第21話 百二十八倍の攻撃魔法
「≪ためる≫……≪ためる≫」
二段階、三段階と魔力を溜めつつ、これまでと同様に、迫り来る魔物を捌いていく。
三秒が経過し、再びスキルを発動させて四段回目まで溜めたものの、そろそろ魔法無しで大量の魔物を倒すのが厳しくなってきた。
一度、現在の四段階目――十六倍の範囲魔法で魔物たちを蹴散らし、体勢を整えるか?
しかし……同じ四段階目まで溜めるのに、合計で十秒を要し、結局今と同じ状況に戻ってしまうのがオチだ。
「≪ためる≫……ぐっ!」
五段階目まで溜めたものの、流石にもう俺の剣では捌き切れず、魔物の攻撃を受けてしまった。
それを好機と見たのか、他の魔物たちも一斉に飛び掛かって来る。
マズい……まだ、あと三秒は魔法が使えないっ!
「はぁっ!」
師匠へ攻撃する前に、周囲の魔物によって俺がやられる……そう思った所で、目の前に迫って来ていた魔物が、他の魔物を巻き込んで盛大に吹き飛んで行った。
「アリスちゃん!? あ、ありがとう」
「ライリー君。その溜めた魔力……やっぱりお父さんを攻撃するんですか!?」
「うん……だけど、アリスちゃんは絶対に悲しませない!」
「それは……ライリー君が私の傍に、居てくれる……から?」
「それもあるけど、別の理由もあって……今は言えないけど、俺を信じて欲しい」
ここでアリスちゃんに説明して、内容を師匠に聞かれてしまった場合、どういう行動を取るか予想できない。
だから、アリスちゃんに俺の策を信じてもらう他ないんだ!
戦いの最中だけど、ジッとアリスちゃんの目を見つめていると、
「……ライリー君。私、ワガママを言っても良いですか?」
「アリスちゃんは、俺の奥さんになってもらう予定だからね。ワガママの一つや二つや三つ……幾らでも言って良いよ」
「私は……ライリー君とずっと一緒に居たいし、お父さんとも――家族とこれ以上別れたくないですっ!」
「大丈夫。俺を信じてくれれば、アリスちゃんの可愛いワガママなんて、俺が軽く叶えてみせるっ!」
「……ライリー君、信じて良いんですよね?」
「もちろんだっ! ……≪ためる≫っ!」
六段階目の――六十四倍まで来た。
あと一回溜めて、「溜め」の時間が経過すれば、七段階目――百二十八倍となる攻撃魔法が放てる。
必要な時間は、六段階目の六秒と七段階目の七秒……合わせて、十三秒だ。
この無限に湧き続ける魔物の大群から、一人で十三秒耐えるのは大変だけど、今はアリスちゃんが居る。
アリスちゃんがいつも通りの動きになったから、手に取るように行動が分かるので、息を合わせて魔物を捌いていく。
「≪ためる≫! ……アリスちゃん、あと七秒だけ頼むっ!」
「はいっ! 分かりましたっ!」
「いいぞ! 今のライリーが内に秘める魔力の大きさは、魔王である俺の魔力を凌駕している。早くそれを俺に……そ、そろそろ俺も、魔王のスキルに抗う力が……」
残り五秒という所で、師匠の声が途絶えた。
その直後、今まで師匠から感じた事の無い、物凄い殺気と膨大な魔力が溢れ出てくる。
「お、お父さんっ!?」
「おそらく師匠の言っていた、魔王の≪自動戦闘≫スキルの力だ! ここから、師匠も攻撃してく……ぐはっ!」
「ライリー君っ!?」
残りはたったの三秒。
だというのに、突然師匠の姿が消えたかと思うと、俺の目の前に現れて思いっきり腹を殴られ、吹き飛ばされる。
この近距離を転移魔法で詰めて来るのか!? それに、素手で殴られただけだというのに、こんな威力が……。
幸い、高度な転移魔法の直後に攻撃魔法は使えないようだが、それでもこんな攻撃、避けられる訳が無い。
それに、この転移魔法で俺の魔法が避けられたら……いや、絶対に攻撃を成功させるんだっ!
「お父さんっ! もう止めてっ!」
残りは一秒。
アリスちゃんが吹き飛ばされた倒れた俺に近寄ろうと、走って来るけど、そのせいで迫り来る魔物に背を向けてしまっている。
その背後に巨大な爪が迫っていて、アリスちゃんが切り裂かれてしまうっ!
「アリスちゃんっ! 避けてっ!」
「あっ……」
「えっ!? ……師匠っ!?」
魔王のスキルで動かされているはずの師匠が転移魔法でアリスちゃんの横に移動し、アリスちゃんを優しく横に押す。
魔物の爪が空を切り、振り向いた師匠は笑っているように見えた。
そして、残り零秒……
「雷撃っ!」
アリスちゃんが離れた所で、百二十八倍の攻撃魔法を師匠に放つ。
激しい光と衝撃と共に、通常よりも遥かに大きな雷魔法が師匠の身体全身を貫き……光が収まった後には、湧き出ていた魔物たちが全て消え、真っ黒な炭の塊となった師匠が倒れていた。
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