第20話 戦う理由
師匠の周りに現れた魔物たちが、アリスちゃん目掛けて飛び掛かる。
だけど、アリスちゃんは気付いているのか、いないのか……とにかく反応が鈍い!
「アリスちゃんっ!」
あと少しで、鋭い魔物の爪で引き裂かれてしまう! という所で、何とかアリスちゃんを抱き寄せ、
「風の結界!」
十六倍の防御魔法で、周囲の魔物を吹き飛ばす。
「ライリー君……ご、ごめんなさい」
「アリスちゃん。突然いろんな事があり過ぎて、混乱するのは分かるよ。だけど、周りを見て。俺たちは今、囲まれているんだ!」
「う、うん。だけど……」
「ほら、さっきの事を思い出して。アリスちゃんが動かないと、俺が襲っちゃうよ?」
そう言いながら、アリスちゃんのお尻を撫でてみたけど、怒ったりする訳でもなく、逃げる訳でもない。
相手が師匠――父親だからか?
気持ちはわかるけど、俺は師匠よりも、アリスちゃんを守る事を選ぶっ!
「≪ためる≫」
「ライリー君っ!?」
「そうだ! 魔力を溜め、魔法の威力を倍増させるんだ! 百倍まで膨れ上がったライリーの魔力ならば、この魔物たちもろとも、一撃で俺を倒す事が出来るだろう」
アリスちゃんが驚愕の表情と共に俺を見つめてくるけど、こればっかりは譲れない!
アリスちゃんに危害を加えようとする者は、例え師匠であっても許さないっ!
剣を抜き、アリスちゃんを守りながら、何度か魔力を溜めると、
「炎陣っ!」
再び十六倍の魔力で、周囲の魔物たちを焼き尽くす。
「アリス。ライリーが魔物を捌くので手一杯になっており、魔力が溜められないじゃないか。教えた通りに、ライリーを守るんだ」
「師匠。舐めないでください。俺はアリスちゃんに守ってもらうんじゃない! 俺がアリスちゃんを守るんだっ!」
剣と体術を駆使して、迫り来る魔物たちを捌き、今度は三十二倍の雷魔法を放って、師匠の側に居た魔物たちを黒焦げにする。
「どうした? 俺を倒してアリスを守るのだろう? 今のは貫通性のある魔法だ。どうして魔物と共に俺を攻撃しない」
「……どうしてだ。師匠……仮に奥さんを殺めてしまったとしても、アリスちゃんが居るじゃないか! どうして、アリスちゃんを残して死のうとするんだ! アリスちゃんはどうするんだっ!」
「何を今更……アリスにはお前が居るだろう。俺は良い弟子をとった。お前になら、アリスを任せられる」
「だが、それでも……」
虚勢を張っていたが、やはり俺には師匠を攻撃する事なんて出来ない。
師匠を攻撃せずにアリスちゃんを守る為、周囲の魔物を吹き飛ばしつつ、説得を試みるが、
「魔王だからだ」
師匠からは、よく分からない言葉が返って来た。
「どういう……意味だ?」
「もうすぐアリスは十六歳になる。魔族は十六歳で成人とみなされ、魔王の血縁が成人になると、後継者の候補となるのだ」
「つまり、アリスちゃんが他の魔族から狙われるって事か? だったら尚更、師匠が一緒に……」
「いや、魔王の血縁者は、自身を脅かす存在として、魔王のスキルが勝手に発動するようになってしまうのだ。つまり、これまではともに暮らしてきたが、アリスが十六歳になったら一緒に居られなくなる上に、他の魔族がアリスを狙うだろう」
「そんなの、どうしろって言うんだよっ!」
余りにも理不尽な魔族のルールに、思わず声を荒げると、
「だからこそ、俺が死ぬ必要があるのだ」
師匠がまたもや話を振り出しに戻す。
「まぁ聞け。現魔王である俺が死ぬと魔王の血によって、娘であるアリスに魔王のスキルが宿る。どんなスキルが身に着くかは分からないが、強力なスキルである事は間違いないだろう。そうすれば、アリスは俺が居なくても、自身を守る事が出来る。だから……」
「だから、お父さんと戦えと言うのですか!? そんなの、おかしいですっ!」
「アリス。今まで黙っていた俺が悪いのだが、分かってくれ。これがアリスを守る為に一番良いのだ」
「私は魔王のスキルなんて、無くても自分で身を守ります! それに、そもそも私は魔王になんてならなくて良いです!」
「アリスが魔王にならないと言ったところで、他の魔族は理解しない。それに、他の魔王の血族は、この前倒した魔族……アイツよりも数段強い! だから、アリスとライリーよ。俺が自動戦闘スキルに抗っている内に、俺を殺すんだっ!」
師匠とアリスちゃんが話している間、延々と湧き続ける魔物を倒し続けているけど、本来なら、ここに師匠自身の攻撃も加わるのだろう。
今の状態なら、まだ何とか溜める時間を稼げそうだが、ここに師匠の攻撃が加わったら、正直言ってかなり苦しい。
しかし、アリスちゃんは師匠を倒したくない……いや、もちろん俺もそうなんだけどさ。
「アリス……俺から妻だけでなく、愛するアリスまで奪わせないでくれ。頼む! 俺を殺すんだっ!」
「愛するアリス……師匠! 一つだけ聞かせてください。師匠はアリスちゃんの為を想って、死のうとしているんですよね?」
「当然だっ! それ以外に、何の理由が要る!」
「分かりました。そういう事なら、俺が……俺が師匠の願いを叶えてみせます!」
今にも泣きそうな顔で俺を見つめるアリスちゃんを抱きしめ、
「アリスちゃん。俺が生涯アリスちゃんを守る」
「で、でも……お父さんは……」
「大丈夫。俺を信じて欲しい……≪ためる≫っ!」
師匠を――魔王を倒す為に、俺は魔力を溜め始めた。
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