第11話 何かを期待するアリス?

「ただいま」

「どぅわっ! は、早いですね。師匠が出て行ってから、数分しか経ってないんですけど」


 師匠がアリスちゃんとイチャイチャするように……なんて指示を出して行ったので、二人で困惑しながら、とりあえず手を繋いでみたところで師匠が帰ってきた。

 俺もアリスちゃんも、顔を真っ赤に染めながら、凄い勢いで離れた所で、


「あぁ、すぐ話がついたからな。これでライリーが魔道士になったのと、ついでにアリスを含めて二人を冒険者ギルドに登録しておいた」

「魔道士の話はマジなんですね。というか、冒険者ギルド……って、どういう事ですか?」

「うむ。これからは、朝に修行を行い、昼からは冒険者として活動してもらおうと思ってな。いきなり魔王に挑むよりも、先ずは練習した方が良いだろ?」


 師匠が想定外の話をしてくる。

 冒険者といえば、魔物退治や要人の護衛に、未知のダンジョンの探索など、危険な仕事を担う代わりに、対価を得る職業だ。

 だけど、魔物退治はともかくとして、護衛や探索なんてやった事がないんだけど。


「とりあえず、冒険者の話は後だ。先ずはアリスとライリーの連携を強化していくぞ。ライリー、これから俺が言う事をしっかり頭に刻み込むんだ」

「は、はい」

「先ず、その一。アリスはピンク色が好きだ」

「アリスちゃんはピンク色が好き……と」

「次に、アリスの好きな食べ物はイチゴだ」

「アリスちゃんの好きな食べ物はイチゴ……って、これは何の話ですか?」

「アリスの恋人になってもらう為に、先ずはアリスの事をよく知ってもらおうと思ってな」


 まぁアリスちゃんの好きな色とか食べ物は、知っていて損はしない気もするけど、これって直接アリスちゃんに聞けば良い話では?


「あの、お父さん。私、ピンクより水色の方が好きなんですけど」

「えっ!? でも、アリスの持ってる下着って、ピンク色が多くないか?」

「それは……って、どうしてお父さんが、私の下着の事を知っているんですかっ!」

「ふっ……俺は父親だからな。アリスの持っている下着の半数がピンクで、残りは白と水色だと言う事はもちろん把握しているっ!」

「お父さん……」

「あ、でも一つだけ黒色のがあるよな。あれはちょっと背伸びし過ぎじゃないか?」

「お、父、さ、ん?」


 やべぇ! アリスちゃんがめちゃくちゃ怒っているんだけど!

 しかも、師匠が何かを思い出すように、目を閉じてうんうん頷いていて、アリスちゃんの様子に気付いてない!?


「そうそう。あれは俺好みだったぞ。あの白と水色の縞々パン……」

「それ以上、言うのはやめてっ!」

「ストップ! アリスちゃん、気持ちは分かるけど、落ち着いて! 関節技は師匠を喜ばせるだけだからっ!」


 顔を真っ赤にしたアリスちゃんが、何をしようとしたのか察したので、咄嗟にアリスちゃんの前に立ち塞がる。


「ライリー君、離してください! あと、さっきのお父さんの話は忘れてくださいっ!」


 いや、別に師匠を守ろうって訳じゃなくて、アリスちゃんの関節技は、師匠にとっても俺にとっても、ただのご褒美だからね。

 アリスちゃんを困らせている師匠を喜ばせたくない一心でアリスちゃんを止めていると、


「おっ! 何か知らないが、気付いたらアリスとライリーが抱き合っているじゃないか。やるな、ライリー」

「お父さんっ! また訳の分からない事を言って……あ、あれ!? でも、確かに前へ進もうとして、ライリー君に止められて、結果的に私から胸の中へ飛び込んで……ち、違うんですっ! これは、お父さんを止めようとしただけで……」


 師匠の言葉でアリスちゃんが俺の腕の中に居る事に気付いたらしく、どんどん顔が赤くなって行く。


「よしっ! ライリー! そこでギュッと強く抱きしめ、多少強引でも良いからアリスにキスだっ!」

「いや、しませんよっ! 何度でも言いますけど、俺はアリスちゃんの嫌がるような事はしませんからっ!」

「大丈夫だ。俺が許す! あと、俺の考えでは、アリスは強引に引っ張ってくれる男の方が良いはずだっ! 見てみろ、アリスの顔をっ! 怒ったふりをしながらも、何か期待して目をキラキラと輝かせているではないかっ!」

「師匠、期待って……そんな事ばっかり言っていると、ますますアリスちゃんが怒りま……」


 あ、あれ? 俺の胸にくっつくアリスちゃんに目を向けると、ジッと俺を見つめている。

 というか密着しているから、大きなおっぱいがムニムニ押し付けられているし、アリスちゃんから良い香りがしてくるし……こ、これって師匠が言うようにキスを待っているのか!?

 改めてアリスちゃん顔を見てみると、本当に可愛い。

 その中で、小さな唇が凄く柔らかそうで、触れてみたいという気持ちが込み上げてくる。

 アリスちゃんが何かを待っているようにも思えるけど、それって俺を――俺のキスを……いいの!? いいのかな!? しちゃうよ!?

 俺の視界にアリスちゃんしか映らなくなった所で、


「そうだっ! いけっ! そこでブチュっと! 男を見せろっ!」

「……って、師匠は何をしているんですかっ!」

「お……お父さんっ! 本当に変な事――私の下着の話をライリー君にするのは止めてくださいっ!」


 すぐ傍で謎の応援をする師匠に気付き、大慌てでアリスちゃんを離す。


「あれ? どうしてそこまでしておいて、何もしないんだ? ……もしかして、ライリーってヘタレ?」


 師匠がすぐ傍で、ニヤニヤしながら見ているからだよっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る