では結論づけています。
その結果が、ゲームクリアまで粘った主人公なので。
問題はその逆。
死にゲーのユーザー層が、闇と光のキセキを買うかと言うと……前述の滅茶苦茶なゲームバランスもあり、まず売れないでしょう。
エーヴェルハルト戦やマイルズ戦のクソゲー振りが、一周回ってカルトな人気を呼ぶかも知れませんが……行き着く先はどちらかと言えばKOTY(クソゲーオブザイヤー)の方かと思われます。
作中の世界は死にゲーが大ブームとなった設定であり、戦国時代・学園もの・海賊もの……そして、ソウルシリーズなどにも続編が出続けている筈なので、乙女ゲームを知らない層が強いて乙女死にゲーを選ぶ理由がありません。
しかも、これは私の悪ノリもあったのですが“致命の一撃”で、聖女がローリングソバットだのフランケンシュタイナーだのをナチュラルに繰り出す乙女ゲームなど、誰がやりたがるものなのか。
恐らく、CGのモーションやバトルシステムを担当した外注先が、シナリオは乙女ゲームである事を全く考慮しなかったのだと思われます。
これに関しては、一概に外注先を責められないとは思いますが。
仮にダークソウルのフロム・ソフトウェア社が「シナリオだけ乙女ゲームのそれを作れ」と言われたとして、どうしろと言うのか。
ダークソウル、ブラッドボーン、エルデンリングと、同社のシリーズ同士を見比べてみると、キャラクターの基本的な挙動やゲームシステムと言うのは根幹では似通っています。
私も齧った程度でしかないのですが、システムやプログラミングと言うのは、作ったそれを“資産”として別の場面でも用いる事がほとんどでしょう。
そして、死にゲーのシステムと乙女ゲームのシナリオを融合させた
結局、“教化”と言う名の人格改造と言う無理を通さざるを得ません。(※4)
これに関しては、賛否両論と言う形に落ち着くかな? と思います。
ペルソナ5の“改心”(※5)などは、問題解決としては些か乱暴に感じられますが、世間ではそれほど問題視されていないように思われます。
(私も、十二分な量の世論を調べたわけではありませんが)
特に闇と光のキセキの場合、そもそもジャンルの組み合わせ自体が不条理そのものであり、ネタとして本気にされない可能性が高いと思います。
それが「そう言うものだ」と受け入れられる素地になるのでは、と。
(※1)
固有の設定があるプレイヤーキャラであれば、武器がなくても炎の魔法も得意・素手での格闘にも心得があると言う設定も事前に付与しやすい筈です。
(※2)
通常、これで問題とされるのはプレイヤー同士の対戦です。
これに関しては「対戦に適した育成を行う」か「そもそも対戦には手を出さない」自由があります。
(※3)
もちろん、他の敵キャラやプレイヤーのモーションを使い回したり、武器1種類ごとのモーションを少なくすると言う手もあるでしょう。
それにしてもマイルズ一人のために敵キャラ30体分のパターンを作るのは大仕事どころの騒ぎではありません。
(※4)
これが格闘技の試合や学校での喧嘩など、勝敗に命をかけない形式の戦いであれば、
「なかなかやるな!」
「君こそ!」
と言う馴れ初めもあるのでしょうが、死にゲーとなるとガチの実戦……文字通りの死闘となるのでそれは不自然すぎます。
6人のうち1人が、そう言う戦闘狂だったのならまだしも、これが全員となると……。
(※5)
パワハラ教師や悪徳政治家などの精神世界に侵入し、その欲望の“核”となる品物を盗み取る事で、悪の心を(ある種物理的に)取り除くやり方です。
その行為を糾弾するライバルは居ましたし、序盤では主人公達も躊躇していましたが、身体的に何ら害が無いとわかるとその躊躇も見られなくなりました。
後に主人公達へ手痛いしっぺ返しが来た理由も、その行為に対してと言うよりは、勝ち続けて慢心していた事の報いとされていた印象です。
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