ファンタジーあるあるを一々疑いながら書いてみる

 例によって、自作品で微妙にセオリーを外した表現を並べていきます。


●魔法使いは軽装

 魔法使いは、肉弾戦を専門とする戦士とは対極の、頭脳労働。つまり、本人は非力とされがちです。

 およそ近年のファンタジーにおける魔法使い像とは、ローブ姿で武器も軽いものでしょう。

 しかし、非力であると言う事は、近接戦闘の戦力にはならない。また、魔法の射程にもよりますが、固定砲台のようなものだと考えると、身軽さはあまり求められないとも言えます。

 そして、本人の筋力や体力との相談にもなりますが、魔法使いこそ甲冑を着込んだ方が生存力が上がる場合もあるのでは? と思います。


●魔法使いは手札が多いほど強いか?

 これについては、マジクックと邪聖剣チェンソーと言う、直近の二作で正反対の事を書いています。

 前者では、火水木金土光闇毒雷etcetc...あらゆる属性の攻撃魔法をマスターした人物を最強の魔法使いとしています。

 素直に考えれば、こちらが正解だとは思います。

 しかし、邪聖剣チェンソーでは一転して、そうした人物は地力不足を手札の数で補っているにすぎないとしています。

 威力不足と言っても最強のエルフと比較しての話であり、恐らく前者の最強魔法使いと同等くらいの筈なのですが……。

 結局の所、相対的なパワーバランスに依ると思われます。

 前者の場合は、その世界で最強の威力の魔法を全属性揃えており、

 後者の場合は、更に桁違いの光属性使いが存在する為に、二番手以下に落ちています。

 その魔法使いの、相対的な立ち位置によって、スペシャリストが最適解なのか、オールラウンダーが最適解なのか、がらりと変わってしまうようです。

 自分で書いていて、面白い矛盾が見られました。

 

●ダンジョンは必ず正面から攻略しなければならない

 子供の頃、ゲームをしていて度々空想していた事です。

 外から建物だとか洞窟ごと、魔法で爆破すれば良いのに、と。

 目的がボスの生死を問わない場合、デストラップ満載のダンジョンを律儀に攻略する義理は無いと思います。

 特に邪聖剣チェンソーにおいて、度々主人公に言わせていたのですが、現実はテレビゲームではないのです。

 こうしたファンタジー世界での戦いとは、いかに自分のルールやペースに乗るか。相手のそれらに乗らないか、と言う側面もあるかと思います。

 ダンジョン編においても「リアルゲームであって、テレビゲームではない」と度々言わせてあります。


●レベルは順々に上がっていく(敵・味方ともに)

 敵は元より、味方(となり得る人達)も、悠長に主人公の成長など待ってはくれません。

 邪聖剣チェーンソーの本編・ダンジョン編ともに、新しい世界で自身のレベルを序盤でマックスにまで鍛えています。

 命が一つしかない現実において、基礎スペックをカンストさせるくらいで、ようやくスタートラインに立てたかどうか、と言った所では無いでしょうか。

 仮に私がダークソウルやブラッドボーンの世界にでも転移したとして、全ステータスを99(カンスト)にして最強装備を揃えてでさえ、戦うのは嫌です。

 パーティという、運命共同体となるものに勧誘されたいのであればなおの事、駆け出しの自分を売り込む事は困難である筈です。

 

 よく言われる身も蓋もない話ですが、

 敵も敵で、勇者が旅立った直後に終盤のボスモンスターでも送り込むくらいの事をして、初めて最善を尽くしたと評価出来るのでは無いでしょうか。

 実際、ドラクエ(特に4)では、意外と魔王側がそれに近い事をして頑張っています。

 勿論、その上で失敗に終わるわけですが。

 

 後になるほど敵が強くなると言うゲーム要素に巧い解を示したのが、セラフィックブルーと言うフリーゲームでした。

 その物語では、12体のボスモンスターが星に巣食い、エネルギーを吸い上げる事で力を得ていました。

 つまり最初は一個体に供給されるエネルギー量はたったの1/12であり、主人公達によって1体倒されるごとに残されたボスへ供給されるエネルギーが増えていく……そして最終的に、星のエネルギーを一人占めした、一番強い状態のボスと戦うことになる、と。

 

 あと、このゲームについてはもう一つ面白い設定が。

 お店で売っている武具は全世界どこでも共通であり、場所が変わっても品揃えは全く同じです。

 辺境の村であろうが、都心部であろうが。

 ならばどうやって強い装備を新調するかと言うと、物語の進行度合いに応じて、その「世界共通で流通している装備の品揃えがバージョンアップされる」仕組みになっています。

 つまり、作中の時間経過によって、世界中に流通している“ブロンズソード”が“シルバーソード”に一新されるわけです。(※1)


●“魔界”は物語上、必ず重要なスポットである

 例えば、地球上のサン・ピエトロ大聖堂、あるいはヒマラヤ山脈のエベレストなどは、それは最重要の場所と言って良いでしょう。

 しかし、そこを人生の最重要ポイントとする人の方が現実には少数派でしょう。

 大半は、せいぜいが観光で訪れる機会があるかどうか、と言った関係性の筈です。

 主人公の人生に関わりが無ければ、魔界があったとしてもその程度の存在です。

 邪聖剣チェーンソーにおいては、エルフが使う薬草と“悪魔”と言う名の現住生物の、単なる産地以上でも以下でも無い扱いです。

 勿論、薬草も悪魔も、資源として必要とする人にとっては強大な存在ではあります。

 最初に場所があって、人にとっての意義が生じ得るのであって、人にとっての意義を生じさせるために場所が創られるわけではない……と、自分でも言っててややこしい考えです。


 

 恐らく、これらの「セオリーに対する疑問」と言うのは、マジクックやチェーンソーと言う作品だからこそ、それぞれに浮かび、状況に当て嵌まった設定なのだと思います。

 根幹の書きたいものが決まり“いつもの”ファンタジー要素を書く前に、少し立ち止まってみると、意外と搦め手が浮かんだりするものだと思います。


(※1)

 ここで言う“ブロンズ”とは、材質ではなくブランドの等級名であると言うのが、また巧いポイントだと思います。

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