第18話 休息日

「ん……もう朝か。昨日はよく寝……た?」


 朝、目が覚めると、胸に何かが触れていた。

 それが何かと思って手を動かしてみると、サラサラとした細い糸の様な物が沢山……って、髪の毛!? というか、誰かの頭っ!? いや、誰かってアリスちゃんしか居ないだろっ!

 この前とは違ってアリスちゃんの部屋ではなく、今日は俺が使わせてもらっている部屋……つまりアリスちゃんから来たって事!?

 その事実に気付いて驚き、少し動いてしまったからか、俺の胸に顔を埋めて眠るアリスちゃんが目を覚ます。


「あ、ライリー君。おはようございます」

「お、おはよう。あ、あのアリスちゃん? ここ、俺の部屋なんだけど……あ、アレかな? 夜中にトイレに行って、部屋を間違えた的な……」

「あ、あの……昨日、沢山助けてもらいましたし、ライリー君が私の事を嫌いじゃないみたいですし、何より、私はライリー君の事が……す、好きなので、その、あ、愛してもらおうかと思って……」


 アリスちゃんが顔を真っ赤に染め、すっごい小声だったけど、今俺の事を好きって言ってくれたよね!?

 聞き間違いじゃないよね!?

 相思相愛だよねっ!?


「アリスちゃんっ! 良い……のかな?」

「は、はい。初めてなので、優しくしていただけると」

「アリスちゃん……」


 二人でベッドに寝転びながら、初めてのキスをして、その唇の柔らかさに感動していると、


「おーい、ライリー。アリスが居ないんだけど、お前の部屋で寝てるのかー?」


 部屋の外から師匠の声が……って、またこのパターンかよっ!

 くっ……昨日、爆睡してしまっていたのが、本当に悔やまれるっ!

 しかも、俺の部屋だからか、


「なんだ、やっぱりここだったのか。夜に散々二人でイチャイチャしているんだろ? 朝は普通に起きようぜ」


 師匠がノックもせずに入って来たーっ!


「もぉっ! お父さんっ!」

「はっはっは。孫を楽しみにしているぞ!」


 アリスちゃんがバッと俺から離れ、口を尖らせるけど、師匠は全く気にしていない。


「じゃあ、今から頑張るので、師匠は部屋から出てもらえますか?」

「おう、そうか。頑張れ……って、それは夜だけにしとけよ。いくら若いと言っても、身体がもたないぞ?」


 いや、だから、未だしてないんだよっ!

 内心で突っ込みつつ、今すぐするのは諦めて、着替える事に。

 アリスちゃんと二人で食堂へ行くと、


「さて、昨晩はお楽しみだったようだが、今日は休息日にしよう。英気を養い、明日……魔王を倒そう」

「えっ!? 師匠……魔王って、あの魔王ですかっ!?」

「あぁ、その魔王だ。アリスとライリー……二人が力を合わせれば、絶対に勝てる! 二人は愛し合った仲だし、互いを信じる事が出来れば勝てる! だが逆に言うと、少しでも相手を疑ってしまえば、負けてしまうだろう」

「師匠。俺がアリスちゃんを疑う訳が無いじゃないですかっ!」

「うむ。アリスも、ライリーの事を信じられるか? 例え、どれだけ残酷な事が起こっても」


 師匠が変な事を聞いているけど、


「私は……何があっても、ライリー君の事を信じます」


 アリスちゃんが大きく頷き、俺にくっついて来たからか、満足そうに微笑んでいた。

 ……このアリスちゃんの距離感は、やっぱりキスしたからかな?

 すっごく近いというか、手と手が触れ合い……というか、それ以上に胸が当たってるよ!?

 胸が大き過ぎるから!? くっつくと、必然的に胸が当たってしまうのっ!?


「さて、今日は休息日と言ったが、三人で旅行に行こうじゃないか。俺が転移魔法で良い場所へ連れて行ってやろう」

「おぉっ! 転移魔法で観光地巡りだなんて、凄いですね。時間をかけずに、いろんな所を見て回れるなんて」

「まぁな。ただ、転移魔法は術者が行った事のある場所しか行けないのが難点なんだがな。まぁそれでも、俺のオススメの場所ばかりだから、楽しめると思うぞ」


 そう言って、師匠が転移魔法を使うと、一瞬で視界が変わり、俺たちは雲の上に居た。


「師匠、凄いですね」

「だろう? ここは、空中庭園と呼ばれる場所だ。夜に来ると、地上の光が凄く綺麗で、物凄くロマンチックなんだぞ」

「師匠の口からロマンチックって……」

「ほっとけ。とりあえず、一度来た事があれば、いつかライリーが転移魔法を使えるようになった時、また来れるだろ? その時は、夜にアリスを連れて来てやれ」

「あぁ、なるほど。そうします」

「ただ、今は人が少ないが、夜は人が多い。いくら雰囲気が良いと言っても、こんな場所でヤらないようにな」

「何をですかっ! 流石に、俺も屋外でするような変態じゃないですよっ!」

「いや屋外は屋外で、開放的な気分になるし、盛り上がってしまったら……げふんげふん。いや、何でもない」


 師匠はアリスちゃんの前で何を言って……って、あれ? いつものアリスちゃんのツッコミが無い?


「アリスちゃん? どうかしたの?」

「えっ!? す、すみません。な、何でしたっけ?」

「あぁ、聞いていなければ良いんだよ。気にしないで」


 暫く、空からの景色を楽しんだ後、再び師匠が転移魔法を使い、今度は一転して海の底へ。

 巨大な風の結界が張られているのか、街の上を魚が泳いでいる。


「ここは海底都市だ。さっきの空中庭園もそうだが、普通に来ようと思ったら、かなりの時間を要する。ライリーには是非とも転移魔法を習得してもらいたいな」

「……ぜ、善処します」

「……お父さん、ここ……ううん。何でもない」


 さっきからアリスちゃんの様子がおかしいけど、一体どうしたのだろうか。

 ボーっとしている事が多くて、何かを思い出しているかのような様子だ。

 そして、次に師匠が連れて行ってくれた場所でも、アリスちゃんの様子は同じだった。


「……師匠。もしかして、ここってアリスちゃんが来た事ある場所なんですか?」

「……あぁ、そうだ。まだアリスの母親が生きていた頃……幼いアリスを連れ、三人で来ている場所だ」

「……なるほど」

「……ライリー。お前なら、きっと時空魔法を習得する事が出来るはずだ。いつか、お前とアリスと、その子供を連れて、来てやってくれ」


 そうして、暫くアリスちゃんの思い出の地――本人には言っていないけど――を巡った後、家に戻って来ると、


「アリス。今日は一日中この家に居るから、夕食はアリスの手料理にしてくれないか?」

「え? それは構いませんけど……」

「頼むよ。あと、出来ればアリスの一番得意な料理が良いな」

「それなら、グラタンですけど……一部材料を切らしているので、買いに行かないと」

「じゃあ、三人で行くか。父と娘夫婦で買い出しというのは初めてだしな。これも良い思い出だ」

「む、娘夫婦って……す、少し気が早いですよっ!」


 気が早いのは少しだけなんだ……と、アリスちゃんの発言を少し嬉しく思いつつ、三人で買い物へ。

 帰り道で、微妙に知っている人から絡まれたけど、特に問題無く帰宅し、アリスちゃんの手料理を食べる。

 そして、いよいよアリスちゃんとのキスの続き……と思ったのだが、師匠が今夜は父娘水入らずで過ごしたいと言い、アリスちゃんとのキスの続きが出来なかった。

 毎晩しているんだから、今日くらい良いだろ? って言うけど……俺とアリスちゃんは、これからなんだよっ!

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