ふみしだかれる植物

Meg

ふみしだかれる植物

 ある国に、色とりどりの顔花が、たくさん咲く花畑がありました。

 ヒルガオ、カキツバタ、オモダカ、ムクゲ、アサガオ、シャクヤク、そのほか。

 顔花たちは、毎日青空の下で日光浴をしながら、他愛のないおしゃべりをします。

 そのなかに、ひっこみじあんのアサガオがいました。こころねがやさしくおだやかでしたが、気がよわく、ほかの顔花たちに嫌われ、仲間はずれにされるのを常におそれていました。

 アサガオは仲間の機嫌をそこねないよう、でしゃばったり、ほかの顔花のことを悪く言ったりしませんでした。

 おかげで顔花たちは、アサガオのことをいじめたり、のけものにしたりすることは、決してありませんでした。

 

 

 あるとき、人間の王さまが花畑をとおりかかり、大層気にいられたので、王家の花園にされることを望みました。

 大勢の人間の庭師たちがよこされ、花畑が人の手で整えられました。花畑がみめよくなるよう、よけいな花や葉はちぎられ、雑草はひっこぬかれ、除草剤がまかれました。顔花たちは時々、足元に注意がいかない人間の庭師たちに踏まれました。

 当然、顔花たちはいやがります。彼女たちは、ちぎられたり除草剤をまかれたりふまれたりしたら、かならずかなきり声をあげ、人間に抗議しました。

 ですが、少なくない顔花が、雑草はもっとひどい思いをしているし、つらいことはどこに生まれたってあるからと、庭師たちの所業に甘んじました。

 そういう顔花たちは、金切り声で人間に反抗する仲間を軽蔑し、甘えていると罵りました。

 幸か不幸か、アサガオのまわりは、たまたまそんな顔花が多かったのです。そこで、人間からどんな扱いをされても、ニコニコしてずっと黙っていました。それにアサガオは、まわりの顔花にはもちろん、人間にも嫌われたくはありません。

 身をちぎられ、激しい痛みがあっても、除草剤をまかれ息ができなくなっても、何人もの人間にふみしだかれ、苦痛と屈辱をおぼえても、我慢して我慢して我慢して、耐えて忍んでなにも言いませんでした。

 

 

 はじめ、人間は、ほかの顔花たちとはちがって反抗せず、黙ってニコニコするアサガオをとてもかわいがりました。

 ですが、次第にこのアサガオは怒らないから、なにをしても平気だと思うようになりました。いいえ、思いさえしなくなったのかもしれません。

 人間は、苦労しないで簡単に手に入るものは、簡単に軽んじます。アサガオは、かれらにとって取るにたらない存在になっていきました。平気でその身をブチブチとちぎり、除草剤をまき、ふみしだきました。



 かなきり声をあげる顔花たちはといえば。

 はじめこそ人間たちはうるさがっていましたが、自己主張がわかりやすいので、ちぎったり、除草剤をまいたり、ふみつけたら、痛みをおぼえたり、苦しんだり悲しむのに気づき始めました。

 さらに、彼女たちを大切にすると、あふれんばかりの美しさと優しさを、ふりまいてくれるのもおぼえました。

 人間たちは、自分たちの気遣いの苦労の末に見せつけられる、その褒美のとりことなり、彼女たちに怒られ、嫌われることを、恐れるようになりました。

 そういう顔花たちは、アサガオとは違い、大事にされるようになりました。

 小さな柵も作ってもらい、自然と守られるようにすらなりました。

 

 

 ある晴れた日のこと、アサガオはカサカサに枯れてしまいました。

 人間たちは庭の整備のために、くしゃりくしゃりと枯れたアサガオをふみしだきます。アサガオの花も茎もこなごなになりました。

 人間は自分たちが手塩にかけてそだてた、鮮やかにさく顔花たちとのおしゃべりに夢中で、かつてかわいがったアサガオが、こなごなになっているのを、だれも気にもとめませんでした。

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