第4話

彼が来た翌々日が休日だったため、壊れたという車を確認しに家の裏に向かった。草木の緑の中にぽつんと白が見える。彼が言っていたように白いミニバンが無造作に置かれているのが見えた。


彼から故障した話を聞いたとき、本当は車が壊れたわけではなく、ぬかるんだ地面にタイヤが空回りしたといったような外的理由が原因ではないかと考えていた。あの時間帯では動きようがなかったが。そうなら、自分でどうにかできるかもしれないと預かったキーを片手に近くまでいくと生ごみのような、生臭いにおいがどこからか匂った。しばらく周辺を歩いたが、どうやらこの車の中から匂うようだった。預かったキーで開けると、確かに車の中から強い腐臭がした。


発生源を探すため、全てのドアを開け放って確認する。前席後席を一通り確認したが、ドアを開け放ったおかげか臭いは薄くなった。どうやらここではないようである。トランクも確認しようと車の後ろ側に向かい、持ち手を引き上げた瞬間、その匂いが強くなった。上げきった瞬間に視野に入ってきたのは、ごみ袋の中の人間の顔だった。



それを覆う不透明なビニール袋を開けて、中を確かめる考えは思い浮かばなかった。

トランクを閉じ、全てのドアを閉め、車にカギをかけると誰に見られるわけでもないのに走って家に帰った。


頭の中では、あの晩の駅までの送り道で彼とした話と薄い黄色のごみ袋の中から除いた子供の顔の残像が駆け巡っていた。




娘が6歳になったと話していた彼の少し微笑んだ顔が頭の中で歪んでいく。明らかにその娘と同じくらいの子供であった、俺が見たのは。少女は薄いポリ袋に囲われて、トランクに横たわっていた。顔ははっきりと認識しなかった。だが、髪の長さと着ている服と身長から考えると同じ年代の女の子で間違いないだろう。




蛇口からコップに水を入れ、一気に飲み干す。夏でもないのに汗と動悸が止まらなかった。運動不足が原因でないのは明瞭だった。


彼と話をしなければならない、持ち主が何も知らないわけがない。もはや、彼はわかっていてここに持ち込んだのだ。個人の連絡先はしらないが、会社に電話すれば繋がるだろうとスマホのネットでかつての会社名を検索すると、一つのニュースが検索のトップに挙がってきた。


ーーーーー


1月24日(日)正午


―――――――――――――――――


―――――――――――――――――


○△会社在籍の狭山豪(42)さんとその妻、狭山葉月(34)の遺体が発見された。警察の調べでは自殺した模様。


尚、子どもの狭山双葉(6)は行方不明とのこと。


―――――――――――――――――


ーーーーー




どこに連絡すればいいのか、スマホを閉じるとそのまま座り込んで頭を抱えた。


何故、彼はここに持ち込んだのか、あの子供を。娘であるなら、どうして殺したのか。そして彼は何故死んだのか。


何故、俺がこんなことに巻き込まれているのか。




理由を知る人間はもういないのだ、死んだのなら。彼は何も俺に残さず、死んでいった。


ほんの数日前に話をした人間が死に、自分の家の敷地内には遺体が横たわっているこの状況をどう受け止めればいいのか。気づくと、時計の針は、出かけた時間の4時間後の数字を指していた。どのくらい床に座り込んでいたのか。床の冷たさが移ったのか、手足が青白く見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る